金色の双璧 【連続モノ】
Scene4 37.矜持
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「・・・なになに?興奮すると自然に声は出るものであり、それをこらえるということは・・・」
「うわぁああーーー!?に、に・・・に・・兄さん!?」
ひょっこりと覗き込んだ顔に驚いて、思わず声を裏返して叫ぶアイオリア。突如現われた兄アイオロスは耳元近くで大声を出されたために、眉間にシワを寄せた。
「相変わらず、声がデカイな・・・。珍しく難しい顔をして真面目に本を読んでいると思えば、なんともまぁ・・・おまえも大人になったのだな?兄さんはとっても複雑だ」
そう言うと、ガッとアイオリアの首に腕を巻きつけて、ワシャワシャと髪をかき回す、兄アイオロス。この二人、体格自体はそんなに変わりはしない。
アイオロスはその昔、次期教皇に選ばれただけあって、それなりの器量の持ち主でもある。が、今回の聖戦後、彼は14歳というイタイケナお年頃のまま復活したのだ。体格は元々よかったため、さしたる問題はないとしても、中身は『14歳のまま』なのである。もちろん、次期教皇ということも白紙に戻され、現在は猛反省したサガがシオン教皇の下僕・・・もとい、次期教皇ということになっている。
そして、己もまた、アイオロスのいない13年間という年月を経て、20歳となっていた。
酸いも甘いも(もっぱら酸いほうが多いのだが)経験してきたアイオリアから見れば、アイオロスという人は時を止めたまま不意に現われた、無邪気な子供のように映る。
「俺も複雑だよ・・・年下の兄貴なんて」
こと恋愛方面ではかなり戸惑うようなことを仕出かしてくれる。スキンシップ大好き人間なアイオロスは不用意に誰彼構わず触りまくるのだ。邪気は無いと思うのだが、かといって無害ではない。・・・いや、むしろ有害指定人物だ。
「それ、面白そうだな。俺にも貸せよ?」
こういうところに関しては本当に無邪気なのか若干の疑惑もあるが・・・。この年頃はアイオリア自身も興味を抱いたものであり、他の仲間とともに色々なことをやってみたこともあった。その『色々』な中にシャカとの関係を作るきっかけのようなものもあったりするのだが、兄にこれ以上下手な刺激を与えたくはない。間違った方向にいこうものなら、それこそ最悪だと思うのだ。
「子供には早すぎます」
パタンと本を閉じて本棚に戻そうとするアイオリアを邪魔するアイオロスの手の甲をおもっきり抓る。
「・・・テテテッ!子供ではないぞ!?おまえの兄貴だろうが!」
「14歳は子供ですよ。に・い・さ・ん?まともに歳を重ねて、ちゃんと大人になってください」
「ケチ臭い。おまえがそのつもりなら、それでもかまわないさ。シャカに色々教えて貰えばいいことだろうからな?」
ニィーーーッ。
意地の悪い笑みを浮かべるアイオロスに、はぁ・・と小さくアイオリアは溜息を零す。
「何故そこでシャカの名前が出てくるんですか?大体、アイツは子供嫌いで有名なんですよ?・・・・兄さん、わざわざインドまで行って、あいつの機嫌を損ねるようなことをしないで下さい」
そう。シャカは予告したとおり、今は聖域にその身を置いてはおらず、インドへと戻っていった。それから2週間は過ぎたのだが、未だに何の連絡も寄越しては来なかった。結構アイオリアとしては我慢強く待っているのだが、いい加減苛々している。
「子供ではない。おまえ以外の連中は俺を立派な大人の男として扱っている!」
「みんな気を使ってるだけです。あんまり困らせるようなことはしないで下さい。恥ずかしい思いをするのは結局、俺なんですから」
本当に。お願いですよ?と念を押すアイオリアにアイオロスは不満そうに口をへの字に曲げた。
「恥ずかしい?おまえのほうがよっぽど恥ずかしいだろうが。シャカに三行半食ったってシオン教皇が言っていたぞ?」
「あんのジジィ・・・!」
思わずジジィ呼ばわりしたアイオリアにパコンとアイオロスが頭を打つ。
「教皇に向かって、何という口の聞き方をする?」
そういうところだけはしっかりと兄貴ぶるのだから・・・とブツブツ文句を言いながら、「ハイハイ、気をつけます」と皮肉っぽく答えた。
「でも、言っておきますけど、三行半なんて食っちゃいませんから。そこのところはお間違いなく、兄さん」
「そうか?二週間も音沙汰ないんだろう?・・・あいつ、今頃ムウのところだぜ?」
「へ・・・なんで?なんで兄さんがそんなこと知ってるんだ?」
「シャカとは定期的に交信しているからな。きっとおまえよりも、シャカのこと知っているだろうな・・・ははは」
こっちは笑って済ませられない。俺よりも兄貴と頻繁に連絡を取っている様子のシャカに妬ける。そして俺には会いに来ないくせに、ムウのところには会いに行っているなんて。そう思うと腹立たしい。
ムッと黙り込んだアイオリアを覗き込んだアイオロスはクスクス笑い出した。
「なに、おまえ拗ねてるのか?いいね〜嫉妬。俺もそんな相手欲しいぞ?」
「・・・茶化さないで下さい。こっちは真剣に悩んでるんですから」
「変な意地張ってないで、自分から行けばいいだろうに?」
「男の沽券に関わります。へこへこアイツのところに俺ばっかり行ってたら、あいつは益々図に乗る。思われて当然だって。会いに来て当然だって!」
「ふ〜ん・・・当然でいいんじゃないのか?」
「なんで?」
「だってさ、おまえ既に掌の上で転がされてるって感じだし。第一さ、俺は待つのは嫌いだから、自分からどんどん行っちゃえ!って思うわけだ。うん!・・・そんな相手は今のところいないけどな」
がっくんと頭垂れる弟に向かって、バンバンと勢いよく背中を叩くアイオロスのお気楽ムードにお子様はいいなぁ・・と改めてアイオリアは涙しながら、お子様兄貴には言えないもう一つの悩みをアイオリアはグルグルと考えるのであった。
作品名:金色の双璧 【連続モノ】 作家名:千珠