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金色の双璧 【連続モノ】

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「明日、わたしはインドに戻るつもりだ」
「は?」
 唐突に告げられたシャカの言葉にアイオリアが目を白黒させていると、シャカは構う事無くいつもの調子で淡々と話を続けた。
「聖戦も終わり、宮も修復された。シオン教皇もサガたちもいる。それに、差し迫る危機も感じられぬ・・・とあらば、わたしが此処に詰めている必要もない。この聖域にいる必要性を感じぬのだから、わたしがインドに戻っても構わぬだろう。本来わたしの拠点はインドなのだよ、アイオリア」
 そういうとシャカは整った長い指を伸ばして、お気に入りのティーカップの淵をそっとなぞった後、紅茶を一口含んだ。呆然と言葉を失っているアイオリアを見るでもなく、カチャンと静かにティーカップを元の位置に置くと、徐にシャカは顔を上げた。
「そういうことで、アイオリア。達者で暮らせ」
「・・・おい、ちょっと待てよ。いきなりそんなことを言われて、俺はどうすればいいんだ?」
「―――別段、何をする必要もなかろう?」
 表情の伺えぬ顔で、さらりと言われ、アイオリアは再び言葉に詰まった。
「つまり・・・“はい、さようなら”とおまえは言いたいのだな?これでお別れだと」
 じわりじわりとアイオリアの心の中で風が生じ、それは気圧の変化を伴い渦巻く嵐へと変貌を始めた。アイオリアは食い入るように・・・というよりは、睨みつけるよう目でシャカの顔を見る。まったく顔色ひとつ変わることのない、冷涼さを伴った白い貌を僅かに苛立ちを覚えた。そんなアイオリアの心を知ってか知らずか、シャカは優雅な風情で小首を傾げた。
「おかしなことを言う・・・。それが事実であろう?君は元々聖域育ちであるのだから、ここで暮らすのは至極当然であり、わたしはインドで育ったのだから戻って当然。既に生まれ故郷や修行地に戻っていった者もいる。君はその時、穏やかに見送っていたではないか?」
 アイオリアは思い切り顔を顰めるとぐっと唇を噛み、黙り込んだ。
 『そんなことはわかっている。ただ、おまえは他の者たちとは勝手が違うだろう!?』と叫びだしそうになるのを堪えていた。思うままのことを口に出すのは、まるっきり子供じみていると思ったし、第一恰好がつかない。別れ話を切り出されて、取り乱す男など、あまりにも哀れでみっともないことだと・・・・絶対にシャカにはそんな女々しい男だとアイオリアは思われたくはなかった。

 ―――馬鹿なプライドが邪魔をする。

 シャカの中では自分という存在はそんなに比重を占めているものではなく、軽いものなのだということはわかっていた。それは他の者全員に対しても同じであったから、別段気にもしなかった。いや、気にしないようにしていただけだ。
 本心ではずっと『特別な存在』でありたかったし、傍に居て欲しいと願っていたのだ。付かず離れずの距離を保とうとするシャカとの関係を存続するために、そういった気持ちを押さえていた。
 アイオリアにすれば限りない努力の結果、存続しているこの関係をいとも簡単に壊そうとするシャカの行動が考えられない。だったら初めから受け入れるようなことはしないで欲しかったと思うのだ。
 込み上げてくる怒りが爆発しそうになるのを精一杯アイオリアは押し殺した。冷静になろうと精神を集中させ、ぎゅっと拳を握り、奥歯を噛み締めて。
 シャカが何かを話しかけていたが、そんなことを聞く余裕さえもアイオリアにはなかった。怒りを爆発させないようにすることだけで精一杯だったのだ。
「・・・はぁ」
 不快そうに眉を寄せた、シャカの溜息だけが唯一アイオリアの耳に届いた時、とうとう耐えかねたアイオリアは、勢いよく立ち上がると顔を俯かせたまま告げた。
「―――わかった。もういい。勝手にしろ!」
 そう鋭く言うとアイオリアは剥き出しの感情のままにガッと椅子を倒し、その場から退散した。その時のシャカはアイオリアを追う気配さえも見せず、無表情な冷たい仮面のような白い貌で眺め見るだけだった。


 獅子宮に戻ったアイオリアは荒れ狂う心のままに、拳を壁に打ち込んだ。
 やれ修復だ、経費の無駄遣いだと、きっとシオン教皇に大目玉を食らうのだろうが、そんなことは今のアイオリアにとってどうでも良かった。
 強かに拳を壁に打ちつけ、宮内を猛獣のように吠えながら走り回っていた。
アイオリアが僅かに空腹感と疲れを感じた頃には日もドップリと暮れたどころではなく、三日月が夜空高く上がった頃であった。それでもなお、腹の虫が収まらず、もう一吠えしかけたとき、特徴のある高い声が響いた。

「―――いい加減にしたまえ!いったい、今何時だと思っておるのだ!」

 誰だと聞かずともわかる、容赦のない叱責とともに、バシリとアイオリアの頬に強烈な衝撃が走った。割合に怒りの閾値の高いシャカだが、一旦火がついてしまえば容易なことでは収まらない気質であることを重々承知していた。
 まして、アイオリア自身も沸騰中であったことから、バチバチと二人の間に火花が生じた。

作品名:金色の双璧 【連続モノ】 作家名:千珠