ふざけんなぁ!! 9(続いてます)
歌を忘れたカナリアは? 2
翌日、帝人は静雄を喜ばせる為にと企画した筈の、とても濃いコスプレカラオケバトルで自爆した。
己は白い水着姿で貧乳を晒す羽目となり、静雄だってまさかのチビまる子姿だ。
異様な盛り上がりを見せる門田達ワゴンメンバーと裏腹に、二人とも、二度と思い出したくも無い黒歴史を心に刻み付けた。
だが、がっくり肩を落としつつ帰りがけ、静雄は露西亜寿司ののれんを潜り、幽への夜食用にと握り1.5人前、猫ちゃん用にマグロのカマ部分をお土産に購入するあたり、流石弟思いの優しい男。
だが、事件はその日の深夜に起こった。
日付が変わる寸前のTVニュースにて、緊急特報が入ったのだ。
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《6日前、ハリウッドにて突如行方不明となった羽島幽平の、映画降板理由がとうとう判明いたしました。いつもスタントを使わない彼は、自らハンドルを握ってカーチェイスを行い、クラッシュ事故を起こしてました!!
姿を見せないのも当然で、皮膚移植が必要な大火傷を負った模様。
緊急搬送された病院から、更に別場所に移され、……現在、芸能界復帰も危ぶまれております!!》
TVのリポーターのかしましい解説後に流れた事故の映像は酷かった。
下り坂、悠々とカーブにドリフトで突っ込んできた彼の車は、右後部のタイヤのゴムがアスファルトとの摩擦に負け、いかれてバーストしたのだろう、唐突にパァーンと鼓膜をつく破裂音が鳴った。
直後、車は甲高い音をたててスリップし、蛇行状態となる。
帝人も静雄も息を飲み、食い入るように画面を見つめた。
ガードレールの向こうは崖、スピードもかなり出ているし、転落すれば命はない。
幽もそれだけは避けようとし、力一杯ハンドルを内側に切ったのだろう。
急激な前輪への命令に、不安定で勢いついた鉄の塊は、あっさりと宙に浮いて横転を開始した
道路に叩きつけられ、惨い音が二度三度と鳴る度、高級車はひしゃげ、破片を撒き散らしながらスクラップになっていった。
そして車の勢いが衰えたかと思いきや、ついに爆発しやがって。
なのに幽はまだ車内にいて、飛び出してくる気配もない。
スタッフと待機していたレスキューが、ようやっと停止した炎上する車に駆け寄り、何本もの消火液を浴びせていた。
白い液体にまみれた彼が、救い出されたのは火が完全に消えた後で。
彼は担架に乗せられた後、到着したドクターヘリに収納され、そのまま何処かへ運ばれていった。
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「………ちょっとぉぉぉぉ、幽さぁぁぁん………」
ぐるりんと振り返った、八の字眉毛の帝人のぼやきも何のその。
静雄の額にだって、血管がぴきぴきと浮かんでいるというのに、当の本人は、半分寝ぼけた眼のまま、もっきゅもっきゅと、寿司を頬張り続けている。
「てぇめぇぇぇぇ、何が時差ぼけで昼夜逆転してるだぁぁぁ? 嘘ばっか言いやがって、見せてみろよゴラぁぁぁぁ!!」
弟の首根っこを引っ掴み、紺色パジャマの襟から上半身を一気に力技で引き裂いた。
狩沢が今ここにいれば、『ボーイズラブ♪ 近親相姦♪ 強姦シーン♪ きゃぁぁぁぁ♪』とかはしゃぎそうな、美形二人のシチュエーションだが、勿論、今の帝人にそんな揶揄を飛ばす度胸はない。
黒いタンクトップの下は真っ白い包帯が幾重にも巻かれていたのだが、膿で黄色く所々変色している。
それも静雄が引き千切って剥ぎ取れば、背中は惨々たる有様だ。
赤黒いケロイド状になった皮膚、しかも膿が酷くて、ライトの下ではデロデロに光り、湿り気を帯びている。
彼が香水で誤魔化していた腐臭もばれ、静雄の額の血管が益々倍増した。
「今直ぐ来良総合病院へ行け!!」
「マスコミが煩いからヤダ。解熱剤と抗生物質ならきちんと飲んでいる。どうせ背中と腕だけだし、皮膚移植するかもまだ迷ってる。だから今は静かに寝ていたい」
「ふざけんなてめぇ!! 俺じゃあるまいし、そんなんでその怪我が治るかぁぁぁ!!」
思い通りにならないイライラに、我慢できない静雄の握った拳が振り被られる。
ヤバイ!!
