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さよならのじかん 3

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「はい。あの女は口が軽いので恐らくは計画の詳細が漏れたと思われます」
「そうか」
「いかがなさいますか」
「捨て置け。今更帝国がどうしようと全ては手遅れだ。フィブールも上手くやるだろうしな」
「御意」
暗い部屋でのやり取りを聞くものはいない。
レボルは薄く笑うと隣にたたずむ黒衣を纏った女性の頬を撫でた。
「―――それと、レボル様」
「なんだ」
「その女をどうするつもりなのですか」
部下は主に問うた。その視線は主ではなく、その手の向かう先。
黒く染まった意思を移さない瞳に。
「気になるのか」
「……」
「世界に捧ぐ、生贄だよ」
暗い瞳は何もうつさない。




『その組織は、新しい魔導器を作っている』
捕えた女はそういった。
フレン達は、その女に拠点は何処か聞いたがさすがにそれを漏らすことはなかった。
女はしばらく拠点に帰っていなかったらしく、近況は知らないと馬鹿正直に話していた。
ただその女の言葉に引っ掛かったのが一つ。
『あの黒い女』その言葉だった。一同にとってその単語から連想できるのはただひとり、今この場に居ないユーリ。
弾かれたように女を問い詰めたフレンが聞きだしたのは、
『知らないよ、名前なんか。うちらのボスが欲しがってるってだけさ』
そう皮肉気に笑って、訂正した。
ああ、もう手に入れたと思うけどね。と
咄嗟に女を殴ることを押しとどめた自分の理性を褒めてやりたいとフレンは思った。

そしてフレン達は、女が零したノードポリカという単語を聞き行動を起こした。ノードポリかを目指す。
目指したはず、だったのだが。

「おお、なんじゃお前さんたちか」
「あら長老、お久しぶりね」
フレン達が立ち寄ったのはミョルゾだった。
ジュディスが目前に現れたミョルゾに立ち寄ることを提案したからだった。
曰く、少し調べたいことがあるのだと。
フレンは内心、手掛かりが掴めたことにより、早くユーリを探しに行きたかった。
そのためかなり渋っていたのだが、ジュディスがまさかこんな時に意味もない調べ物をするかと考えると、フレンは首肯するしかなかった。
もしかしたら、ユーリに関することかもしれない。
「それで、今日はどうしたのじゃ」
「少し長老様に教えてほしいことがあって」
ジュディスはじっと長老の眼をみて言った。
「凛々の明星のことについて」
「……」
「え、ジュディス?」
真剣な表情でそう語るジュディスに一同は困惑した。
唐突な彼女の言葉に長老も眉を寄せたが、何も言わない。だが瞳は語っていた。
『一体それをどこで』と。
「誰かに聞いた、とかじゃないわ。ただ疑問に思っただけ。満月の子は大昔から存在するのに対して、凛々の明星は物語に登場するだけ。それっておかしいと思わない?」
「そういやぁ、あの旅の中にも満月の子のことばかりで、凛々の明星についてはなにもなかったわね」
「満月の子が今も生き残っているのなら、その『兄であった凛々の明星』だって今も生きているんじゃないの?長老様」
「……ふむ」
ジュディスが語る推論に長老は難色を示す。それはつまり、
「……何か、知っているんですねご老人」
フレンは確信を持って聞いた。
「ねぇ、なんで今その凛々の明星のこと聞かなくちゃいけないの?ユーリとは関係ないでしょう?」
リタは浮かんだ疑問を素直に問うた。それには一同思うところがあるのか、ジュディスを見やる。
「あのひとが言っていたでしょう?『新しい魔導器を作っている』って」
ヘルメス式魔導器を作り上げた彼の娘だからか、ジュディスは魔導器に関することには敏感だった。そして同時に、何かが彼女の中で繋がったのだ。
「私がまだ幼い時、フェローが言っていたの。『明星の力があれば、或いは全てが収まるのに』とね」
「明星の、チカラ?」
「恐らくは凛々の明星の力だと思うわ。そうでしょう長老様?」
「……」
「それがどうして、魔導器をつくるということに繋がるんじゃ?」
「解らないわ。でも今この時にあの言葉を思い出したというのなら、何か意味があるんじゃないかと思って、ね。あの人たちの思い通りになんてさせたくないもの」
言ったジュディスは振り返って長老を見る。
長老は、目前にある多数の色合いのニ対の視線を一身に受けて、彼らしくない深いため息をついた。
「……クローネスに聞いてみるんじゃな。わしのうちには星喰みに関するものしかないんじゃ」
「ありがとう、長老様」
「ジュディス……あの黒い髪の人間はおらんのか」
「ユーリのことかしら?」
長老は頷いた。彼がユーリのことを気に掛けるとは正直誰も思っていなかった。
フレンは言い知れぬ不安に襲われた。
「あの子は無事か?」
「…え?」
「恐らくは、あの子が最後の一人じゃよ。……明星の一族の、な」



むかしむかし、ある一族にとても仲のいい兄妹がいました。
例えるなら、兄は『星』妹は『月』でした。
妹は、とても優しく、慈悲深い心を持っていましたが、その力は一族の本来の力を完全に引くことができなかった「出来損ない」でした。
兄は『凛々の明星』の一族の一員、妹は『満月の子』と括られる一員として区分されていました。
二人はそれでもとても仲が良く、お互いに羨望を向けることも、見下すこともなくいつも微笑み合っていました。
しかしある日、世界に『星喰み』という災厄がやってきました。
世界を導く『満月の子』は世界の意思にのみ従い、動く『凛々の明星』の一族に共に立ち向かうように言いました。
けれど明星の一族は首を縦に振ることなくこの戦いを傍観することを決めていました。
「星の意思のままに」
絶大な力をもつ明星の一族さえいれば世界の勝利は確実でした。
そんなとき、一族からただ一人助けに来たのはあの兄でした。
兄は妹の代わりにその一族最強の力を振るい、死した木々を蘇らせ、命尽きかけた者を留め、溢れたエアルを暖かな光へと還して行きました。
しかし、力を使いきった兄には災厄を打ち滅ぼすだけの力はありませんでした。
兄は命あるものに問いました。「生きたいか」と
命あるものは答えました「生きたい」と。
それを聞いた兄は妹に――世界の指導者に言いました。
「お前を残す、全ての満月の子の祈りを私が導こう」
兄はいいました。
妹は泣きながら何度も頷き、消えていく友の顔や大好きな兄を思い浮かべました。
その後、世界の中心に災厄を封じ始祖の隷長との約束を誓う証の巨大な指輪が置かれました。
そして世界は星喰みの恐怖から逃れたのです。

しかし―――明星の一族はその戦いで加勢することを拒んだことにより、人間、生き残った満月の子、始祖の隷長、魔物、そしてクリティア族の手により皆殺しにされた。
残ったのは、兄の血を引く娘夫婦と、その友人数名のみ。
不思議なことに、その絶大な力をもってすれば返り討に出来るというのに、彼らは抵抗を全くしなかったとクローネスは語った。
作品名:さよならのじかん 3 作家名:あーね