こらぼでほすと 約束8
おかわりのハンバーグを用意してきたニールにハイネが声をかける。
「仕事で行くんだろ? 土産なんかいらねぇーよ。・・・・悟空、デザートは桃のシャーベットだからな。」
前半はハイネに、後半は悟空に声をかけて、刹那の横に座る。それから、亭主に、「お疲れ様。」 と、ビールを酌する。
「みなさん、元気でしたか? 」
「殺しても死なないな。酒の礼を言われたぞ。」
「トダカさんが手配して、すぐに送ってくれたんですよ。お気に召していただけたんならよかった。」
「あれ、半年に一度ぐらい送ってやってくれないか? あっちからも、酒が届くから物々交換ってことで頼みたいんだが。」
「うーん、どうなんだろうな。明日にでも聞いてみます。」
トダカが用意するのは、本格的な酒で量がないものが多い。半年に一度、準備できる代物なのか、ニールにはさっぱりだから、トダカに確認しないと、なんともいえない。
「舅のところへ届いてる酒の好みを教えてくれたら、それに合うのを用意するらしいぞ。」
「なんでも美味しそうに飲んでるからな。俺にはキツすぎて無理だけど。それも聞いてみます。で、俺からメールしていいんですか? 」
「ああ、メールしておけ。」
以前、上司様ご一行が特区まで遠征して来た折に、ニールともメルアドや携帯端末の番号の交換はしておいたので、連絡も簡単に出来るようになっている。これも、ニールは身内というアピールであるらしい。キラですら上司様ご一行とはメルアドの交換すらしていないからだ。
ハイネが、この天然イチャコラを鑑賞していると、ニールがビールを酌してくれる。悟空も、お腹が膨れたら、今度は冷凍庫から勝手にシャーベットを取ってきてデザートに突入している。もちろん、弟分の刹那の分も用意して渡している。
「そういやさ、金蝉が、さんぞーとママが離婚したら口説きに来るって言ってたぞ。」
「はあ? それ、冗談だよな? 悟空。」
「割とマジだと思う。捲簾と天蓬がいちゃいちゃしてるから、独り者だと寂しいんだってさ。だから、そういう機会があったらって言ってた。無理じゃね? って俺は言っといたけどな。」
「無理どころか無茶なんじゃねぇーか? 俺、金蝉さんみたいな上品な人なんて、どうしたらいいかわかんねぇーし。」
と、ニールか苦笑したら、スパーンと小気味良い音でハリセンで叩かれた。
叩いたのは、亭主だ。
「問題は、そこじゃねぇーだろっっ。亭主がいるのに、間男の次は、金蝉か? 」
「それもどうかと思うんですけどねー三蔵さん。確かに、あんたの女房役はしてるけど、俺は、そっちの気はないんだし。ハイネもそうだからいいですが、金蝉さんも、ノンケでしょ? 纏まる話とは思えない。」
「あいつもノンケだ。そっちの心配はないが、俺と一緒で、おまえに世話されるのは気楽でいいと気付いたんだ。」
「あーそっちですか。別に男同士で同居っていうなら、ひとり増えてもいいじゃないですか。」
もう今更でしょう、と、女房が笑ったら、そういや、そうだよなあーと悟空も頷く。気楽な野郎ばかりの同居生活という観点からすると、ニールという世話好き家政夫の居る生活は限りなく楽なのは間違いない。
「よかねぇーっっ。あいつは、本山におまえを連れてって独占する気満々だ。」
「それは困るな。俺、移動したらマズイですから。そういうことなら諦めてもらうしかないな。」
「たぶん、問題点は、そこじゃねぇーだろ? ママニャン。今、三蔵さんが離婚を言い出したらって前提がついてたぞ。そういうことがあるかもしれないって指摘食らってるのが問題点の第一だっっ。」
いろいろと踏み間違えているので、ハイネが第一の問題点を指摘する。離婚することがあったら、って言われるようなことがあるんかいっっ、というところだ。
「そりゃあるだろう。三蔵さんに、本当に想う相手ができたら、俺はお払い箱だ。」
「てめぇーにいいのができてもな。」
どちらも本当のことはハイネに伝えない。どちらも、この関係より優先する約束があるから、それを守るために、この関係を破棄しなければならないことがあるかもしれない、と考えているからだ。おそらく数年中に、ニールのほうの事情が変わる。その時に、寺の女房役は返上する可能性がある。それを視線で確かめて、ふたりして微笑む。傍目にすると、とてもイチャコラしているようにしか見えない。
「それなら、俺が名乗りあげてもいいんだよな? 」
「俺に勝ってからにしろ、ハイネ。俺より弱いヤツなんかに女房は預けらんぞ。」
「それ、俺に死ねって言ってないか? 」
「まあ、そういうことだよな? ハイネなんか瞬殺されるだろ? 」
「悟空、ストレートな意見サンキュー。でも、あんたが別れるなら、ママニャンはフリーだ。」
「フリーねぇー。フリーになっても、次はないと思うなあ。すまないが、ハイネ。俺も亭主は三蔵さんだけでいい。」
フリーになる時があったら、それは世界からマイスターたちが贖罪を求められる時か、またはマイスターが全滅した時だ。その場合、ニールは刹那と一緒に逝く約束をしている。だから、坊主とは一緒に暮らせなくなるという意味で離婚するという意味ではない。フリーになることはないだろう。なんせ、亭主は、そうなったら菩提は弔ってやろうと言っていた。
「金蝉さんは? あっちのほうが上司だぞ? 」
「俺は本山へ行けないし、金蝉さんは滅多に特区に来ないんだから、それこそ無理だ。口説かれても断るしかねぇーよ。」
それも、桃というアイテムで解消されるのだが、そこいらはハイネには喋れないので、坊主もサルもスルーする。
「なんだよ。結局、亭主がいいっていう惚気じゃねぇーか。」
「惚気てない。」
そこまで黙ってブドウを食べていた黒子猫は、おかんの背後に立って、坊主を威嚇した。
「なんだ? ちび猫。」
「俺のおかんと離婚するつもりか? 」
「するつもりはない。おまえのおかんが世話好きでいい女房だからハイネみたいな間男が、ちよっかいかけているだけだ。心配しなくても俺は追い出すつもりはねぇーよ。」
「本当だな? 」
「当たり前だ。気に食わない野郎だったら即刻叩き出してるぞ。」
「了解した。ニール、三蔵さんに大切にしてもらえ。」
「はいはい、わかってるよ、刹那。」
肩から首に回されている刹那の腕を、とんとんと叩いて寺の女房は笑う。子猫たちが無事に帰ってくるのを待つには、寺はとても良い場所だ。理解のある亭主がいて、なんだかんだと過保護な間男やら父親やらがいて、子猫の代わ りがいる。ぎりぎりと神経が軋みそうな戦いだが、休める場所があるから、この黒子猫を待っていられるだろう。
作品名:こらぼでほすと 約束8 作家名:篠義