囚われ
ようやく不浄王との戦いに決着がつき、正十字騎士団京都支部に引きあげ、さらに宿泊先の旅館にもどったときに、そのひとと合流した。
そのひとは雪男と眼が合うと、笑った。
そして、近づいてきた。
「おたがい、ボロボロだよな〜」
まるで冗談のように、軽く、明るく、言った。
「……シュラさん」
だが、そう名を呼ぶ雪男の声は低く重かった。
しかし、もともと軽く話すほうではない。
シュラは特に気にしなかったようだ。
その唇がまた開かれる。
「大丈夫か?」
きっと軽く聞いてみただけなのだろう。
大丈夫か。
大丈夫です。
そんなふうに問いかけに対する返事が決まっている、あいさつのようなもの。
だから自分は、大丈夫です、と答えなければならない。
雪男は口を開いた。
大丈夫です、と言おうとした。
でも。
声が出ない。
言葉が出てこない。
大丈夫だと言えない。
どうしても。
結局、雪男はなにも言わないまま口を閉じた。
シュラはその大きな眼をいっそう大きくした。
「なんか、あったか?」
問いかけてくる声は穏やかで、優しかった。
なにもなかった。
そう答えなければならない。心配をかけたくない。子供扱いされたくない。
けれども、やはり声が出てこない。もう口を開くこともしなかった。
首を横に振ることすら、できなかった。
「話、聞いてやるよ」
シュラはほがらかに笑った。
「ついて来い」
そう告げると、シュラは歩きだした。
雪男はついていく。
まえを歩くシュラは深刻な問題などなにもないように、いつもと変わらない様子で歩いている。
だからだろう、知り合いが気軽に声をかけてきて、それに対してシュラも陽気に言葉を返したりしていた。
やがて、シュラは旅館の一室に入った。
雪男はそのあとに続き、部屋の戸を閉めてから、どんどん進んでいくシュラを追った。
和室に入る。