金色の双璧 【連続モノ】
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俺は何ていうことを・・・!
アイオリアの心の中では後悔の念ばかりがこみ上げてきた。
「・・・りしたか?」
「―――え?何か言ったか?」
「すっきりしたか、と聞いたのだ」
唐突にそんなことを言われ、ぽかんとするアイオリアに向かって、皮肉っぽくシャカが笑った。
「・・・おまえ、ワザと?」
「近所迷惑なのだよ。まったく君は。大体考え違いも甚だしい。どうせ君はわたしが君との関係を清算したのだろうと勝手に思い込んで、あんなに荒れていたのではないのかね?」
「・・・・え?だっておまえ・・・別れるっていっただろうが」
ぶっすりと不機嫌そうに答えると、やれやれと小さくシャカが呟くと小さく息を吐いた。顔色は冴えぬままだ。
「―――インドには確かに戻るつもりだ。だが、別に・・・君との関係を切る、という意味ではないのだよ?わたしはいつだって君に会いに来るし、君もインドに訪ねてくればいい」
「だったら・・・ワザワザここを離れる必要なんてないだろう?ずっと聖域にいればいいだろうが」
ますます困惑しながらシャカの言うことに耳を傾けるが、どうにも理解できなかった。仕方なさそうに、もう一度ゆっくりとシャカは説明を繰り返した。
「たしかに、ここに居れば君とはたやすく、何時だって会えるだろう・・・君にとって此処は戦いの場であると同時に“家”でもあるのであろうが、わたしにとって此処は戦いの場でしかないのだ。“家”ではないのだよ・・・言っている意味がわかるかね?」
「何となく・・・わかる。つまり、“家に帰る”から、“じゃあ明日またな?”っていう感覚なのだな・・・おまえにとっては」
「そういうことだ。馬鹿者が。まったく世話の焼ける・・・つっ」
アイオリアがほんの少し腕を動かし、シャカの身体を抱えなおそうとすると思う以上に響くらしく、思い切りシャカは秀麗な貌を歪めた。
「すまん、痛むか?」
「当たり前だ。黄金一の拳に思い切り打ち込まれたのだからな。明日には戻ろうと思っていたが・・・延期せざるえないではないか」
苦々しそうに言うシャカに向かって、アイオリアは実に愉快そうに破顔した。
「・・・そう、焦らずとも、ゆっくりしていけばいい。俺はその方が嬉しいんだから。傷が癒えるまで面倒見てやるよ」
「当然だ。馬鹿力め。この分だと、完治するには一週間はかかるであろう。精一杯わたしの面倒をみさせてやる」
「ありがたき幸せでございます。おシャカさま」
二人は顔を見合わせるとクスクスと笑った。シャカはズキズキと鈍い痛みを堪えながら、時折顔を顰めて。アイオリアはとんだ勘違いだったと、僅かばかりの反省と共にホッとした表情を浮かべながら。
ようやく、十二宮に静かな夜が訪れたのだった。
作品名:金色の双璧 【連続モノ】 作家名:千珠