お友達から始めよー!
「さすが農耕民族」
素直に感心したのだが微妙に顔が曇ったような気もする。だから俺に顔色読めとか無理だって。
「おっと、そうだ、明日の天気は」
アメリカはテレビをつけるがあいにく今は午後2時で、天気予報はやっていない。パソコンの電源も切れている。簡単にわかる方法ないかな、簡単なやつ、簡単なやつ。
「うーん、うーん、う・・・・・・そうだ!」
腕組みをして考えていたアメリカはパッと立ち上がると室内履きのかかとを踏みつけ、右足を軽く振ると「よっ」と声をかけて室内履きを放り投げた。
戸口近くに落ちた室内履きはころころと2,3回転がり、底を見せて止まった。
「えぇー」
アメリカは左の室内履きも同じことをして放り投げたが、それも底を見せて止まった。
「えぇぇぇー、・・・・・・明日、雨かぁ」
日本が教えてくれた天気占いをアメリカはことのほか気に入っていた。たとえ窓の外に広がる空がとてもきれいな青色でどう見ても雨じゃないと明らかだったとしても、今は日本のことを考えながら室内履きを放り投げたのだからこの結果は日本の天気予想なのだ。
「雨ぇ〜・・・・・・」
少ししょんぼりした声になったがそこはアメリカ。いつでもポジティブ街道をひた走っている。
傘を持って迎えに来てくれるかなと思い、来てくれるといいなと期待して、来てくれるに違いないと頷いた。だから傘は置いていこう。トランクから傘を取り出しながらアメリカは日本の優しい言葉を思い出していた。
『あーした天気になぁれって言うんですよ』
日本は腹の底から笑えるようなことを言わないけど、せっかちなアメリカの肩の力を抜いてくれる。いつも子分みたいに扱ってしまうから、そしてそれに文句を言わないから気にも留めていないけど、もしかしたら日本は小さな身体に秘めた大きな余裕でアメリカを幼い子供にするようにあやしているのかもしれない。
「そういうとこ、まいっちゃうよネー」
いつもいつも遊びに行ってしまうのは心地いいから。日本が喋らなくたって、緑茶しかだしてくれなくたって、早朝にラジオ体操をさせられたって、いいや。
「俺ってば、すっごく日本のこと好きなんだよ〜」
るるるんっとアメリカは鼻歌を歌う。ラブユーと口にしたいのだけど、シャイな日本にそんなことを言ったら引きこもってしまうかもしれない。君っていい奴だねーと肩を組むだけで顔を赤らめて恥ずかしがるくらいだから。
「まずは俺に慣れてくれないとね」
さすがのアメリカも日本相手じゃ勝手がわからない。欧州組なら見た目も似てるしなんとか予想もつくが、アジア組はどこを見てもどこをとっても理解不能。その筆頭の日本には長期戦を覚悟している。俺のこと好きになってくれないかなぁ。
隠し事は苦手だし、ラブもライクも思ったときに言わないとすっきりしないのは性格なのだけど、ちょっとしたことですぐに引きこもってしまう日本相手じゃ仕方ない。
「俺にしてはすっごーい譲歩してるんだゾ」
強引にアピールしつつ、柄にもなく顔色を伺っている。・・・・・・どうせ読めないけど。
いつかこの腕の中で笑ってくれるといいな。キスしても笑ってくれると嬉しいな。ふわふわの小さなひよこに触るときより優しくするよ。
明日は手をつないでも許してくれるかなぁ。お友達気分でいいからサ。
俺は単純だから『仕方のない人ですね』って苦笑してくれたらそれだけでハッピーになっちゃうよ。
アメリカの脳裏には少し首をかしげて恥ずかしげに微笑む日本の姿がはっきりと浮かんでいてそれだけで嬉しくなってしまった。
作品名:お友達から始めよー! 作家名:かける