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さよならのじかん 1

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彼もまた、一度覚えた『死の淵』を前に失う恐怖を本能で悟ったのだろう。なんせ犬だ。

そんな、そう犬にしては出来過ぎた頭でフレンが立ちあがり用意していた荷を取ったのを確認して、ラピードは腰を上げる。
部屋の扉に向かい、前足を掛けて扉を開く。後ろでフレンが静かに笑うのを聞いた。
まぁ一般の犬では当然やらない行為をしている自覚はある。なんせ彼は犬なのだから。
だが同時に犬でないからこそ、こういったことをするのだ。なんせ彼はラピードだから。
部屋を出て、まだ数人の見張りしかいない城内に鎧の足音と爪を引っ掻いて歩く二つの音が響いた。
「エステリーゼ様は先に向かわれてしまったかな」
そう言ったフレンに視線だけを向ける。ただの独り言なのは解っていたので返す言葉はない。
静かに進み、城門を抜け市民街へ降りた。
作品名:さよならのじかん 1 作家名:あーね