さよならのじかん 2
諦めるつもりは毛頭なかった。
挫ければ負けで、あいつの思惑通りになるのも解っていた。
体内のマナを操るには、精神面にも影響を与えなければ徹底的に支配できないらしい。
馬鹿な男たちはそんなことを俺の前でこぼしていた。
だから尚のこと俺は心だけでも激しく抵抗した。
(わかってるんだ―――)
もう、みんなに――フレンに逢えないのだと、理解してるのに……
どうして、待っているんだ……
『ユーリ』
耳に残る彼の声に、ユーリは涙をこぼす日々を送った。
しかし、
「なん……で…」
久々に姿を見せたレボルの手に握られていたのはワンダーログと思われる情報誌。
俺はその見出しに釘付けになった。
「騎士団長のフレン・シーフォ、だろう?君がずっと焦がれていたのは」
そんな言葉も耳に届かぬままユーリはその文字を何度も目で追った。
『帝国騎士団長、婚約発表!』
微笑むフレンの顔と、あの女の幸せそうな顔がユーリの眼に映る。
知らず、ユーリの見開かれた瞳から涙が零れていたが、彼女は気づかない。
半開きになった唇から洩れるのは意味をなさない母音だけ。
彼女の脳裏に一気に押し寄せる、あの日の出来事。
幸せそうに恋人が出来たと報告するフレン。エステルに雰囲気の似た女。
その腕に抱かれた子犬。その犬を見ながら微笑み合う二人――
自分ではない女が、彼の傍にいる。彼が選んだ、彼が求めたのが自分ではなく彼女なのだ、とユーリは信じたくない現実を見やる。
カタカタと震え始めた体。「いやだ」と必死に否定する心。
だがしかし目前にある『真実』。
もう一度、ユーリの中にあの日の出来事が流れ込み、そして―――
「―――――――っぁ」
疼くはずのない腹の傷が、痛んだ。
作品名:さよならのじかん 2 作家名:あーね