Amazing Grace
ヴェスターラントへの攻撃で命を落とした住人は、約二〇〇万人。その中には、故郷を救えず自殺した兵士の数も含まれている。
「ヴェスターラントの悲劇」に纏わるローエングラム陣営の行動の是非は、しばしば詮議の的となる。
二〇〇万という人命が多いか、少ないか。
救える筈だったものを救わなかったことが罪か、否か。
非戦闘員を見殺しにしたということが人道に悖るか、否か。
どんな理由があるにせよ、「ヴェスターラントの悲劇」は許されるべきことではない。それは、攻撃を行なった陣営、それを阻止しなかった陣営、どちらも同様である。
だが、人の命が平等というならば、何故非戦闘員であることを喧伝するのか。
より多くを救おうとしたことが罪であるならば、自らの心の安寧を計り、更なる流血が予測されても二〇〇万の人命を救った――二〇〇万しか救わなかった場合が善であるのだろうか。
決してひとつとは成り得ないそれらの答え。
それは、人間の多様性を考えると、ある意味当然の結果だろう。
ただひとつ、ここに記しておきたい。
自らの矜持より、良心より、より多くの人命を救う選択をした人物と、その彼に従おうとしたもの達がいたことを―――。
作品名:Amazing Grace 作家名:瑞菜櫂