こらぼでほすと 約束6
なんとか仕事のノルマをクリアーした坊主は帰れることになった。荷物の手配をしたり飛行機のチケットを取ったりという用件があるから、即日帰れるわけではない。明後日の早朝に寺を離れる算段をして、やれやれと酒を呑んでいたら、上司様ご一行様が押しかけてきた。名目は、どっかの某菩薩様の代理で礼を言いに、というところらしい。
「ニールの父親から酒が届いたんだが、菩薩と二郎神君が大喜びで礼を言って欲しいとさ。確かに、うまかった。」
出かける前に頼んでいたものが届いたらしい。トダカのセレクトなら、相当に美味い酒だろう。
「定期的にっていうなら、金払えって菩薩に言っとけ。あれは高いはずだ。」
「お金を払ってでも飲みたいでしょうねぇ。特区の酒が、あんな美味しいと思わなかったらしいですから。」
市販で特区中に売られている酒というのは人工アルコールで作られたもので、それは菩薩も飲んだことがあった。薬臭いし甘ったるいものばかりで美味くなかったそうだが、トダカのセレクトで目から鱗が落ちたという。
「そりゃ、トダカさんは趣味が酒だもんな。」
ホストクラブ『吉祥富貴』の酒を担当しているのもトダカだ。資格は持っていないが、ありとあらゆる酒は試したと言われている。その話は、悟空も聞いていた。そうでないなら、お客様各人に合わせたカクテルなんて造れるはずがない。
「こっちの酒と物々交換ってことで頼んでおいてくれないか? 三蔵。貨幣は面倒だ。」
「第一陣で送ったのの感想を教えてくれたら、それで、トダカさんの好みも判るからな。」
金蝉は某菩薩から、そう申し渡された、と、言う。その物々交換のブツを用意するのは捲簾だというのは決まっているらしく、大将様も、そうおっしゃる。まあ、貨幣なんてものは神仙界では流通していないので換金するのが面倒ということだろう。本山のある地域の貨幣なら簡単に手に入るが、特区の貨幣は換金場所が限られる。トダカのことだから娘のクスリの礼ということで代金は受け取らないと、坊主でも推測できるから、それで了承しておくことにした。
「ついでに、あちらの乾麺なんかも入れておいてくださいよ、悟空。僕は個人的に八戒に、いろいろと頼むつもりなんで、それと一緒にお願いします。」
「残ってるの、置いて帰るつもりだったんだけどさ。ごめん、全部食っちまった。」
「残ると思ったんですけどね。」
「本山のメシはカロリーが足りないんだ。しょーがねぇーだろ。」
大きな箱一杯に、カップラーメンとかお菓子があったのだが、あっという間に悟空は食べてしまった。味見させてもらおうと思っていた天蓬の目論みは、呆気なく崩壊した。精進料理がメインになる寺の食事では、悟空の腹は満たされない。現在、最後のスナック菓子を、がしがしと消費している。
坊主のグラスに酒を注いで、童子様は自分の分にも注ぐ。酒瓶を大将に渡して、ニヤリと坊主に笑う。
「これから、しばらく人界も騒がしいんだろ? おまえの女房は大丈夫か? 」
「今のところは生きてるぞ。ダメなら半殺しにして寝かせておく。」
「まあ、妥当な処置だろうな。来年には終わりそうか? 」
「いや、再来年ぐらいだろ。それまでは来ても相手できねぇーからな、金蝉。」
「早々には降りられない。五年は空けないと、言い訳が難しい。」
「五年もすりゃ、いろいろと終わってるだろう。サルがアカデミーも卒業するだろうしな。」
悟空は、バイオの勉強が気に入ったので、さらにアカデミーへ行きたい、と、言い出した。博士課程まで行くとなれば、それぐらいの時間がかかる。その頃になったら、一度、本山に帰るか、場所を移すかしないといけないから、ちょうどいい按配だ。その頃に、いろんな決着はついているはずだ。
「でも、本山には毎年、帰って来てくださいよ? 三蔵。女房恋しさにスルーなんかすると、どっかの菩薩から非常召集が発せられますから。」
元帥様は、コップの酒をくいっと煽って微笑む。以前、坊主が一年すっぽりとスルーしたら、上司の更に上の上司から呼び出しを受けたことがある。本山の寺院の管理責任者ぐらいこなせ、と、叱られたのだ。
「けっっ、うぜぇ。サルだけ来させればいいじゃねぇーか。」
「はははは・・・ご冗談を。あなた、うちのアイドルだから一年に一度くらいは顔を見せないと、みなさんが暴れますよ? 」
「だぁーれがっっ、アイドルだっっ。天蓬っっ。」
「おまえだ、三蔵。悟空も、そうだが、おまえも可愛いらしいぞ? 菩薩も神君も、なんだかんだ言って、おまえと会うじゃねぇーか。」
