こらぼでほすと 約束1
ティエリアの目の前には、新しくロールアウトした機体がある。まだカラーリングはされていないが、これは緑を基調とした配色がされる予定になっている。ただし、搭乗者は現在、未確定だ。そして、その横に、その前にロールアウトしてオレンジを基調としたカラーリングがされた機体がある。こちらは、搭乗者は確定しているものの、その当人が行方不明という機体だ。オレンジの機体は、すでに太陽炉をセッティングしてティエリアが試験飛行をこなしている。必ず、この機体に搭乗させるつもりだから、その行方不明のバカに見合うシートやラダーの設定もしてある。ただし、緑の機体には、まだ何もしていない。それを見る度に、ティエリアは悲しい気分になる。刹那が探してくるという搭乗者のために準備はしているが、複雑な気分だ。その機体は、ロックオン・ストラトスというコードネームの人間が乗るに相応しい機体だ。遠距離射撃に突出した後方支援機だからだ。
・・・・だが、もう、あの人には乗って欲しくない・・・・
ティエリアは、そう心で呟いて、溜め息をつく。とはいうものの、この機体に相応しいのは、ロックオン・ストラトスであることも間違いではない。一緒に数々のミッションをクリアーしてきたのは、マイスター組リーダーだったロックオン・ストラトスという男だ。それがリタイヤして、この機体の搭乗者は定かではない状態だ。ティエリアも後方支援機ではあったが、フォローはしてもらっていた。今度は、そんなことはしてもらえないだろう。なんせ、この機体に乗るのは、マイスターとしては初心者になるはずだからだ。
「アーデさん、ケルビィムのマッチングテストを始めたいですぅ。」
ティエリアのインカムにミレイナの声が届く。これから、このロールアウトした機体ケルビィムに、先代デゥナメスの太陽炉をセッティングしてマッチングを開始する。これが終われば、カラーリングを施して本格的な試験飛行へと移行する。これが最後の機体だ。刹那の機体だけは、太陽炉のマッチングが捗らないが、それ以外のセラビィムとアリオスは、それも終了している。四機が揃えば、本格的に再始動の時期が来る。それまでに、刹那も戻って来るだろう。のんびりしている暇はない。まだまだ組織の再始動までにやることは山積みしている。
「ミレイナ、マッチングテストを始める。太陽炉のセットをしてくれ。」
「了解ですぅ。三時間かかりますから、アーデさんは休んでください。」
「いや、俺も手伝うぞ。」
インカムに話しかけながら、ティエリアも歩き出す。誰が搭乗することになるのかわからないケルビィムを横目にして、やるしかない、と、意識は切り替えた。世界を変えるために紛争を武力で抑え込む。それが、この組織の理念だ。だから、理念を遂行するためには、この四機が完璧なものでなければならない。世界の変革を誘発して、新たな世界へ変わらせるために、組織は動き続けているのだから、参加するティエリアも、それを進めることが目的である。
四月の頭に二回目の漢方薬治療を受けたニールは、体調も安定している。シンとレイがアカデミーの研修でプラントへ出向いていたので、ホストが不足している『吉祥富貴』の手伝いには、毎日のように出ていた。五月六月は、そんなわけで忙しくしていたのだが、いつもなら入梅でダウンしているはずが、今年は空梅雨で元気に寺で女房をやっている。予定よりも一ヶ月長くなった研修からシンとレイが戻って来た六月の初めも、そんなわけで寺で暮らしていた。
「元気そうだな? ねーさん。」
「まあ、なんとかな。今年は空梅雨ってやつで、雨が降らないからダウンしなくて済んでるよ。」
「でも、長期予報では七月初めくらいが危険だということですから、無理はしないでくださいね、ママ。」
「ぼちぼちと動いてるさ。お疲れさん、シン、レイ。」
