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柚木@ツイ徘徊中
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【腐】相手以上、相手未満【レグリ】

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ナナミが新しいカップを用意する片手間に訪ねる。ヒビキと言うらしい少年は、レッドの様子を伺いながら、扉から一番近い、レッドの手前の席に腰かけた。
「えっと、ちょっとありまして」
ヒビキが説明しにくそうに言う。レッドは、ヒビキの方へクッキーの乗った皿を押し出した。
「運んでくれてありがとう」
 小さく礼を言う。ヒビキは頬を掻き、ぶっきらぼうに、「いえ」とそっぽを向いた。照れ隠しだった。その後は、三人で紅茶を飲みながら話しをした。ヒビキは、初めレッドに対して緊張をしていたが、ナナミからの紹介と場の雰囲気から、強ばった表情は直ぐに打ち解けた笑顔へ変わった。明るい子だ、と微笑ましさが増す。レッドもまた彼に好意を示した。そうして和やかな空気のまま三人で談笑を交えながら、ナナミの紅茶とクッキーを馳走になった。
 急なお茶会もそろそろお開きにしようと言う流れの中で、扉が突然開いた。力任せに開かれて、大きな音がして戸が軋む。一瞬で、室内は静まり反る。
 ナナミとヒビキが、同時に「あ」と呟く。レッドは二人に気を配る余裕がなかった。目を見張る。そこには数年来の幼なじみの姿があった。グリーンは息を切らせ、真っ直ぐナナミを見て、姉ちゃん、と言いかける。その最中、何かの気配にふと視線を反らし、レッドを捉えた。口がぽかりと開いたまま、グリーンはレッドを見た。レッドもまた、その場で動けずにグリーンを見る。
 グリーンもナナミと同様、記憶の中の彼とは少し違っていた。背が伸びて、骨格が成長をしたために、子供の時より身体の線が逞しくなった。顔も大人びた。喉仏も出て、全体的に男の色が濃くなっている。
 逡巡した後、グリーンは小さくレッドの名前を呼んだ。そこにいる人物を確認する慎重さが声音に表れていた。声もレッドの知るものより低くなっている。
 グリーンが、視線を姉とレッドの間をさ迷わせ、困惑気に眉を寄せた。ナナミが口添えをする。
「驚いたでしょう、お昼頃に帰って来たのよ」
ナナミ曰く、レッドの帰宅後すぐにグリーンへと便りを送ったらしい。グリーンの手にはそれとおぼしき紙が握られていた。知らせを受けて、マサラに直行したことをレッドは悟った。それも肩で息をしていると言うことは、走って帰って来たのだ。仲間に頼ることも忘れる程に気が動転していたのか、はたまたグリーンがマサラから近い地にいたためか、もしかしたら両方か。
「レッド」
もう一度名前を呼ばれ、レッドは「ん」と答えるのが精一杯だった。レッドとて困惑の最中にいる。いずれ挨拶を、とは考えてはいたが、その機会がこうも唐突に与えられるとは思っていなかったのだ。また、ヒビキの到来で一度肩透かしを食らったことも起因して、油断していた。それらの大きく分けて二つの理由から、レッドはグリーンと話す心の準備が全く整っていなかった。だから、グリーンの問い掛けになんと言うべきか、判断出来なかった。グリーンは口をパクパクと開閉して、言葉を探しあぐねている。しかし結局見つからなかったのか、きゅっと一文字を結び、さらに眉間のしわを深めた。
「グリーン」
 レッドがようやく絞り出した声は、変に掠れていた。幼なじみ相手に緊張している自分が、レッドは可笑しくなった。それで少しは落ち着きを取り戻し、何か気の聞いたことを言うべく一寸の間考えて、結局「ただいま」と言った。グリーンの目がさらに大きく開かれた。レッドは、彼に向かって肩を竦めた。何でもいいから話してくれと、半ば助けを求めた仕草だ。グリーンの目はみるみる細められた。耐えるように眇めて、殊更口唇を強く結ぶ。泣くのを堪えていると気づいた時、レッドは知らずに身体が動いた。グリーンの前へと飛び出して、正面からその姿を捉える。グリーンは確かめるようにレッドの身体へ視線を走らせた。おずおずと口を開く。声が殆ど聞こえなかったが、口の動きで「おかえり」と言ったのだと知る。それからまた戸惑った表情で笑うのだ。泣けばいいのか笑えばいいのか分からない、とレッドに訴えていた。
 刹那、チャンピオン戦のグリーンが目の前の男と重なった。強い眼差しでレッドを捕らえた少年が、今度は縋るようにレッドを見ている。ああ、彼はこんなにも弱かったんだ。レッドの胸が、とくとくと走り出した。
 強い、と思っていた。負けて尚レッドに食らいつく不屈の精神も、努力を重ねる根気も、勝ちへの執着も、どれも敵わないのだと思い込んでいた。そんな彼が、レッドの前で泣くのをじっと堪えている。世界にさっと色が戻った。グリーンを中心にして、褪せていた色が再び咲き始める。白と灰色ばかりを眺めていた日々の終わりを、じわじわと実感し出す。
 手を伸ばした。グリーンがあまりに頼りなげにレッドを見るので、倒れるのではないかと危惧したからだ。グリーンはレッドの、グローブから覗く傷痕だらけの手を呆然と眺めた。恐る恐るグリーンの手がレッドのものに重なる。緩く握り返すと、彼の手は震えていた。
 守りたい。初めてレッドは、幼なじみの男に庇護欲を掻き立てられる。彼がシロガネ山を恐怖の象徴と捉えたように、レッドもまたグリーンを強さの象徴として捕らえ続けてきた。それが今や揺らぎ始めている。恥ずかしながら、彼もまた弱さをその身に潜めた一人の人間であることに、レッドは十年以上の歳月を経て、ようやっと気づいたのだ。
 レッドの心臓は、この時にはもう全身に響く位、鐘の音を素早く、激しく鳴らしていた。グリーンに伝わるのではないかと怖くなる程、鼓動は五月蝿かった。
しかしグリーンは、レッドの中で一気に溢れた様々な思いなど知る由もなく、破顔した。小さな頃のように歯を見せて、眉は寄せたままだったが、口角をにっと、引き上げる。
「お帰り」
今度ははっきりと聞こえた。強く手を握り返される。突然の表情に虚をつかれる。レッドは胸が詰まった。弱いと知った彼が、それでも変わらぬ強さを持ってレッドに笑いかける。弱さを持ちながらもレッドの前では強く有ろうとする健気さを感じとり、身体の奥の何かがうち震える。なんだ、結局敵わないじゃないか。思わず苦笑した。ずっと遠い過去のどこかで聞かされた、「恋愛って先に惚れた方が負けなのよねえ」と言う母親の声が再生される。つまりは、そういうことなのだ。
 レッドは丁寧にグリーンの手を握り返す。「ただいま」と告げた自分の姿がグリーンの目に映っていた。それは久方ぶりに見た、自身の穏やかな顔だった。