いろいろと稀有な縁があって、坊主もサルも神仙界の方々に人気がある。金蝉と並べたりすると、かなり楽しい余興になるらしい。良家のぼっちゃん然とした金蝉と、どう見ても極道系の三蔵が同じものがあるのに、やることなすこと真逆なのが堪らないらしい。まさに生活環境の違いって素晴らしいを体現している。
「そうだよなあ。神君は、俺よりさんぞーのほうがお気に入りだぜ? たぶん。いつも、『ご苦労様。』って肩を叩くもんな。」
「まあ、厳しい人生を送って、ツッコミ役をさせられてるんだから、同じような境遇の神君としては三蔵に共感すんだろうぜ。」
「そうでしょうねぇ。どっかの菩薩の無茶ぶりに耐えてますからねぇ。」
「こいつ、無茶ブリなんてさせられてるか? されてるのは悟浄だろ? 」
人界に住んでるメンバーで一番、苦労しているのは悟浄だろう、と、金蝉は言うのだが、いやいやいや、と、天蓬が手を横に振る。
「こっちに戻ると、僕らに弄り倒されてますからね。そこのところですよ、金蝉。」
「ああ、そういやそうだな。無茶ブリしてんのは、おまえじゃないか? 天蓬。」
「僕は無茶ブリなんて・・・とてもとても。やってるのは菩薩です。」
自分のことは棚に上げて元帥様は澄ました顔で微笑む。こっちに戻ると、唯我独尊の坊主でも上からの命令なんてものがある。さすがに、それは暴れて、なかったものにできないから唯々諾々と従っている。いや、たまにキレたら暴れているが、それも上司様も、その上の上司様も生暖かい目で見ていらっしゃる。子供が駄々を捏ねているぐらいの感覚らしい。
「よく言うぜ。」
「まったくだ。」
大将様と童子様は、呆れたように同時に呟いたが、大将様は、「いてっ。」 と飛び上がった。太ももを抓られたらしい。
「僕の言葉は肯定してくださいよ、捲簾。」
「事実は曲げられないんだがな? 天蓬。」
「僕、あなたの上司なんですが? 」
「上司が間違ってりゃ正すのが臣下の勤めだ。」
「上司だと思ってるんですか? 」
「形式的にはな。」
「くくくく・・・実情は? 」
「手のかかる女房だと思ってる。」
「手がかかるから可愛いんでしょ? 」
「まあなあ。」
天然でいちゃこらして酒を酌み交わしているので、ここの夫夫にはツッコミはしない。それはスルーして、悟空は、パリパリと残っていた煎餅を食べているし、童子様と坊主は、明後日の方向に顔を向けて違う話題に入っている。
「おまえ、女房に三行半を渡すんなら、おまえの女房を俺にくれ。」
「ああ? てめぇー酔ったのか? 金蝉。」
「俺だけ相手がいねぇー。」
「どっかで探して来い。うちのは俺のだ。やらんっっ。」
「ニールの父親から酒が届いたんだが、菩薩と二郎神君が大喜びで礼を言って欲しいとさ。確かに、うまかった。」
出かける前に頼んでいたものが届いたらしい。トダカのセレクトなら、相当に美味い酒だろう。
「定期的にっていうなら、金払えって菩薩に言っとけ。あれは高いはずだ。」
「お金を払ってでも飲みたいでしょうねぇ。特区の酒が、あんな美味しいと思わなかったらしいですから。」
市販で特区中に売られている酒というのは人工アルコールで作られたもので、それは菩薩も飲んだことがあった。薬臭いし甘ったるいものばかりで美味くなかったそうだが、トダカのセレクトで目から鱗が落ちたという。
「そりゃ、トダカさんは趣味が酒だもんな。」
ホストクラブ『吉祥富貴』の酒を担当しているのもトダカだ。資格は持っていないが、ありとあらゆる酒は試したと言われている。その話は、悟空も聞いていた。そうでないなら、お客様各人に合わせたカクテルなんて造れるはずがない。
「こっちの酒と物々交換ってことで頼んでおいてくれないか? 三蔵。貨幣は面倒だ。」
「第一陣で送ったのの感想を教えてくれたら、それで、トダカさんの好みも判るからな。」
金蝉は某菩薩から、そう申し渡された、と、言う。その物々交換のブツを用意するのは捲簾だというのは決まっているらしく、大将様も、そうおっしゃる。まあ、貨幣なんてものは神仙界では流通していないので換金するのが面倒ということだろう。本山のある地域の貨幣なら簡単に手に入るが、特区の貨幣は換金場所が限られる。トダカのことだから娘のクスリの礼ということで代金は受け取らないと、坊主でも推測できるから、それで了承しておくことにした。
「ついでに、あちらの乾麺なんかも入れておいてくださいよ、悟空。僕は個人的に八戒に、いろいろと頼むつもりなんで、それと一緒にお願いします。」
「残ってるの、置いて帰るつもりだったんだけどさ。ごめん、全部食っちまった。」
「残ると思ったんですけどね。」
「本山のメシはカロリーが足りないんだ。しょーがねぇーだろ。」
