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ふざけんなぁ!! 9(続いてます)

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これ幸いと、子猫を抱えて再び脱走をかましたら、また直ぐにSPの集団にとっ捕まって。

再びベッドに戻された時、治療放棄のストライキに突入したら、三度目にやって来たサングラスの男の方がとうとう折れた。
『君にとって安全な場所まで送るから、絶対に其処から出るな』と。
そのままベッドごと米軍の小型飛行機に積み込まれ、日本の空港には寄らず、米軍基地経由で日本に密やかに帰って来ることになって。

厚木にある基地から窓ガラスにスモークを貼った黒塗りの車に乗せられ、ここまで連れてこられ、沢山の薬と一緒に放り出されたのだ。
結局、何が何だか、幽には一切判らなかった。

★☆★☆★

「何で……何でお前は……、いつもいつも……、そういう大事な事を早くいわねぇんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

静雄の怒号と一緒に、振り上げられた拳が垂直に落ちる。
先にあった重厚な板のテーブルが、哀れ真っ二つに割れてしまった。
(ううううう、粗大ゴミは捨てるのにお金がかかるのに!! 静雄さんの馬鹿!!)

「誰だ!! お前の命狙ってるのは!? 言え!! メラッと殺す!!ぶっ殺す!!」
「さぁ????」
「ふざけんなぁぁぁぁ!!」

最早、怒りを抑えておけなくなった静雄が、幽の襟首を引っ掴んで手繰り寄せる。
振り上げられた彼の拳を、セルティが伸ばした影を使い、必死で止めているから殴られる事はないだろうけど。
(弟さんって、本当に無表情でマイペースすぎだ)
同じ兄弟で、どう育てばこんなに性格が異なって成長するのか訳判らない。
帝人は痛む頭を抱えつつ、混戦し三すくみ状態の戦場に参戦した。

「あの、……幽さんをここに連れて来た人、何か他に手がかりとか無いんですか?」
天然ボケな彼は、無表情のままこっくり小首を傾げ、やがてポンっと手を打った。

「そういえば……、俺が持たされた薬袋に、封筒が入ってたけど、読んでも意味判らなくて……」
「見せろ、オラ!!」

直ぐに点滴のパックごと幽をひょいっと持ち上げ、どたどたと静雄が彼の部屋へと飛び込んでいく。
当然、帝人もセルティと一緒に後を追った。

閑散として物の少ない彼の部屋で、子供時代から大切に使っていたという、使い込まれた勉強机。
その一番上の引き出しをがばりと開ける。
其処には大きな紙袋があり、静雄が引っ張り出して片付いて何も無い机の上に豪快にひっくり返すと、どっさり包帯と錠剤と塗り薬が出てきて。
その中に紛れて一枚、目立つ空色な明るい封筒があった。

表書きには流暢な英語の筆記体で【君のお兄さんに】と。
見慣れた筆跡に、帝人の背筋が瞬時に凍りついた。

「……なんだこりゃ?……」
中を開くと、手紙とカードが一枚あったが、どうやら、静雄は英語が読めないらしい。
つきつけられた幽が、兄に代わって代読する。

「【君の弟に、今後は慎重に役を選べと警告してくれ。こっち(米国)は任せろ。片付けておく】……、だって。心当たりある?」
「ねぇ。俺の外人の知り合いは、露西亜寿司のサイモンと店長、後はこいつ……、セルティだけだ」

封筒をひっくり返して裏側を見ても、署名も何も無い。
当たり前だ。
息を殺す帝人の真ん前で、静雄が首を傾げてカードを表に返すと、それは王冠被った厳しい男が、どっしり椅子に腰を降ろしたレトロな絵柄。
嫌な予感が的中し、もう涙目だ。

(……ああああああああああああああ、もう、間違いない……)

「なんだこりゃ?」
≪タロットカードだな。Ⅳだから、……エンペラー?≫

セルティと静雄がしげしげと眺めているその横で、帝人は蒼い顔をし、ダラダラと冷や汗を流していた。
そういえば三月から約4ヶ月、パソが壊れてから今まで一度も連絡を取っていない。

(……やっばぁぁぁぁ……。怒ってる、怒ってるよあの人。絶対。あああああああ、今、ここにパソコンが無いのが恨めしい……。後、何としてでも正臣の所に行って借りなきゃ。……あの男、今回の事全部知ってるに決まってる。絶対締め上げて吐かせないとぉぉぉぉぉ……!!)


静雄の手の中には、帝人が好んでネットで使い、かつて臨也のパソコンからデーターを大量にクラッシュした時、彼のパソコンの画面を埋め尽くした【エンプレス(女帝)】と同種類のカード、……【皇帝】があった。


★☆★☆★

一方その頃、本日付をもって来良学園を退学となった贄川春奈が、とうとうマンションに辿り着いていた。
「……静雄さん、静雄さん、静雄さん……」

彼女は泣きはらしたかのようなぎらぎらと恐ろしい赤い目をし、右手にナイフを握り締めていて。
そんな異様な姿に、遠巻きに見ていた近所のおばちゃん連中に背を押され、管理人の五十嵐さんが声をかけ、刺されるのは……、数十秒後。