こらぼでほすと 約束8
翌日、寺に戻ったら沙・猪家夫夫が、すっかりと片付けて待っていた。ふたりで留守番するぐらいだと大した荷物も持ち込んでいないから、気楽なものだ。本堂など各種いろいろと試した場所は念入りに掃除したのはいうまでもないが、それは寺の住人にはわからないことだ。
「エアコンは全部、掃除しておきました。これといって稼動不良のものもありませんでしたから、いつも通りです。」
寺の設備についても点検してくれたらしく、八戒のほうから説明が入る。一応、おおまかに点検して、どこにも支障はなかったとのことだ。裏庭の野菜も、ちゃんと水遣りがされていたらしく、しゃきしゃきとしているのが見えている。
「助かりました、悟浄さん、八戒さん。」
「いえいえ、どうせ、この後、五月蝿いのが帰って来て、こき使われるんだから、これぐらいのことはさせていただきませんとね。」
「予定じゃ最終便らしいから、こっちに戻るのは真夜中過ぎるんじゃね? ママニャン、寝ててもいいぜ。」
「悟浄、そんなことしたら、あの鬼畜マイペース腐れ坊主が暴れますよ? すいませんが、出迎えてやってくださいね? ニール。あっちで、相当にこき使われてると思いますから。」
こき使われるというか、上司様たちに、いいように弄られているが正解だが、そこまで暴露はしない。
「もちろんですよ。」
坊主にも、きっちり出迎えろ、とは言われているので、ニールも待っているつもりだ。悟空は、あちらで食べられない洋食に餓えているだろうから、その準備もしておく。
「明日、キラくんたちが乱入してくると思います。」
「ああ、なんか、刹那と遊ぶらしいですね。」
「明日は悟空の顔を見るためだと思いますが、明後日は、そのまま騒いで、ラボへ出発になるみたいですから、何かあるなら早めにどうぞ。」
予定では十日の滞在だが、整備や準備があるから丸々というわけではない。明後日の夜に発進するには、それなりの時間がかかる。ニールは、ラボには出入り禁止になっているから、そこまで行けないし、行けたとしても準備の間 は、別荘でひとりになる。だから、行かないつもりだ。今生の別れではない。また、終わったら戻って来るのだから、ぎりぎりまで一緒でなくてもいいだろう、と、決めていた。
「別に、話しておきたいことは、すっかり吐き出したし、俺は何もないですよ? 」
一週間、のんびりと黒子猫と過ごした。これといって何かしたわけではないが、黒子猫もゆっくりできたはずだ。だから、寺から送り出すだけでいい。
「それならいいんです。僕らも、こっちに顔は出します。ちなみに店のほうは明後日は休みになっていますので、お気になさらないでください。」
発進の準備やらでキラたち総出でバックアップするから、店は休みにした。ここ数日は、キラとアスランは日中はラボに詰めて作業していたので、明後日は大騒ぎして、キラたちはラボへ移動する。残りの対肉弾戦組は、寺で過ごすことになっている。トダカの予想通りなら、すぐにお里に連行になるだろうから、その配送のためでもある。
黒子猫が、どこかから戻って来て、親猫の右腕を掴んだ。ハイネと一緒に寺に戻ってきたが、ハイネは、『寝る。』と、自分専用の脇部屋に引き込んだし、黒子猫は探検でもするのか、そのまんま姿をくらましていたのだ。
「なんだ? 」
「昼寝の時間だ。クスリも用意した。」
黒子猫は、卓袱台にクスリを置いて水も運んでくる。昼食後にクスリを服用しなかったのを、きっちりチェックしていたらしい。
「そうですね。今夜は遅くまで起きているんだから、長めに昼寝しておいたほうがいいですよ? ニール。僕らは、そろそろお暇させていただきます。」
「ちびニャン、ちゃんと見張ってろ。ほんじゃあ、俺らは楽しい我が家に帰ろうぜ、八戒。」
今夜は店があるから、一端、マンションに戻って出勤する。沙・猪家夫夫も立ち上がると、さっさと暇の挨拶をして寺から引き上げた。それを見送ると、親子猫も脇部屋に移動する。黒子猫は勝手知ったるなんとやらで、ニール専用の脇部屋に布団を敷いて、エアコンもかけていた。
早朝に寺を出て、どうにか特区に帰り着いたのは深夜だった。さすがに公共機関も終わっていたので、タクシーで寺まで帰って来た。ガラガラと玄関の扉を引くと、奥から寺の女房が顔を出す。
「おかえりなさい、お疲れ様でした。」
「ただいまぁーママ。刹那は? 」
「居間にいるよ、悟空。荷物は宅配か? 」
「うん、そのうち届くけど匂いはすごいと思う。」
