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金色の双璧 【連続モノ】

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『―――アイオリア!!』

 ぼへぇ・・・と考え事をしながら、机に足を乗せて、見てもいない書類を片手に椅子をギコギコ鳴らしていたアイオリアは突然、脳内に響き渡った声に驚き、そのままバランスを崩して椅子ごとひっくり返った。
「・・・・ってぇ!何だ!?ムウ!いきなり、うるさいっ。俺は今仕事中だ!!」
 ぶつけた頭をさすりながら、声の主に向かってわめく。
『どうせ、サボってたんでしょうが。それより、アイオリア、今すぐインドに行きなさい』
「はぁあ?どうしてだ?」
『つべこべ言わずに。行けばわかります』
「行くっていってもインドくんだりまで、何しに行くんだ?何かマズイ事が起きているっていうんなら、俺よりもシャカに言え。あいつインドにいるんだから」
『知ってますよ。貴方に言われなくてもね』
「そうだったな。おまえはシャカと会ってたんだろ?兄貴から聞いている」
 ムスっと床の上で胡坐をかきながら、手で顎を支えた。自分にはなんの連絡も寄越さないのに、ムウとは仲良く密談ときたものである。いったい何を話していたのかわかったものじゃない・・・アイツから来ない限り、絶対に行ったりするものかとアイオリアは心に固く誓ったところである。
『ふーん・・・変な意地を張って、後悔しても知りませんよ。後悔したくなければ、今すぐシャカの元に訪ねることを私はオススメしますけど。シャカ、すごく体調悪そうでした。誰かさんに、たしか骨折られたんじゃなかったんでしたっけ?もしかしたら他にも具合が悪いところあったのに隠していたのかもしれませんね・・・あの人も変なところで意地っ張りだから』
 ムウの心底心配そうな声音にアイオリアの表情は険しいものに変わっていった。
「・・・そうなのか?そんなに具合悪そうだったのか?それなのに、おまえみすみすシャカをそのまま帰したのか?」
『一応、引き止めはしましたよ。でもね、私の前で“みっともない姿は晒したくない”そうなんです。余計な気兼ねなど今更無用と思うのですけどね』
「・・・わかった。様子を見てくる」
『お願いしますね、アイオリア』
 なんとなく、上手く乗せられた感もしないでもないが、シャカの調子が悪いというなら黙って見過ごすわけにも行かず、イソイソとインドへ向かう準備を始めるアイオリアである。





 ―――はたから見れば、下らない意地の張り合い。

 意地を張っているのはシャカではなく、寧ろ自分。シャカに対して、どこか引け目を感じてもいる。飄々としていて、雲を掴むような手ごたえの無さに苛立つ。
 特別でありたいけれども、特別になれるほどの自信もない。正直なところ、肌を重ねても心を重ねているような充足感はあまり得られていなかった。
 昔と変わらず、ただ、己だけが肉欲を満たしているような関係。シャカは行為の最中、決して声をあげ乱れたりすることはなかった。ただ、行為が終わるのをじっと耐えて待っているような、そんな感じさえしていた。

 ―――嫌なら嫌だと言って欲しい。

 拒絶されるのは少なからず心も痛むだろうけれど、だからといってまるで『義務』のように応じる彼の姿勢にもまた、心を痛めていたのだ。
 少なくとも、拳を交えたあの日のように湧き出るようなシャカの喜びにも似た感情を行為の最中には感じられなかった。

 そんなことをアイオリアは悶々と思いながら、シャカの住まう邸へと足を運んだ。呼びかけても返事がなかったために勝手に入り込むと床の上で布に包まるようにして背を丸めて横たわっているシャカの姿を見つけた。
 慌ててかけよってみれば、ひどく額に汗を浮かべて、確かに具合が尋常ではない。声をかけても反応は乏しかったがかろうじて目を開け、アイオリアであることを認識したシャカに僅かにほっとしながら、寝室まで運ぶとひどく熱の篭った体を冷やすものはないかと探そうとシャカから離れかけたところ、ぐいと腕を掴まれた。
「どうした?」
「ムウに・・・」
「ムウ?あいつを呼ぶのか?」
 汗ではりつく髪を除けながら、シャカの顔に手を当ててやると、手が冷たくて気持ちよいのか、僅かに目元をシャカは緩めた。
「いや・・・ムウにどうやら、一服盛られたようだ」
「ふーん。そうか・・・・ん?ちょっと待て。・・・・・・い・・一服!??あんの・・腹黒めっ!」
 何が『誰かさんに骨折られて』だ!おまえがシャカをこんな目に合わせたんだろうが!!と内心で叫びつつ、アイオリアはすぐにでもムウのところに文句を言いに行こうとした。
 が、しかし。
 心地よさげにアイオリアの手を握ったシャカの手を払うことができなかった。
「シャカ・・・・?」
「手が冷たくて気持ちが良い・・・」
「たぶん、おまえが熱いから・・・冷たく感じるんだろう。何か冷やすものないのか?氷とか・・・」
「そのようなもの、ここに・・・あるわけ・・・・ない」
「!?」
 ぐいっと手を引っ張られて、そのままシャカの上にアイオリアは崩れ落ちた。
「おまえが・・・冷やしてくれ・・・・・」
 熱っぽい潤んだ視線を向けられて、アイオリアの理性が脆くも崩れ落ちたということはいうまでもない。



 ―――結局、シャカを前に下手なプライドなど通用しないし、意地を張る必要もまったくなかったのだということを再認識したアイオリアは余りあるほどの充足感を得た後、ほんの少し、ジャミールにいる腹の黒い羊に感謝しながら、意気揚々と聖域に戻っていったのだった。



作品名:金色の双璧 【連続モノ】 作家名:千珠