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金色の双璧 【連続モノ】

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 朦朧とした意識の中で、教皇に一喝されたのと、同僚たちの顔が次々と代わる代わる覗き込んでいたのは憶えている。呆れながらも労わるような眼差しがひどく恥ずかしかったけれども、ほんの少し嬉しかった。
 発する熱によるおぼろげで心許ない浮遊感の中、思い返していると,ある事実に気付く。
 そういえば、顔を覗きにきた面々の中にインド方面に向かった連中が含まれていたはず。なのに、彼は・・・シャカの顔を拝んだ記憶がない。
 まだ、聖域に戻ってきてないのだろうか?それともここに来れない何らかの事情があるのだろうか・・・芽生えた不安。あとからあとから、湧き出てくる。じっとしていられなくて、起き上がろうとするが身体は意に反してベッドに縫い付けられたままだった。
 シャカの名を心に念じてはみるものの、一向にシャカからの返答はない。無駄な努力かもしれないが不得意な念話を試みていると、カチャリと扉が開く音がした。
 一瞬、祈りが通じたのかと扉に目を向けたが、すぐさま落胆することとなった。
「なんだ、起きてたんだ。加減はどうだい?アイオリア」
 そう問いかけてきたのは目に痛いような鮮やかな薔薇を抱えたアフロディーテ。
「どうにも、こうにも・・・・この通り、身動き取れなくて・・・腐る」
「なに不貞腐れてるのさ。自業自得って聞いてるよ」
 薔薇に負けず劣らず華やかな笑みを零すアフロディーテである。
「そりゃ・・・まぁ、そうだけど」
 ぶつぶつと恨みがましそうな目を向けると、薔薇を花瓶に活けていくアフロディーテを眺める。
「なぁ、アフロディーテ」
「なんだい?」
 薔薇の位置を修正するように弄る指先を止めることもないまま、アフロディーテがくるりとアイオリアに顔を向けた。
「・・・あいつ、まだ聖域に戻ってないのか?」
「あいつ?あいつって、誰だよ。・・・ムウ?」
「なんで、ムウなんだ!あいつは一番に顔を出して、俺を見て散々馬鹿にして笑って行ったぞ!」
 そう。朦朧とした記憶の中でも忘れはしない、あいつの態度。こっちは怪我で苦しんでいるというのに相変わらずのムウ節を炸裂していったのだ。
「へぇ、そうなんだ。そういうところは律儀だねぇ、ムウって」
 感心したように微笑むアフロディーテに眉を顰める。なにが律儀だというのだろう。
「ムウじゃなくて。シャカだよ、シャカ!」
「シャカ?ああ、シャカね。そういえば・・・・姿見てないね。聖域には一緒に戻ってきたんだけど。戻ってきたその日にアイオロスと何か話していた姿を見たのが最後だなー。いつものように宮に篭ってるんじゃないのか?」
「そうなんだ・・・無事なら・・・・それでいい」
 ほっと安堵の息をつく。それはそれで寂しい限りではあるけれども、何よりシャカが無事だということがわかったのだから。シャカが無事であること、それが一番大事なことだから。
「つれないねぇ・・・シャカも」
 にんやりと人の悪い笑みを浮かべるアフロディーテにアイオリアは引き攣った笑みを浮かべて誤魔化すのが精一杯だった。
「それはそうと。シャカの活躍ぶりを聞きたい?」
 一瞬躊躇しながらも、こくりと頷いたアイオリアにアフロディーテは何故か自慢げに『シャカの活躍ぶり』を懇切丁寧語るのだった。





 アフロディーテの話はアイオリアを落ち込ませるには充分な内容だった。
 シャカはやはり強く、黄金聖闘士としては申し分ない実力の持ち主なのだということをまざまざと突きつけられた気がした。
 それに比べて自分はどうなのだろう。
 気負いだけは充分だが、この通りのざま。情けないこと限りない。
 シャカがこんな俺に愛想をつかしたとしても無理のないことかもしれない。だから、彼はここには来ない。もしかしたら、一生、顔もまともに見てもらえないかもしれない。
「―――すまないが。その陰気模様を退散させてくれ。こっちまで気分が滅入る」
「サガ・・・?」
 はぁ、といつものように疲れたような顔をしながらサガがアイオリアのところに顔を出したのだった。姿勢を正してサガと向き合う。
「教皇に具合を見てくるよう言われて来たのだが、だいぶ良いようだな。あと数日で完全回復といったところだろう」
「おかげさまで」
「そう、緊張するな。私はおまえの行動を別段責めるつもりもない。少々無茶だとは思うがな。結果的には敵を見事、打ち負かしたのだから。ただな・・・」
 そこで言葉を切ったサガは穏やかに笑みを浮かべていたはずなのだが、冷ややかな眼差しにブリザードが吹きつけているかのような錯覚すら感じたアイオリアである。
「いや・・・私が口を挟むことではないな。早く良くなれ、アイオリア」
「え、あ・・はい」
 腑に落ちないまま、それでも返事をすると、サガは満足げに笑みを浮かべて退室した。サガは何を言おうとしたのだろうか。でも、なんとなくサガが言わんとしたことがわからなくでもない気がした。


作品名:金色の双璧 【連続モノ】 作家名:千珠