囚われ
「アタシは増援部隊の隊長だから、一人部屋なんだよな〜」
軽い口調で言うと、シュラは振り返って雪男を見た。
「だから、ふたりっきりだ。こんな時間だから、だれも訪ねてこないだろーし、悩みでも愚痴でも、気にせず、話せよ」
明るい笑顔だ。
「まあ、とりあえず座るか」
その眼が畳のほうに向けられる。
「シュラさん」
雪男が呼びかけると、シュラの眼はふたたび雪男のほうに向けられた。
そのシュラの眼を真っ直ぐに見て、雪男は言う。
「僕は藤堂に殺されそうになりました。そのとき、僕の視界が青くなりました」
シュラが息を呑んだ。
その顔から笑みが消え去っていた。
「それと同時に、藤堂は退きました」
緊張した面持ちでじっと見ているシュラに話し続ける。
「藤堂は僕に言いました。僕にも悪魔の要素がある、と」
口が勝手に動いているようだ。
頭はなにも考えていない。
こんなことを話していいのか、判断しない。
「それだけじゃない」
ただ話さずにはいられなくて話す。
「僕が藤堂を追い詰めたとき、藤堂は僕を見あげて、悪魔の顔だと言いました。そして、それが僕の本性だと言いました」
思い出すと、胸がざわめく。
心が乱される。
いつのまにか手を拳に握っていた。
奥歯を噛みしめたくなるような強い感情に襲われる。
言葉を無くしたように立ちつくしているシュラに、雪男は低く重い声で告げる。
「僕はいつか悪魔になるのかもしれない」
「雪男」
ようやくシュラが言葉を発した。
「そんなことはない。絶対に、ない」
「でも、僕はサタンの落胤だ」
即座に雪男は言い返した。
シュラの眼を斬りこむように強く見て、続ける。
「それに、シュラさんだって、僕が悪魔落ちするタイプだと言った」
「それは……」
一瞬、シュラの眼が泳いだ。
けれども、その視線はすぐに雪男のほうにもどってくる。
「たしかにアタシはそう言った。だけど、今はそう思ってない」
迷いのない強い瞳が、ひた、と見すえている。
「雪男、おまえは悪魔にはならない」
でも、あのとき、僕の眼は青く染まったんだ。
そう胸の中で叫ぶ。
心が激しく揺さぶられている。不安で、どうしたらいいのかわからなくなる。
頭はなにも考えずに、手が動いていた。
その手は心が求めるものを捕まえる。
「雪男……!?」
捕まえられたシュラは驚いた様子で、名を呼んだ。
しかし、それには構わず、雪男はシュラを引き寄せる。