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さよならのじかん 1

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出立までにどうにかしなければ、フレンとユーリの現状に気づいている数名にとやかく言われ、無理やり押し付けられて、挙句諭そうとすれば押しつけた本人たちが藪蛇もいい所で聞き耳立てている。そしてそれに気づいた獅子と狼は二人揃っておっさんに容赦ない一撃を放つだろう。―――まぁ、今もう片方は行方不明で、これから探しに行くのだが。
レイヴンがそんなことを考えているのなんて露知らず、フレンは静かに言った。

「レイヴンさんに聞いてもらうようなことではありません」

想像通りの答えだ。
「でもさ、一人で考え込んでるのに答えが出ないってことは、煮詰まってるからなんじゃないの」
「…………」
図星のようだ。
「だったらさ、言葉にしてみな」
レイヴンはそう促した。自分はただ彼の前にいて、彼の独り言を聞いているだけなのだと。そういう視線を込めて彼を見た。
「……情けない」
そう彼は口火を切った。
「情けない。浮かれ過ぎていたんだ。久々の休暇で、ユーリに会えたって。子供みたいな言葉遊びを勝手に繰り広げて、ユーリの様子にも気付かずに…」
拳を握りしめて呟く。レイヴンはただ黙って聞いていた。
フレンは続けた。
なぜあの時、あんな悪戯をしたのか。
なぜあの時、ユーリはあんなにせつない顔をしたのか。
なぜあの時、自分は後悔したのか。
なぜあの時、消えそうに思えた彼女を抱きしめてやらなかったのか。

フレンはただ言葉を紡いだ。
静かに、静かにあの時のことを思い出して。知らない間に一筋、涙が流れているのにも気づかずに。
「どうして僕は…こんなに平然としているんだろう」
「それさ、平然としてないんじゃない?」
「…え?」
今までぼーっと居るだけだったレイヴンが口を開いた。
「半身とも言えるユーリちゃんがいなくなって不安でたまらなくて、だけど一番ユーリちゃんのこと知ってる自分が信じて、気丈に振舞わないと皆が余計に心配する。でも同時にあの子が無事だって、何もないただの気まぐれで今もどこかでふらふらしているだけだって自分に言い聞かせてる。それでもやっぱり最期にみたユーリちゃんの様子に気付けなかった自分に対してものすごく腹が立ってて、同時にあの子が居ない喪失感で心の中がぐちゃぐちゃになってる……しかも、それが…同じことが今回で二回目だから、無意識にフレンちゃんの思考がマヒしてるのかもね」
レイヴンはひとしきり言い終わると、ちらりとフレンを見やって「以上、おっさんの独り言でしたー」と締めくくった。
「レイヴンさん……」
ポカンとしたフレンは先ほどまでの雰囲気とは似ても似つかぬ普段の彼の雰囲気へと戻っていた。意外なつぶやきを聞いて毒気を抜かれたのだろうか、いや。
(なんだ…当たってんじゃないの)
「まぁ要するに。フレンちゃんはユーリちゃんのことが大好き過ぎて、心配で心配でどうリアクションしていいのかわかんなくなっちゃってたのよ」
そういうことでしょ、と苦く笑ったレイヴンに、フレンは一つ「好き…?」とつぶやきを落とした。
「僕が……ユーリを…好き…?」
(あれそこぉ!?)
内心絶叫したレイヴンは、しかし思い至った。なるほど、無自覚は面倒だと。
そこで頭を抱えて一人思案にふけるフレンに年長者は助け船を出す。
「じゃあフレンちゃん、例えばさユーリちゃんがどこの誰とも知らない相手と付き合ってたとしたら、どうする?」
「そんなこと認めません」
即答で帰ってきたのは紛れもないきっぱりとした否認の言葉。
そうじゃなくて、例えばよ例えば。と苦笑を交えながら再度問うと彼の顔がだんだん歪んできた。
「……腹立たしい。すぐにでも相手を殺します」
「いや殺しちゃ駄目だから」
間髪いれず制止して、レイヴンは思った。この若獅子は…と。
「それだけ?」
「え?」
「相手を殺したいってだけ…?」
その言葉だけでも十分だったのだが、…さすがに帝国騎士団長が殺人は許されないし、このままだと変な勘違いを起こしそうな気がしたのでもう一つ保険を掛けておく。
真剣に悩んでいるフレンに対してこの考えもなんともひどいと思ったが、如何せん、やはり他人事だ。
「…苦しい」
「ん?」
フレンが声に出したその一言に続いて、彼の口から、彼の声でその言葉が降ってくる。
それはまさに、フレンの本心だった。
「辛い。寂しい。僕にはユーリだけなのにユーリはそうじゃないなんて……そんなの、いやだ」
「じゃあ、さ。フレンちゃんは、ユーリのことどう想ってるの?」
最初と同じ質問を、答えの見えた若獅子へと問うた。

「僕は――ユーリが好きだ」
愛してるんだ――――

例えばの話。
顔も名前も知らない、自分じゃない他の男と一緒に居るだけで顔が強張る。
さらに二人が寄り添うなんてこと、考えるだけで発狂してしまいそうだ。
すぐにそいつを叩きつぶして、彼女の手を引いて行きたい。そのまま抱きしめて、誰の目にも止まらないように何処かに閉じ込めてしまいたい。
それが、醜い嫉妬と独占欲なのだと気づいた。
同時に、それほどまでにこの心を焦がすユーリのことを愛しているのだと、やっと気づけた。

そして同時に、あの時の自分自身に腸が煮えくりかえる思いを再び覚えた。
凶悪な顔をしていたのだろう、レイヴンが「と、とにかくユーリちゃんを探しだしてから誤解を解けばいいんじゃない?」と慌てて言ったものだからフレンはそれに同意して、その日の晩は早めにベッドへ入り込んだ。
―――だからといってゆっくり眠れるというわけではなかったのだが。

そんなフレンの一部始終を見ていた彼はひと振り尾を揺らめかせあくびをしながら呻いた。
おっさん、とんでもないもの起していったな――と。





「おはよう、ラピード」
「わふ」
早朝、ベッドから降りたフレンは足元に居た相棒の頭を撫でて朝の挨拶をした。
その顔は、やはり少し疲れ気味で昨晩はずいぶんと寝がえりを打っていたと思いだす。
そのまま着替えて、鎧を着込むフレンを見守りながらラピードは一つ吠えた。
「ん?どうしたんだいラピード」
傍まで寄ったラピードの目線に合わせるようにしゃがみこんだフレンをじっと見据える。
それだけで彼が何を言いたいのか解ったらしく、フレンはそっと笑うと「もう大丈夫だよ」と頭を撫でた。フレンとユーリのラピードに対する癖。
二人とも揃って彼の頭を撫でる癖があるのだ。二人でラピードを構いながら話をするとき、大抵彼は二人に挟まれる。そして、フレンに頭をユーリに顎を擽られながら穏やかに過ごすのだ。
もう少し前、彼が若かったころは、もう子供じゃないと意地を張ってそんな二人の好意から逃げようとしていた。しかしその際目に傷を負って、次に目を覚ましたのはボロボロと涙を零しながらも安心したように微笑んだユーリと、そんな彼女を慰めるように肩を抱いたフレンだった。
瞬間二人に抱き締められたラピードが何の抵抗もしないことにユーリが珍しく大慌てして、『傷に触ったか!?わりぃラピード、俺…』
とまた泣きそうになった彼女の頬を舐めて落ち着かせたのを彼はまだしっかりと覚えている。それからだった。ラピードが彼らに触れられても素直に受け入れるようになったのは。
作品名:さよならのじかん 1 作家名:あーね