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囚われ

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腕の中でシュラはあらがうように身体を張りつめさせている。
その身体を、雪男は抱きしめる。
「シュラさん」
力をゆるめないまま、腕の中にいるシュラに呼びかけた。
「僕が悪魔にならないって本気で思っているのなら、そう言ったのがただの慰めじゃないのなら、これからも僕にそう言ってください」
胸に湧きあがった激情を抑えることができない。
ぶつけずにはいられない。
言葉は口から飛び出ていく。
「ずっと僕のそばにいて、言い続けてよ……!」
切実に願っている。
ふと、腕の中のシュラの身体から力が少し抜けたのを感じた。抵抗する気がなくなったのだろうか。
こうしてシュラを抱いていて、わかったことがある。
それを話すことにする。
「シュラさん、あなたは昔、僕のまえから突然いなくなった。あとで、ヴァチカン本部に行ったと聞きました。それを教えてくれた神父さんは言った。寂しくなったな、って。でも、僕はそれに対して、僕はあのひとが嫌いだから、いなくなったって寂しくないって答えました」
あのあと、雪男と燐の後見人だった藤本獅郎は、そうか、と眼を細めて言うと、その話題を終わりにした。
だが、雪男の言ったことを鵜呑みにしたわけではなかっただろう。
きっと、雪男の本心を見抜いていただろう。
今になって、それに気づいた。
「でも、本当は違った。認めるのが悔しくて、認められなかったけれど、本当は、僕はあなたがいなくなって寂しかった」
胸の奥底に閉じこめていた感情が、封が解かれたように、あふれ出す。
「あれから再会するまで、あなたは僕のことを一度も思い出さなかったかもしれない。でも、僕は何度も思い出した。そして、思い出すたび、あなたのことを否定した。自分の気持ちも否定した」
そうせずにはいられなかった。
別れを告げずに自分のまえからいなくなり、もう二度と会うことはないかもしれない相手を、何度も思い出して寂しがるなんて、寂しすぎるし、悔しい。
その相手も、自分の気持ちも、否定せずにはいられなかった。
「シュラさんは、以前、僕に正直なところを聞かせろって言った。僕はあのとき、僕は昔からあなたが嫌いだと答えた」
祓魔塾のトレーニングルームで久しぶりに勝負をしたときのことだ。
「でも、それも、本当は、違う」
言葉をしぼり出すように言う。
長いあいだ、閉じこめて見ないようにしていた想いだ。
「本当は、その真逆だ」
好きだった。
昔から。
あの頃、トレーニングルームで勝負をして、勝って、シュラは無邪気に喜んだ。
経験の少ない子供に勝って当たりまえで、それで、おごらせて喜ぶなんてと、反撥した、腹をたてた。
だけど、よく考えてみれば、勝って当たりまえの子供と勝負して、楽しかったのだろうか。一度や二度ならともかくとして、何度もだ。
あれは訓練に付き合ってくれていたのではないかと思う。
その推測が外れであったとしても、シュラとの勝負があって自分が鍛えられたのは事実である。負けた悔しさをバネにしていた。
いや、鍛えられたかどうかが重要なのではない。
あの頃、雪男がトレーニングルームで訓練していると、いつもではないがシュラがやってきた。
そして、シュラは明るく笑って、勝負しよう、と声をかけてくるのだ。
他の塾生が相手にはしない、見向きもしない、子供に、だ。
そのことが、ただ単にそれだけのことが、認めるのが悔しくて今まで認めてこなかったけれど、本当は、嬉しかった。
「僕はあなたが好きだ」
嘘偽りのない正直な気持ちを告げる。
「あなたでなければダメなんだ」
そして、腕の力をゆるめた。
シュラを解放する。
けれども、シュラは去っていかない。
その大きな眼でじっと雪男を見ている。
卑怯なことをしている、と思う。
わかっている、そんなこと。
でも、わかっていて、自分を止めることができない。
自分に向けられた眼を見て、言う。
「同情でもなんでもいいから、あなたがほしい」
シュラの優しさに、つけいる。
同じ気持ちを返してほしいと言っても、無理なものは無理と断られるかもしれない。しかし、同情でもいいとなれば、話は違ってくる。
シュラは、きっと、見捨てることができないだろう。
実際、シュラは動かずにいる。
雪男は手をあげ、シュラの顔のほうにやる。
それでも、シュラは動かない。
だから、雪男は一気に距離を詰めた。
おたがいの顔が近い。
距離が無くなる。
そして、やわらかな唇に触れた。



「雪男」
身体の下にいるシュラが呼びかけてきた。
「安心しろ」
シュラが見あげて、言う。
「おまえは悪魔の顔なんかしてない」
その顔は笑っていた。



おまえのすべてを受け入れる、と、そのひとは優しく言った。




泣いてしまいそうに、なった。







作品名:囚われ 作家名:hujio