二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ふざけんなぁ!! 9(続いてます)

INDEX|3ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

歌を忘れたカナリアは? 3





「みぃ~かぁ~どぉぉぉ。お前目の下、隈酷ぇぜ」
「お勉強を徹夜で頑張った……って訳ではありませんよね? また、平和島さんが何かしでかしました?」
「睡眠時間を言ってみな。もし二時間以下だったら体罰な♪」
「あうぅぅぅ。ちょっと……色々ありまして……。後で全部話すから勘弁……いたたた、正臣、ギブ!! ギブギブギブギブ!!」

今日だけは、肩掛けカバンなんてこの世から消えてしまえ。

正臣の容赦ないヘッドロックが決まり、首をぎゅうぎゅうに絞められながらも、直ぐに幽の怪我の事を二人に言えないのは、登校中の生徒の耳があるからだ。
何処に臨也信者が潜んでいるか判らないし、一般人だって信用できない。
下手に誰かに聞かれてツイッターか何かで呟かれでもしたら最後、マンション前で張り込みしているマスコミ連中が、喜々として部屋に押し寄せてくる筈。
もうすぐ夏休みだし、巻き沿いは嫌だ。
絶対平穏な生活を確保したい。

「……うううう、疲れたぁぁぁぁ……。正臣ぃ、午後から部屋のベッド貸して……」
「だったら今すぐ寝てこい。杏里に担任……、嫌、爺さんまだ復帰してねーか。……教頭に休むって伝えておいて貰え。それともお前、今日俺の部屋の合鍵、持ってきてねーのか? だったら俺のを預けとくし」
「……ううん、出席日数を確保したい……、折角の半日だし……」
「竜ヶ峰さん、蛇行してますよ」
「しょうがねぇ、学校ついたら保健室に直行だ。」

園原さんと正臣に両側から腕を抱えられ、うつらうつらと船を漕ぎながら学校へ向かう足取りは確かに重かった。
七夕以降ここ二日、我ながらメチャメチャハードな非日常生活を送っていたと思う。

昨夜も、新羅先生とセルティさんが帰宅した後、思い出したくもない黒歴史になった。

幽さんの容態を心配し、「やっぱり、新羅に任せねぇで、設備が良い総合病院に運んじまおうか? 嫌、そんな事したら俺、幽に嫌われちまうか? でも、幽の命には代えられねぇし。でも幽はここにいてぇっていうし。
ああ、どうしよう!? 俺はどうすりゃいいんだ!?
なぁどうすりゃいい? なぁ俺はどうすりゃいい?」と。

『池袋最強』の称号を貰っている男が、実はあんなに気が小さかったなんて、一体誰が思うだろう?
うろうろ落ち着き無く居間を歩き回りつつ、しつこく帝人に何度も同じ事を繰り返し尋ねてきやがって。
点滴の交換は12時間後なので、今日の16時にすればOK。
今の段階では命に別状は無いし、静雄のできる事なんて一つもない。
黙ってソファーベッドで寝てくれれば良かったのに、帝人を巻き込んで意味の無い完徹だ。

静雄はトムさんのように、己を導いてくれる人がいないと駄目なのだ。
自分に自信がないからか、イザという時決断力がまるで無い上、ウザ男になりやがって。

(『8歳も年上なんだから、いい加減頼れる大人になってください』………なんて、言ったら最後、私の命日になるんだろうなぁ……)

やっぱり今日、正臣の部屋で寝ていこう。
16時までに家に戻れば点滴の交換は間に合う。
静雄が戻れば、体力のあり余っている彼の事、きっと昨晩のようにエンドレス愚痴につき合わされる筈。
濃い一日を乗り切る為にも、睡眠が必要だ。
眠い目を擦りつつ、靴箱あけたらあら不思議。
中はゴミだらけになっていた。

「………あはははははははは……、お馬鹿さん♪………」
「竜ヶ峰さん!! 笑い事じゃありません!!」
「大丈夫大丈夫♪ 昨日、上履きは正臣の下駄箱の中に突っ込んで帰ったんだ」