悟空は、それだけ言うと廊下を走っていく。せつなぁーと大声で叫んでいるから再会の抱擁でもしている様子だ。で、坊主のほうは上がり框に足を乗せて、「地味だな。」 と、女房におっしゃった。
「はい? 」
「おまえ、派手に出迎えるとか言ってただろ? 」
「ここまで迎えに来たじゃないですか。抱擁ぐらいしたほうがいいですか? 三蔵さん。」
「撃ち殺すぞ。」
「でしょうねぇ。とりあえず、風呂に入ってください。晩酌の用意してますから。」
基本、寺はオールセルフサービスなので玄関に出迎えるというサービスはない。ここまで出迎えるだけでも、派手な出迎えになるらしい。そんな切り返しをしてくるぐらいに、女房の機嫌はいいのだ。亭主のほうも、それに気付い
ているから、微笑んで廊下を歩き出す。
居間には、間男もいたが簡単な挨拶をしてねさっさと風呂に入る。空調の関係で強烈な寒暖差に晒されていた身体は、熱い風呂に入るとしゃっきりする。脱衣所には、ちゃんと洗濯されたぱりっとした寝間着が置かれていて、さらに居間に戻れば冷たいビールとか酒の肴とか夜食のオムライスとハンバーグなんてものが卓袱台に鎮座しているので、坊主もサルも、あー帰ってきたなぁーと和んでいたりする。もうすっかり、この甲斐甲斐しい世話慣れている坊主とサルにしてみれば、これがないと帰ったという気にならない。
「ハンバーグは、おかわりもあるぞ、悟空。」
「やりぃーおかわりするする。刹那は食ったのか? 」
「晩飯に食った。うまかったぞ。」
「当たり前だ。ママのメシがまずいなんてことがあるかっっ。うひょおーやっぱ、これだよ。うめぇー。」
洋食に餓えていた悟空は、がつがつとオムライスを食べ始める。喋りながら食うなっっ、と、ママに叱られても聞いちゃいねぇー状態だ。刹那は、さすがにメシものは入らないから、ブドウをぷちぷちと一粒ずつ口に入れている。
「お疲れさん。」
「おまえは、これからだな。」
間男がビールを亭主にお酌している光景は、一般家庭ではおかしなものだが、寺では通常だ。
「一月ぐらいは出張だ。あんたと入れ違いだ。」
組織が再始動を開始する前に地上に戻って来る算段だ。ハイネのグフイグナイテッドは、地上には下ろさずプラントのドックにあるエターナルに収めてくる。一月で軌道エレベーター周辺に建造された兵器を確認してくる仕事だが、寺の女房にはプラントへのアルバイトということにしてある。
「せいぜい、働いて来い。」
「へーへー働いてくるさ。ママニャン、土産は何がいい? 」
「エアコンは全部、掃除しておきました。これといって稼動不良のものもありませんでしたから、いつも通りです。」
寺の設備についても点検してくれたらしく、八戒のほうから説明が入る。一応、おおまかに点検して、どこにも支障はなかったとのことだ。裏庭の野菜も、ちゃんと水遣りがされていたらしく、しゃきしゃきとしているのが見えている。
「助かりました、悟浄さん、八戒さん。」
「いえいえ、どうせ、この後、五月蝿いのが帰って来て、こき使われるんだから、これぐらいのことはさせていただきませんとね。」
「予定じゃ最終便らしいから、こっちに戻るのは真夜中過ぎるんじゃね? ママニャン、寝ててもいいぜ。」
「悟浄、そんなことしたら、あの鬼畜マイペース腐れ坊主が暴れますよ? すいませんが、出迎えてやってくださいね? ニール。あっちで、相当にこき使われてると思いますから。」
こき使われるというか、上司様たちに、いいように弄られているが正解だが、そこまで暴露はしない。
「もちろんですよ。」
坊主にも、きっちり出迎えろ、とは言われているので、ニールも待っているつもりだ。悟空は、あちらで食べられない洋食に餓えているだろうから、その準備もしておく。
「明日、キラくんたちが乱入してくると思います。」
「ああ、なんか、刹那と遊ぶらしいですね。」
「明日は悟空の顔を見るためだと思いますが、明後日は、そのまま騒いで、ラボへ出発になるみたいですから、何かあるなら早めにどうぞ。」
予定では十日の滞在だが、整備や準備があるから丸々というわけではない。明後日の夜に発進するには、それなりの時間がかかる。ニールは、ラボには出入り禁止になっているから、そこまで行けないし、行けたとしても準備の間 は、別荘でひとりになる。だから、行かないつもりだ。今生の別れではない。また、終わったら戻って来るのだから、ぎりぎりまで一緒でなくてもいいだろう、と、決めていた。
「別に、話しておきたいことは、すっかり吐き出したし、俺は何もないですよ? 」
一週間、のんびりと黒子猫と過ごした。これといって何かしたわけではないが、黒子猫もゆっくりできたはずだ。だから、寺から送り出すだけでいい。
