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さよならのじかん 1

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「フレン!!」
突然ノックもなしに部屋へ押し入ってきたのは、帝国の副帝・エステリーゼだった。
「すみませんフレン!今皆が……あ」
しかし、急を要していたのだろうエステリーゼの目前には、ソファに座り向き合うフレンと、もうひとり、茶色の髪をもった娘だった。
驚いたように振り返るフレンは、彼女を認めると立ち上がり、頭を下げた。
「すみませんエステリーゼ様。どうかされましたか?」
顔を上げたフレンはいつも通りの表情でエステリーゼを見やる。
しかし彼女は、そんなフレンの背後に静かに座る女性へと視線を向けていた。
「……あの、そちらは?」
「ああ、彼女は…」
エステリーゼの問いに答えるために女性の方へ振り返るフレンの前には、悠然と笑みを浮かべ緩やかに立ちあがった女性。薄黄色のドレスの裾を僅かに揺らし、エステリーゼに視線を移し口を開けた。
「はじめまして、エステリーゼ様。私、フレン様の婚約者のユレイア・リン・フィブールと申します」
「フレンの…婚約者……?」
「そのことだけど、レイ。僕は…」
エステリーゼが驚きに口元を覆っていると、フレンはユレイアと名乗る女性に向き直り口を開く。しかしそのまま続きを音に出すことなく、ただ静かにフレン様、と呼ぶ声に遮られた。
「まだそのようなことを仰るのですか?恋人同士なら婚姻を結ぶのは当たり前。フレン様も私を好いてくださっているのなら、異論はありませんでしょう?」
「僕は君と結婚する気はないんだ。それに当人の了承を得ずして婚姻を結ぶのはどうなんだ?僕はそのことについて君に聞きたいんだが?」
「……」
一通りの繰り返された問答が終ったようで、フレンは一つ息をつく。
「今日はもう引き取ってくれないかい?エステリーゼ様もいらっしゃっているし」
「解りましたわ。それではまた後日」
ユレイアはひとつ頭を下げると、立ちつくすエステリーゼの脇をすり抜け部屋を出ていった。それを見送り、彼女が声をだそうとした瞬間、またも扉の開く音が響く。
「おたくも大変ねぇフレンちゃん」
困ったように廊下の先へと視線を向けたまま、部屋へ入ってきたのはレイヴンだった。
そしてその後ろからもぞろぞろと《凛々の明星》のメンバーが入ってくる。
「何?さっきの女」
「フレンのコイビト、かの?」
「み、皆?私の部屋で待っててって言いましたよね?」
結局フレンへの問いを口に出せなかったエステリーゼが、入室してきた仲間たちに困惑気味に声をかけた。
「いやだって、なんか話始まりそうになかったし」
「なら皆一緒の方がいいんじゃないかと思ったのよ」
ふふっと微笑んだジュディスが、みんなを促した当人だったらしかった。
「それで、皆どうしたんだい?」
部屋の主であるフレンが本題を促す。それにハッとして振り向いたエステリーゼが声を上げた。

「そうなんです!ユーリが行方不明なんです!!」

フレンは己の耳を疑った。




「ユーリは定期的に単独で仕事をするから…報告は5日置きに、って言ってるんだけど」
「ユーリちゃんの性格上、めんどくさがって定期報告は遅くても15日位してからやっと手紙が来るんだとさ。だけど20日経っても連絡がない。それどころかユーリちゃんらしき人を見たって話も聞かない」
カロルの言葉を継いだレイヴンはジュディスの方をちらと見て答えた。
「………ラピードは、」
「今回の依頼主さんが大の犬嫌いだったみたいね。ラピードはお留守番してたの」
「くぅーん…」
寂しそうに鼻を鳴らし少しうつむいたラピードの頭をそっと撫でて、フレンは状況を整理した。
「……つまり、ユーリが居なくなってから20日は経ってるってことか…」
眉間に皺をよせ、考え込むフレン。そんな彼の姿にエステリーゼがおずおずと問うた。
「あの、フレン……」
「…はい、なんでしょうかエステリーゼ様」
「フレンはユーリのこと、心配じゃないんですか…?」
そう問われ、フレンは至極驚いた顔をした。異常なほど冷静なフレンに、他の者もそう思ったのだろうか、じっと見つめてくる。
その視線を受け止めたフレンは曖昧に笑った。
「もちろん、心配ですよ」
と。


彼が最期に彼女の姿を見たのは、彼女が依頼を受ける直前の帝都への帰省中。ちょうど、居なくなる二日前だったらしい。
その日フレンは、以前から共に外出を強請っていた貴族のお嬢様――ユレイアとの外出の日だった。まるで頃合いを見計らったようなタイミング。彼は久々の休みだったことに、ほんの少しだけ気分が浮上していた。
そんなとき。市民街へ降りて一番目を引いたのが、艶やかな黒髪。
本当に久々に見た彼女の姿に、浮上していた気分はますます上質なものとなった。
「ユーリ!」
呼びかけて、驚いた顔をした彼女の元へ駆け寄った。
「こんなところでなにしているんだ」と問うた彼女の顔は、無意識なんだろう、どこか嬉しそうで。そんな彼女にフレンも自然と微笑みを浮かべる。
休暇をもらい、用事もあるのだとフレンは彼女に語った。

そしてふとフレンは思ったのだ。何故そんなことを思いついたのか、今でも解らない。
ただユーリに悪戯をしようと―――困らせて、少し拗ねた彼女の顔が見たかったのだと思う。そしてフレンは、悪戯を仕掛けた。


「デートだよ。僕、恋人が出来たんだ」






「フレンちゃん」
「……レイヴンさん…」
昼間、ユーリの行方不明の件を聞いたフレンは、エステリーゼの質問に答えたあとヨーデルの元へと行った。
エステリーゼや《凛々の明星》の皆も行くと言い出し、結局大人数でヨーデルに謁見した。
内容は至極簡単だ。
『《凛々の明星》のユーリ・ローウェルの捜索隊の派遣』
だが、ヨーデルは首を縦に振らなかった。
なんでも、ユーリの行方不明の件はすでに耳に入っていたらしく、評議会や一部の騎士が表立って動くのを拒んでいるのだ。
曰く、今聖騎士が行方不明だと知られれば、不満の募ったギルドや一部の騎士との仲が険悪になり戦争が起きるかもしれないからということ。
聖騎士はギルドと騎士のかけ橋であり象徴だからこそ、居ないと知れば暴れる輩もいるだろうとのことだそうで。

それは確かにそうだった。『聖騎士』が居るからこそ抑えられている不満をもった人々の声。
やはり象徴というのはとても大事なもので、それがないと溢れた憎悪が形になって、関係ないものにも襲いかかってくる。
そんな汚いもののために、ユーリを探すことが出来ないことに苛立った。
彼女の称号も自分の称号もこの時ばかりは本当に疎ましく感じた。
それが顔に出ていたのだろう。ヨーデルは一つ、先ほどとは違う優しい笑みを浮かべ彼らに告げた。

『ユーリさんを秘密裏に探せばいいんですよ』と。

表立って探せないのなら、それとなく世界の情勢を見据えるという大義名分を持ってユーリを探せばいいと。
ヨーデルはそう言ったのだ。

『フレン、貴方が行ってください。《凛々の明星》の皆さんにも同行をお願いします』

そう微笑んだヨーデルに意見する者なんて、その場には誰もいなかった。

「フレンちゃんはさ、ユーリちゃんのことどう思っているの?」
正面の椅子にソファに腰掛けたレイヴンはフレンに問うた。
作品名:さよならのじかん 1 作家名:あーね