険しい顔で怒ってくれる杏里に、帝人はぐぐっと親指を突きたてた。
と同時に、正臣が帝人の上履きをぷらぷらと振りながら、のんびりやってきて。

「おー、すげぇ陰湿。ドブ臭いし、湿った泥まみれってか。あー、池の藻か何かも入ってんじゃねー?」
「紀田君まで、そんな暢気な!?」
「いいっていいって。杏里ぃ~♪ そんなに目くじらたてるとさ、折角のエロ可愛い顔が台無しだぞ」

彼も昨日の切れっぷりとは打って変わり、確認だけして鼻歌混じりにぱたんと扉をしめた。
その間に帝人も、持ってきたビニールに外靴を入れ、肩掛け鞄にきっちりとしまう。
一人怪訝気な杏里に、ちょっと意地悪な笑みを浮かべ、口元に人差し指を立てつつ、空いた手でつんつんと天井を指差す。

「内緒なんだけど、実は教頭先生が昨日、其処に防犯カメラを仕掛けてくれたんだ♪」

もっと正確に言うと、彼私物の盗撮用隠しカメラなのだが、杏里にはまだ彼がとてつもない変態教師だと知らせてないので、適当にお茶を濁すしかない。

「ここと教室にセットして貰ったから、誰がやったのかなんて直ぐ判るし」
「こんな簡単に罠にかかるなんてさ、ラッキーだよな♪」
「よく昨日の今日で動いてくれましたね」
「うん、防犯の為にって言い訳もあるし。正臣から聞いたんだけど、静雄さんが滅多打ちにした暴走族を、うちの高校の男子生徒が更にボコったんでしょ? 
だったら暴走族の仕返し予防の為、警察に通報するのにも楽だとかなんとか適当にね♪」

もっともらしい後付言い訳をこねくり回すと、杏里はじぃぃぃっと物言いたげに見つめてきたが、やがて大きく息を吐き、ぽしぽしと帝人の頭を撫でてくれた。

「判りました。取り合えず、今は保健室に行って寝てきてください。ちゃんとしたお話は、午後になってからきっちり聞くことにします。もし嘘とかつくのなら、竹刀でのおしおきを覚悟してください。勿論、共犯者の紀田君も同罪です」

(ああああああ、騙されてくれなかったぁぁぁぁ!?)

獲物を握った杏里は強い。
正臣も強いがフェミニストだから、反撃すらできずに逃げ回るしかできないだろうし、非戦闘員の帝人など、バールを持っていたとしたってお話にならない。

項垂れてぽてぽてと保健室に行けば、もう保険医の先生がいて。
自分じゃ判らなかったけれど、よっぽど酷い顔色をしていたのだろう。帝人が口を開く前にカーテンを引き、ベッドを一つ貸してくれた。
上着を脱ぎ、シャツ姿になって、もぞもぞと布団に潜り込む。
マットレスは硬いけれど、今の自分にとっては極上の揺りかごだ。

自分でも思っていた以上に疲れていたらしく、直ぐに睡魔が襲ってきた。
その心地よい睡眠に身を委ねてたゆたう直前、突然の校内放送がぼんやりと耳に届く。

≪2年C組 贄川春奈、2年C組 贄川春奈、至急生徒指導室に来なさい≫と。
それは間違いなく佐々木教頭の声。

(……なんだ、あの人だったのか……。そういや粘着っぽかったっけ……)

陰湿な虐め犯人が判っても、瞼が重くてもう目が開けていられなくて。
快適な空調設備のおかげで涼しさを満喫しつつ、帝人は心おきなく正臣と杏里が迎えに来る正午まで、ぐっすりと爆睡した。


だからその校内放送の一時間後、教頭が救急車に乗せられていく羽目となり、ナイフで刺した贄川春奈は、春に続き校内で二度目の刃傷事件を起こした事により、かねてからの約束通り、今日を限りにこの学校を退学となったと二人から聞いた時、帝人は心底目が点になった。


(おいおい佐々木、あんた一体どんなセクハラな教育指導行ったの?)