予定より時間がかかったのは、研修の後でザフトのほうで手伝いをしていたということになっている。実際は、民間の輸送船を使って、あっちこっちに内緒の補給物資を運ぶ仕事が、ふたりだけだったから時間がかかった。廃棄衛星や歌姫様が関係する企業体やオーヴの資源衛星に移動するのに、連合の追跡を避けていたから、予定よりも移動が難しかったからだ。ふたりだけの任務だと、いつものように命じられることをクリアーするという単純な任務というわけにはいかない。虎と鷹は、とりあえず、そこいらからシンたちを鍛えようという意図もあったらしい。そろそろ、ふたりにも自分たちで判断して差配する仕事もできるだろうとのことだった。もちろん、シンとレイも、それには頷いた。命じられる仕事をクリアーしているだけでは、この先、動けなくなるのは理解しているからだ。ちゃんと自分で判断して動くことの大切さは、先の大戦で身に染みている。だが、初任務で慎重になったから、虎たちがやるより時間は必要になった。結果として余分に一ヶ月増えたわけだ。
「えーっと、九月からアカデミーなんだろ? 他の研修とかあるのか? 」
「ああ、細かいのがあるから、いろいろと参加してみるつもり。でも、時間的には余裕はあるから、バイトも再開させる。」
「せっかくなら、入学するまでに知識は詰めておきたいので。」
「無理しない程度にな。」
寺の女房は、そう言って微笑んでいる。実際は、これから、刹那たちの組織の再始動まで情報の確保に奔走することになる。アローズが軌道ステーションにも武器を作り上げているから、そこいらの確認が現在の最重要課題だ。どういうものなのか、まだ判明していない。キラたちが、そこいらを調べているが、未確定である。場所が場所だけに、そこから地球に向けて高出力レーザーなどを発射されれば、オーヴなどはひとたまりもないからだ。連合に組していない国家群を守るために、キラは、その正体を調べている。ある程度、その正体が判明したら宇宙から、その確認もすることになるだろう。だから、シンとレイの機体は現在、プラントに係留されている。
「俺らが復帰するから、ねーさんはバイトの日数は減らせよ? 」
「これから温度と湿度が上がります。ママは、あまり働いてはいけません。」
「わかってるよ。」
空梅雨だから、毎日、晴天が続いている。いつもなら肌寒い日もあるのだが、ここんところは夏のような気候だ。手伝いとはいえ、店で働いて、寺のこともしていると、結構な労働量になる。その辺りは、アスランや八戒も考えているのか、毎日だったニールの出勤を週三日に変更することになっている。
シンとレイが帰ると、ニールは独りだ。ぼんやりと回廊に立って、境内へ目をやる。青々とした桜の葉が目に入る。今年も、桜の季節を逃した。ニール自身も治療を受けていたし、黒子猫もユニオンへ旅立ったからだ。
・・・・だが、もう、あの人には乗って欲しくない・・・・
ティエリアは、そう心で呟いて、溜め息をつく。とはいうものの、この機体に相応しいのは、ロックオン・ストラトスであることも間違いではない。一緒に数々のミッションをクリアーしてきたのは、マイスター組リーダーだったロックオン・ストラトスという男だ。それがリタイヤして、この機体の搭乗者は定かではない状態だ。ティエリアも後方支援機ではあったが、フォローはしてもらっていた。今度は、そんなことはしてもらえないだろう。なんせ、この機体に乗るのは、マイスターとしては初心者になるはずだからだ。
「アーデさん、ケルビィムのマッチングテストを始めたいですぅ。」
ティエリアのインカムにミレイナの声が届く。これから、このロールアウトした機体ケルビィムに、先代デゥナメスの太陽炉をセッティングしてマッチングを開始する。これが終われば、カラーリングを施して本格的な試験飛行へと移行する。これが最後の機体だ。刹那の機体だけは、太陽炉のマッチングが捗らないが、それ以外のセラビィムとアリオスは、それも終了している。四機が揃えば、本格的に再始動の時期が来る。それまでに、刹那も戻って来るだろう。のんびりしている暇はない。まだまだ組織の再始動までにやることは山積みしている。
「ミレイナ、マッチングテストを始める。太陽炉のセットをしてくれ。」
「了解ですぅ。三時間かかりますから、アーデさんは休んでください。」
「いや、俺も手伝うぞ。」