今度は帝人が慌てて静雄の腰にしがみ付いた。
「静雄さん、幽さんは怪我人なんですから落ち着いて!! そうだ!! 新羅先生なら優秀なお医者様なんですし!! セルティさんに頼んで配達していただきましょう!! 弟さんの危機ですよ。今、静雄さんがしっかりしなくてどうするんですか? 貴方はたった一人のお兄さんなんですよぉぉぉぉ!!」
焦ってた分、日本語が変になったが、怒れる魔神は少し落ち着きを取り戻したようだ。
流石、弟LOVE。
「あー、判った。ちょっと待ってろ」
直ぐに新羅の携帯を鳴らす。
「おい、往診に来てくれ。幽を診てやってくんねーか? ……そう、今、俺もTVで知ったんだが、背中と腕にすげぇ火傷してるんだ。あーそれと、今日は白衣脱いで来い。記者がマンションの前で張り込んでんだよ!!……ああ? 今直ぐに決まってんだろが。幽は家から出せねぇしよ。とっとと来やがらねーと、迎えに行くぞ!!」
新羅先生も、怒りを静かに滾らせている静雄に、逆らう勇気は無かったようだ。
それからたった10分後、彼は大きな往診用の黒かばんを抱え、嘶くセルティのバイクに乗せられてやってきたのだから。
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「あー、感染症起こしかけているね。駄目だよ、いくら平和島家の人間が特異体質だったとしても、君は静雄程頑丈じゃないんだから。素人治療で放っておいちゃ危ない」
居間の煌々とした明かりの元、皆が心配げに見守る中で、入念に診察は行われた。
その後新羅は注射を三本打ち、幽の背中の広範囲に広がる火傷を、刷毛に緑色の塗り薬をたっぷりつけて、ぺたぺた塗っていた。
「明日から私が毎日往診するから、絶対安静で寝ていてね。帝人ちゃん、きっとベッドのシーツも、膿で酷い事になっている筈だから、今すぐ清潔なものに取り替えて。後、綺麗なバスタオルも重ねて敷いて。汚れ予防だよ」
彼は抗生物質の点滴も数多く持参してくれていて、てきぱきと幽の腕に、特殊な針を通した。
「今日から当分、24時間ぶっ続けで点滴入れるからね。高熱と激痛が凄かった筈なのに、本当に顔一つ出さなかったなんて、物凄い精神力、いや演技力だ。最悪な事態になる前に判ってよかった」
「最悪の事態って何だ?」
「火傷を甘く見ちゃ駄目だよ静雄。只でさえ抵抗力が無いのに感染症を起こしたら、人なんて簡単に死んでしまうんだから」
「さっきお前、起こしかけてるって言わなかったか?」
「うん」
「幽、やばいのか?」
「私が今来なかったらね。いくら君の弟でも、来週には昏睡してそのまま死亡だったかな?」
ぴきぴきと、再び静雄の血管が額に一杯浮き出てくる。
またもや帝人は、静雄の腰にしがみつく羽目になった。
「静雄さん、怒っちゃ駄目」
「怒ってねぇよ。ただ、ぶん殴りたいだけだ!!」
「それも駄目です!! 弟さんは重症なんですから!!」
作品名:ふざけんなぁ!! 9(続いてます) 作家名:みかる