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ふざけんなぁ!! 9(続いてます)

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(ああああああ、嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい♪♪)

静雄がかつて使っていて、今は帝人が借りている勉強机にパソコンを置き、コンセントを繋いだ。
充電中を知らせる赤いランプが点灯し、長々と使っていなかった事を伺わせる。

逸る心のまま、一刻も早く稼動させたいが、このレトロタイプは電力をもっと吸わせてあげないと、きっと動かないから、今はじっと我慢我慢。

(それに、モバイル通信!! 流石俳優さん、お金持ち♪♪)

確かに光に比べて遅いし重いけど、これならば家だろうが外の何処だろうが、パソコンのバッテリーが持つ限り、何処でもネットが使える強みがある。
じぃっと、目覚まし時計を睨んで5分後。

(もうそろそろいいかな? つくかな?)

ドキドキしながら電源のスイッチを押すと、パソコンが立ち上がる独特の画面が直ぐに現れてくれて、嬉しさに目を細める。

(立ち上がりが10秒ちょい……、なら、今システムエラーチェックは必要なさそう。ウイルスバスターは、……うううう、やっぱ期限切れかぁ。一通りじっくり確認したいけど、今はとりあえず……、幽さんが優先!!)

マウスを弄くり、パソコンの大まかなスペックを確認していると、背後からぬうっと暑苦しい気配がする。
振り返るまでもなく、存在感のある三人がのっそり部屋に入ってきたようだ。
代表でセルティが、パソコン画面の前にPDAを突きつけてくる。

≪帝人、結局、あのカードの主は何者なんだ?≫
「【皇帝】は、ハッカー界で、十年以上君臨している、ホワイトハットでも最高位の「グル」です」
≪意味が全く判らない!!≫

「例えるなら……、静雄さんみたいに清らかな善の心で、社会の為になり、人々の幸せに貢献する天使のような凄腕ハッカーを【ホワイトハット】。逆に臨也さんみたいに社会に混乱を撒き散らす愉快犯みたく、サイバーテロを仕掛け、情報を盗み、銀行口座から預金を強奪し、社会に悪影響を及ぼす悪魔みたいなハッカーを【ブラックハット】といいます」

≪よく判った!!≫
「……天使……、俺が天使……、帝人の目には天使……、へへへへ、へへへへへへへへ♪♪」
「兄さんに、デレ期が来た」
褒められ慣れていない静雄が、俯き、テレテレと頬を赤らめるのが、視界の端に映った。
本気でこの男、可愛すぎる。

「ハッカーにも階級がありまして、初心者は「ニュービー」、私みたいに他人のツールを駆使して遊ぶ中級者は「スクリプトキティ」、上級者で飛びぬけて凄腕になると「ウィザード」と呼ばれるんですが、その上が「グル」、神という意味を持つだけあり、世界でもトップレベルになります。
そして【皇帝】はどんな情報でも手玉に取れるし、彼と契約したい企業・機関は星の数程います。だから私は、彼がペンタゴンに太いパイプを持ち、米軍を動かしたって、別に今更驚きません」

≪なんでそんな凄い人と、帝人が知り合いなんだ?≫

「中学に入学する直前、正臣が東京に引っ越して行っちゃってから、私、物凄く寂しかったんですよ。家事があったから部活にも入れないし、遊べないから親しい女友達も作れなくて、その反動でネットとチャットにどっぷり嵌っちゃって。

クラッキングで情報を引き出すと、正臣が凄く『すげーすげー!!』って褒めてくれるから、もっと驚かせたくて、あっちこっちの企業のコンピューターに片っ端に侵入して腕を磨くようになったんです。
そうして果敢に手当たり次第アタックかけて遊んでた時、丁度企業側の防御に【皇帝】がリアルタイムにいやがって、私、完膚なきまで叩きのめされちゃって。

警察には捕まらないように逃げられたけれど、データーベースには欠片もアクセスできなかった。
その敗北が本当に悔しくて悔しくて、それから毎晩其処に突撃かけて何度もしつこく対決したんです。
で、丁度2週間目かな。色々と便利なハッキングツールが、私宛のメールで、直接パソコンに送られてきたんですよ」

何か知らないけど、とっても気に入られたみたいで、【まだ12歳なのに凄いねぇ。私を、兄と慕ってくれていいのだよ♪】とか、【さぁさぁ、お兄ちゃんって呼んでよ帝人ちゃん♪】とか。
随分うざったい事を言って来たけど、その都度くれるアドバイスはどれも的確で、独学より物凄く勉強になった。

「以来、潜った先で戦いつつ、たまにメール交換するお友達になりました。初戦からもう3年にもなりますが、未だ本名も性別も、何処の誰で何をしてる人かも、一切知りません。それがメチャメチャ悔しいですけどね」

ぴんと部屋の中の空気が張り詰めていく中、真っ先に口火を切ったのは静雄だった。

「はぁ!? 馬鹿かお前は!! それの何処が大丈夫なんだよ!?」
≪不審者だ、変質者だ!!≫
「帝人、無用心だよ。俺もそんな怪しい奴、即刻縁切った方がいいと思う」

「しょうがないじゃないですか。あっちは情報のプロなんですよ。事実、私の本名も年齢も実家の住所も、知り尽くされてる。今更じたばたしたって始まらないじゃないですか」

それに、長いことかまわないと拗ねるのだ。

来良を受ける受験の為、二ヶ月もほったらかしにしてた時は、『遊ぼう♪♪』のメール攻撃が、マジでウザかった。
三月の誕生日に、バースデーと高校合格お祝いのメールカードがリアルに郵便で贈られて来た時、本気で彼がホワイトハットだった事に感謝した。


「今回も、もう四ヶ月構ってあげてませんから、きっと寂しくなってスネちゃったんでしょう。で、私の身辺を探りまくって、静雄さんを調べるうちに幽さんに辿りついて、今度の事件を知って助けてくれたんじゃないかって推測しているんですが。棚からボタモチっていう幸運でしたね♪」
≪……帝人、信頼しすぎだ。それは所謂、ストーカーというものじゃ……。あああああああ、どうしよどうしよ……。そいつがもし臨也みたいなのだったら!!≫
「……うぜぇうぜぇうぜぇ……、一体何だそいつは!! 気色悪い!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺すブッコロス……」
「帝人、気をつけてあげて。兄さんは繊細だから……結構嫉妬深くて心が狭いよ。ヤンデレて監禁しだしたって、俺は止められないからね」
「おい、幽!! 何だそりゃ!!」
「兄さんの暴走を心配しての忠告。これも弟の愛だよ」
「……俺、騙されてねぇか? 何かどさくさ紛れに貶されてんじゃねーかって気になってんだけどよぉ?」
「そんなこと、ある訳ないじゃないか兄さん♪」
「そうだよな。お前に限ってな♪」

いいえ、騙されてるよ静雄さん。
何か幽さん、言葉が黒いし。


「兎に角、【皇帝】は大丈夫ですってば。ホワイトハットは情報を悪用する事、絶対ありませんから」
≪その頑な信頼、私には理解できない≫
「でなければ、ハッカー界で10年も【グル】の地位に留まる事はできません。私のいつかぶっ倒す目標ですが、師匠でもあるんです。さぁ、私の方も準備できましたのでおしゃべりは終わります。今からは戦争ですので、口を開いている暇ないんです。お願いですから話しかけないでくださいね」

パソコンへのハッキングツールのインストールも終わり、ぱきぱきと指を鳴らす。

「四ヶ月ぶりに勝負だ!! 皇帝!!」

わくわくと胸を躍らせキーボードに指を置く。