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金色の双璧 【連続モノ】

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「お世話になりました!」
 元気良く、寝込んでいた間世話になった人々に向けて挨拶をしたのち、アイオリアは「うーん」と大きく伸びをし、ぐるぐると腕を回して動きを確かめる。
「よし、完全回復!」
 意気揚々と教皇宮に向かいシオンの大音響叱責を受けたのち、それでも笑顔は絶える事無く、己の宮へと向かう途中の仲間にも声をかけつつ、羽根でも生えたかのように駆け下りて行った。
 だが、途中で失速し、ついにはピタリと足が止まってしまった。
 眼前に広がるは処女宮。
 先程までの元気はどこへ行ったのかというほど死んだ魚のような目で処女宮を見つめるアイオリアだった。
「なんて声をかけよう・・・まずは謝るべきか?うーん・・・」
 ずっと考えていたことではあったけれども、結局何一つ考えが纏まらなかった。どんな妙案が浮かんでも、結局相手が相手だけに木っ端微塵に打ち砕かれそうな気がしてならなかった。願わくば今まで通り。そうであれば万々歳だ。一番つらい結果にさえならなければいいと思う。もし、一番つらい結果になったとしても・・・大丈夫。
 シャカは「いる」のだから。
「そうだ、シャカは存在(いる)のだから」
 そう思うと随分気が楽になった。俺って単純?と思いながらも、そう思える自分がアイオリアはほんの少し誇らしく思えた。
 それに―――思い出した。
 シャカに言うべき言葉は決まっていたのだということを。
「俺ってバカだなぁ・・・・ほんと」
 コツンと拳を作って自らの頭を軽く殴ると、「よし!」と気合を入れて一歩を踏み出す。
 シャカがいる場所に足を向け、ゆっくりと処女宮の鏡面のように磨き上げられた石床を踏みしめて歩く。
 どんどんと、シャカの気配がする場所に近づいていく。
 気付けば駆け出していた。
 蓮華座で瞑想に耽っているらしいシャカの姿を見つけて、今度は息を整えながらゆっくりと進んだ。
 シャカまであと一メートルという距離で立ち止まり、瞑想するシャカを見つめる。
「―――シャカ」
 静かに問いかけると、シャカは無音のまま瞳を開いた。透き通るような空色の瞳に自分が映りこむ。
 シャカはアイオリアを凝視したままで何の言葉も発することもなく、また感情さえ浮かばせることのないまま、無音に時が過ぎた。
「遅くなってしまったけど」
 少しアイオリアは俯きながら、ぽりぽりと頭を掻いたのち、まっすぐシャカに向けて手を伸ばした。


「―――おかえり、シャカ」


 弾かれたように目を丸くしたシャカはクスリと小さな微笑を浮かべ、座していた蓮華座からふわりと舞い降りた。アイオリアの伸ばした手にゆっくりとシャカの白い手が重なる。
 重ねられたシャカの手はほんの少しだけ、震えていた。きゅっとそのままアイオリアは力強く握り、もう一度「おかえり、シャカ」と繰り返す。晴れた空に降る霧雨のような笑顔を精一杯浮かべたシャカの涼やかで温かい声が耳に届く。


「―――ただいま。アイオリア」




fin.
作品名:金色の双璧 【連続モノ】 作家名:千珠