無題2
「なあ左近ー。お前って男もイケんの?」
宴の最中、相当に酔いの回った司馬昭が唐突に左近に話を振ってくる。
「司馬昭さん、相当酔ってますね…で?どっからそんな話でてくるんです?」
「いやー?なんか左近ってさーたまにすっげーエロいよなーって」
「っは、そりゃあれだ。大人の魅力、ってやつですよ」
「絶対嘘だってそれー」
陽気に笑う司馬昭に、左近も笑う。左近自身にも相当酔いが回っていた。
「左近」
尚も話を続けようとする司馬昭を遮るように、声が降ってくる。
「どうしました?伏犠さん」
「邪魔してすまんのう。向こうでまた三馬鹿が暴れとってのう」
「あー…成程。止めにいかにゃなりませんか。すみませんね、司馬昭さん。また今度呑みましょ?」
「おう、殿の面倒いつも大変そうだな」
「ははっ司馬昭さんの面倒みないといけない元姫さん程じゃないですよ」
腰を上げ、司馬昭に手を振って主の元へと向かう左近を司馬昭も片手を上げて見送る。
酔いの回ったその背に片手を添えて案内する伏犠を見て、司馬昭はやれやれと肩を竦め。
「……守りが堅すぎる、か」
呟いた言葉は誰の耳にも拾われることはなく。
お互いに馬鹿だ馬鹿だと罵り合う子飼い三人組の元に左近を連れて行き、後のことは任せたとばかりに少し離れたところに腰を下ろす伏犠。
それを目ざとく見つけた女カが伏犠の脇へと並んで腰を落ち着ける。
「…呆れたな。それほどあの男が大事か?」
「……まあ、な」
「あのままにしておけば良かったろうに」
「…知らぬ方が良かろう」
「…それは、あの者のためではないな?」
「…」
「……人に入れ込みすぎるなとあれほど釘を刺したろうに」
押し黙る伏犠の顎へと指を添え、女カはその顔へと自分の顔を近付ける。
「私が替わりにちゅうしてやろうか、伏犠?」
「やめておくわ。お主が相手では勃つものも勃たんわい」
「当然だな。お前の好みから最も外れる体を作ったのだから。お陰で人は私を美女と誉めそやしてくれる」
「まったく、我が妹ながら性格が悪いのう」
「誰が妹だ」
「ならば妻なら良いのか?」
「それもやめろと言っている」
顔を寄せたまま静かな攻防戦を繰り広げる二人が左近の視界の端に映る。
『…?』
視界の端に写ったのもつかの間、尚も清正に食って掛かろうとする三成に目を向けて宥めながら、その胸の片隅にじわりと何かが滲む。
『…何だ。結局女カさんといい感じなんじゃないですか』
ちり、と胸を何かに引っかかれたような感覚があった気がしたが、そうしたことを気にするような間柄でもないだろう、気のせいだと首を振って、己の主の介抱に専念することにした。
作品名:無題2 作家名:諸星JIN(旧:mo6)