インカムに話しかけながら、ティエリアも歩き出す。誰が搭乗することになるのかわからないケルビィムを横目にして、やるしかない、と、意識は切り替えた。世界を変えるために紛争を武力で抑え込む。それが、この組織の理念だ。だから、理念を遂行するためには、この四機が完璧なものでなければならない。世界の変革を誘発して、新たな世界へ変わらせるために、組織は動き続けているのだから、参加するティエリアも、それを進めることが目的である。
四月の頭に二回目の漢方薬治療を受けたニールは、体調も安定している。シンとレイがアカデミーの研修でプラントへ出向いていたので、ホストが不足している『吉祥富貴』の手伝いには、毎日のように出ていた。五月六月は、そんなわけで忙しくしていたのだが、いつもなら入梅でダウンしているはずが、今年は空梅雨で元気に寺で女房をやっている。予定よりも一ヶ月長くなった研修からシンとレイが戻って来た六月の初めも、そんなわけで寺で暮らしていた。
「元気そうだな? ねーさん。」
「まあ、なんとかな。今年は空梅雨ってやつで、雨が降らないからダウンしなくて済んでるよ。」
「でも、長期予報では七月初めくらいが危険だということですから、無理はしないでくださいね、ママ。」
「ぼちぼちと動いてるさ。お疲れさん、シン、レイ。」
予定より時間がかかったのは、研修の後でザフトのほうで手伝いをしていたということになっている。実際は、民間の輸送船を使って、あっちこっちに内緒の補給物資を運ぶ仕事が、ふたりだけだったから時間がかかった。廃棄衛星や歌姫様が関係する企業体やオーヴの資源衛星に移動するのに、連合の追跡を避けていたから、予定よりも移動が難しかったからだ。ふたりだけの任務だと、いつものように命じられることをクリアーするという単純な任務というわけにはいかない。虎と鷹は、とりあえず、そこいらからシンたちを鍛えようという意図もあったらしい。そろそろ、ふたりにも自分たちで判断して差配する仕事もできるだろうとのことだった。もちろん、シンとレイも、それには頷いた。命じられる仕事をクリアーしているだけでは、この先、動けなくなるのは理解しているからだ。ちゃんと自分で判断して動くことの大切さは、先の大戦で身に染みている。だが、初任務で慎重になったから、虎たちがやるより時間は必要になった。結果として余分に一ヶ月増えたわけだ。
「えーっと、九月からアカデミーなんだろ? 他の研修とかあるのか? 」
「ああ、細かいのがあるから、いろいろと参加してみるつもり。でも、時間的には余裕はあるから、バイトも再開させる。」
「せっかくなら、入学するまでに知識は詰めておきたいので。」
「無理しない程度にな。」
寺の女房は、そう言って微笑んでいる。実際は、これから、刹那たちの組織の再始動まで情報の確保に奔走することになる。アローズが軌道ステーションにも武器を作り上げているから、そこいらの確認が現在の最重要課題だ。どういうものなのか、まだ判明していない。キラたちが、そこいらを調べているが、未確定である。場所が場所だけに、そこから地球に向けて高出力レーザーなどを発射されれば、オーヴなどはひとたまりもないからだ。連合に組していない国家群を守るために、キラは、その正体を調べている。ある程度、その正体が判明したら宇宙から、その確認もすることになるだろう。だから、シンとレイの機体は現在、プラントに係留されている。
「俺らが復帰するから、ねーさんはバイトの日数は減らせよ? 」
「これから温度と湿度が上がります。ママは、あまり働いてはいけません。」
「わかってるよ。」
空梅雨だから、毎日、晴天が続いている。いつもなら肌寒い日もあるのだが、ここんところは夏のような気候だ。手伝いとはいえ、店で働いて、寺のこともしていると、結構な労働量になる。その辺りは、アスランや八戒も考えているのか、毎日だったニールの出勤を週三日に変更することになっている。
シンとレイが帰ると、ニールは独りだ。ぼんやりと回廊に立って、境内へ目をやる。青々とした桜の葉が目に入る。今年も、桜の季節を逃した。ニール自身も治療を受けていたし、黒子猫もユニオンへ旅立ったからだ。
作品名:こらぼでほすと 約束1 作家名:篠義