束の間の休息
満面の笑みを浮かべて、プリンを口に運び始める金髪の少年とは対照的に、相変わらず憮然とした表情でスプーンに手を伸ばす黒髪の騎士団長。
(…やっぱり、此処まで2人でやってきたパートナー同士なだけはあるわね。)
その2人のやりとりに、やはり笑みを崩せないジュディスへと、突然カイルから声が掛けられる。
「あっ!ねぇ、ジュディスさん!倒れた俺とリオンさんをこの街まで連れてきた、って言ってたけど…ジュディスさん1人でどうやって?」
唐突なカイルの質問に、だがリオンからも答えを促すような視線が重なる。
どうやら2人とも、今まで口にする切っ掛けがなかっただけで、疑問に思っていたことのようだった。
ジュディスは知らず、浮かべていた笑みを深くする。
「…貴方達2人くらいの体格なら、私が両肩に担いで運べたとは思わない?」
「え、…ええっ!?…う、う〜ん……そ、そうかもしれないけど、…なんかショックなんだけど、それ…!」
「……簡単に騙されるな、カイル。あの顔をよく見ろ。」
「あら、失礼ね。」
160センチそこそこの自分達とはいえ、さすがに女性1人に男2人が両手に軽々と抱えられている姿は想像したくない。
彼女が身長175センチあまりの槍使い、だったとしても、だ。
可能性が全くあり得なくもないのが怖いところだが、悩むカイルを見詰めるジュディスの表情からして、これは単にからかわれているだけだろうと、リオンは判断する。
そのジュディスはといえば、聡い騎士団長には見破られてしまったものの、くるくると表情のよく変わる仔犬のような少年の反応に、至極ご満悦だった。
クジラのような姿をした、空を飛ぶことができる始祖の隷長、バウルを相棒に持つ彼女にとって、彼ら2人を街まで運ぶのは造作もないことだったが。
「貴方は、女性が羨むような軽過ぎる体重を、もう少しなんとかした方がいいと思うけれど?」
「………っ、……余計な世話だ…、…っ…!」
もう暫くはその事実を伏せたまま、見事に対照的な反応を返してくれる2人の表情を見詰めるのも悪くない。
ユージーンのことは、2人をこの街から送り出してから、また考えればいいだろう。
そんな思惑など露知らず、複雑な表情でプリンを口に運ぶ2人を見詰め、彼女が穏やかに微笑んだ。