「それならいいんです。僕らも、こっちに顔は出します。ちなみに店のほうは明後日は休みになっていますので、お気になさらないでください。」
発進の準備やらでキラたち総出でバックアップするから、店は休みにした。ここ数日は、キラとアスランは日中はラボに詰めて作業していたので、明後日は大騒ぎして、キラたちはラボへ移動する。残りの対肉弾戦組は、寺で過ごすことになっている。トダカの予想通りなら、すぐにお里に連行になるだろうから、その配送のためでもある。
黒子猫が、どこかから戻って来て、親猫の右腕を掴んだ。ハイネと一緒に寺に戻ってきたが、ハイネは、『寝る。』と、自分専用の脇部屋に引き込んだし、黒子猫は探検でもするのか、そのまんま姿をくらましていたのだ。
「なんだ? 」
「昼寝の時間だ。クスリも用意した。」
黒子猫は、卓袱台にクスリを置いて水も運んでくる。昼食後にクスリを服用しなかったのを、きっちりチェックしていたらしい。
「そうですね。今夜は遅くまで起きているんだから、長めに昼寝しておいたほうがいいですよ? ニール。僕らは、そろそろお暇させていただきます。」
「ちびニャン、ちゃんと見張ってろ。ほんじゃあ、俺らは楽しい我が家に帰ろうぜ、八戒。」
今夜は店があるから、一端、マンションに戻って出勤する。沙・猪家夫夫も立ち上がると、さっさと暇の挨拶をして寺から引き上げた。それを見送ると、親子猫も脇部屋に移動する。黒子猫は勝手知ったるなんとやらで、ニール専用の脇部屋に布団を敷いて、エアコンもかけていた。
早朝に寺を出て、どうにか特区に帰り着いたのは深夜だった。さすがに公共機関も終わっていたので、タクシーで寺まで帰って来た。ガラガラと玄関の扉を引くと、奥から寺の女房が顔を出す。
「おかえりなさい、お疲れ様でした。」
「ただいまぁーママ。刹那は? 」
「居間にいるよ、悟空。荷物は宅配か? 」
「うん、そのうち届くけど匂いはすごいと思う。」
悟空は、それだけ言うと廊下を走っていく。せつなぁーと大声で叫んでいるから再会の抱擁でもしている様子だ。で、坊主のほうは上がり框に足を乗せて、「地味だな。」 と、女房におっしゃった。
「はい? 」
「おまえ、派手に出迎えるとか言ってただろ? 」
「ここまで迎えに来たじゃないですか。抱擁ぐらいしたほうがいいですか? 三蔵さん。」
「撃ち殺すぞ。」
「でしょうねぇ。とりあえず、風呂に入ってください。晩酌の用意してますから。」
基本、寺はオールセルフサービスなので玄関に出迎えるというサービスはない。ここまで出迎えるだけでも、派手な出迎えになるらしい。そんな切り返しをしてくるぐらいに、女房の機嫌はいいのだ。亭主のほうも、それに気付い
ているから、微笑んで廊下を歩き出す。
居間には、間男もいたが簡単な挨拶をしてねさっさと風呂に入る。空調の関係で強烈な寒暖差に晒されていた身体は、熱い風呂に入るとしゃっきりする。脱衣所には、ちゃんと洗濯されたぱりっとした寝間着が置かれていて、さらに居間に戻れば冷たいビールとか酒の肴とか夜食のオムライスとハンバーグなんてものが卓袱台に鎮座しているので、坊主もサルも、あー帰ってきたなぁーと和んでいたりする。もうすっかり、この甲斐甲斐しい世話慣れている坊主とサルにしてみれば、これがないと帰ったという気にならない。
「ハンバーグは、おかわりもあるぞ、悟空。」
「やりぃーおかわりするする。刹那は食ったのか? 」
「晩飯に食った。うまかったぞ。」
「当たり前だ。ママのメシがまずいなんてことがあるかっっ。うひょおーやっぱ、これだよ。うめぇー。」
洋食に餓えていた悟空は、がつがつとオムライスを食べ始める。喋りながら食うなっっ、と、ママに叱られても聞いちゃいねぇー状態だ。刹那は、さすがにメシものは入らないから、ブドウをぷちぷちと一粒ずつ口に入れている。
「お疲れさん。」
「おまえは、これからだな。」
間男がビールを亭主にお酌している光景は、一般家庭ではおかしなものだが、寺では通常だ。
「一月ぐらいは出張だ。あんたと入れ違いだ。」
組織が再始動を開始する前に地上に戻って来る算段だ。ハイネのグフイグナイテッドは、地上には下ろさずプラントのドックにあるエターナルに収めてくる。一月で軌道エレベーター周辺に建造された兵器を確認してくる仕事だが、寺の女房にはプラントへのアルバイトということにしてある。
「せいぜい、働いて来い。」
「へーへー働いてくるさ。ママニャン、土産は何がいい? 」
作品名:こらぼでほすと 約束8 作家名:篠義