大きな箱一杯に、カップラーメンとかお菓子があったのだが、あっという間に悟空は食べてしまった。味見させてもらおうと思っていた天蓬の目論みは、呆気なく崩壊した。精進料理がメインになる寺の食事では、悟空の腹は満たされない。現在、最後のスナック菓子を、がしがしと消費している。
坊主のグラスに酒を注いで、童子様は自分の分にも注ぐ。酒瓶を大将に渡して、ニヤリと坊主に笑う。
「これから、しばらく人界も騒がしいんだろ? おまえの女房は大丈夫か? 」
「今のところは生きてるぞ。ダメなら半殺しにして寝かせておく。」
「まあ、妥当な処置だろうな。来年には終わりそうか? 」
「いや、再来年ぐらいだろ。それまでは来ても相手できねぇーからな、金蝉。」
「早々には降りられない。五年は空けないと、言い訳が難しい。」
「五年もすりゃ、いろいろと終わってるだろう。サルがアカデミーも卒業するだろうしな。」
悟空は、バイオの勉強が気に入ったので、さらにアカデミーへ行きたい、と、言い出した。博士課程まで行くとなれば、それぐらいの時間がかかる。その頃になったら、一度、本山に帰るか、場所を移すかしないといけないから、ちょうどいい按配だ。その頃に、いろんな決着はついているはずだ。
「でも、本山には毎年、帰って来てくださいよ? 三蔵。女房恋しさにスルーなんかすると、どっかの菩薩から非常召集が発せられますから。」
元帥様は、コップの酒をくいっと煽って微笑む。以前、坊主が一年すっぽりとスルーしたら、上司の更に上の上司から呼び出しを受けたことがある。本山の寺院の管理責任者ぐらいこなせ、と、叱られたのだ。
「けっっ、うぜぇ。サルだけ来させればいいじゃねぇーか。」
「はははは・・・ご冗談を。あなた、うちのアイドルだから一年に一度くらいは顔を見せないと、みなさんが暴れますよ? 」
「だぁーれがっっ、アイドルだっっ。天蓬っっ。」
「おまえだ、三蔵。悟空も、そうだが、おまえも可愛いらしいぞ? 菩薩も神君も、なんだかんだ言って、おまえと会うじゃねぇーか。」
いろいろと稀有な縁があって、坊主もサルも神仙界の方々に人気がある。金蝉と並べたりすると、かなり楽しい余興になるらしい。良家のぼっちゃん然とした金蝉と、どう見ても極道系の三蔵が同じものがあるのに、やることなすこと真逆なのが堪らないらしい。まさに生活環境の違いって素晴らしいを体現している。
「そうだよなあ。神君は、俺よりさんぞーのほうがお気に入りだぜ? たぶん。いつも、『ご苦労様。』って肩を叩くもんな。」
「まあ、厳しい人生を送って、ツッコミ役をさせられてるんだから、同じような境遇の神君としては三蔵に共感すんだろうぜ。」
「そうでしょうねぇ。どっかの菩薩の無茶ぶりに耐えてますからねぇ。」
「こいつ、無茶ブリなんてさせられてるか? されてるのは悟浄だろ? 」
人界に住んでるメンバーで一番、苦労しているのは悟浄だろう、と、金蝉は言うのだが、いやいやいや、と、天蓬が手を横に振る。
「こっちに戻ると、僕らに弄り倒されてますからね。そこのところですよ、金蝉。」
「ああ、そういやそうだな。無茶ブリしてんのは、おまえじゃないか? 天蓬。」
「僕は無茶ブリなんて・・・とてもとても。やってるのは菩薩です。」
自分のことは棚に上げて元帥様は澄ました顔で微笑む。こっちに戻ると、唯我独尊の坊主でも上からの命令なんてものがある。さすがに、それは暴れて、なかったものにできないから唯々諾々と従っている。いや、たまにキレたら暴れているが、それも上司様も、その上の上司様も生暖かい目で見ていらっしゃる。子供が駄々を捏ねているぐらいの感覚らしい。
「よく言うぜ。」
「まったくだ。」
大将様と童子様は、呆れたように同時に呟いたが、大将様は、「いてっ。」 と飛び上がった。太ももを抓られたらしい。
「僕の言葉は肯定してくださいよ、捲簾。」
「事実は曲げられないんだがな? 天蓬。」
「僕、あなたの上司なんですが? 」
「上司が間違ってりゃ正すのが臣下の勤めだ。」
「上司だと思ってるんですか? 」
「形式的にはな。」
「くくくく・・・実情は? 」
「手のかかる女房だと思ってる。」
「手がかかるから可愛いんでしょ? 」
「まあなあ。」
天然でいちゃこらして酒を酌み交わしているので、ここの夫夫にはツッコミはしない。それはスルーして、悟空は、パリパリと残っていた煎餅を食べているし、童子様と坊主は、明後日の方向に顔を向けて違う話題に入っている。
「おまえ、女房に三行半を渡すんなら、おまえの女房を俺にくれ。」
「ああ? てめぇー酔ったのか? 金蝉。」
「俺だけ相手がいねぇー。」
「どっかで探して来い。うちのは俺のだ。やらんっっ。」
作品名:こらぼでほすと 約束6 作家名:篠義