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dal segno senza fine

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dal segno



この時期は、どこの事務所も忙しくなる。
シャイニング早乙女が社長である・シャイニング事務所も例外ではない。
所属アイドル達への常日頃からあるファンレターの到着だけでなく、愛のこもったチョコレートが届くのだ。
チョコに関してはファンだけではなく、業界関係者からも届く。

チョコは、各アイドル宛て毎に部屋を割り振り、振り分けて行く。
完全な生モノは無理なので、手紙を抜き廃棄対象だ。
生花に関しては、状況に応じて対応する事になっている。

「うわっ、これすごい!」
「へぇ…随分とまぁ…面白い事になってるんだね」

事務所に用があり訪問していた一十木音也と神宮寺レンの二人は、通称・チョコ部屋に通された。
部屋の手前では無地の段ボールに詰め込まれたチョコ達を、梱包している袋や箱から出し、各アイドルの名前が書いてある箱へ移す…そんな作業をずっとし続けている人達がずらり並んで無言でやっていた。
聞こえてくるのは、アイドルの名前だけである。
しかも低い声でブツブツ言われるものだから途轍もなく奇妙な光景だ。

「仕分けするの、大変そうだね…俺達も手伝った方が良いかな?」

隣にいるレンに音也はそっと耳打ちする。
そんな言葉にくすりと笑って、そんな事をしてはいけない、と音也を諭す。

「何で?」

不思議そうに眼を丸くして音也が質問すると小さく溜息をついて、

「だって、彼らの仕事だ。それを奪うのは良くないよ。それに…」
「それに?」

軽くウィンクをして、部屋から離れる準備をレンはした。

「貰ったチョコを開けるのは、後で取っておいた方がいいだろ?そっちの方が我慢した分、楽しい時間になる」

そんなもんかな?と音也は疑問を感じつつも、一歩一歩遠ざかって行くレンの後姿を追った。

「よお!音也、レン」

チョコ部屋から戻ってみると、事務所には翔がいた。
これから生放送対応の5分間の情報番組の収録らしい。
事務所にいた理由は、明後日の
その手には色とりどりの小さな紙袋があった。

「あれ?それどうしたの?」
「あーこれ…事務所の前にファンがいてさ…それで…さ、受け取らざるを得なくなって…」
「大変だったねおチビちゃん」

窓の外を移している監視カメラの映像を見て来たレンが、翔をねぎらう。
事務所からの毎年のお願いで、事務所の前には来ない事や直接アイドルに渡さない事をネット上に掲載している。
勿論メディアを通しても行っている。
だが、今回の翔の様に強引に渡されてしまう場合があるのだ。

「チビって言うな!」
「何貰ったの?」
「ん?えーっと…」

音也が興味津々で紙袋の中を覗き込んでいる為、翔は貰ったものを机に広げてみた。
綺麗に飾られた箱。
小さな袋に花のリボン。
それぞれの愛が詰まったものだった。
パッケージの後ろをそれぞれが確認して行く。
音也が気が付いて、ポツリ言い出した。

「あ…これ全部ミルクチョコレートだ、ね」
「んー、おチビちゃん、愛されてるね」

レンもその言葉に乗る。

「でも、チョコじゃ、伸びないよね?」
「まぁね」
「横に広がるだけだよね?」
「そうだね」
「……お前ら……」

二人のやり取りを聞いていた翔は、両手をぐっと握りしめて肩を震わせる。
それを見て彼らは苦笑し、暴れ出しそうな翔をなだめた。

「それにしても数分で貰ってあっという間に二十個超えるんだから…あの部屋に幾つ入ってるんだろう」

先ほど見てきたチョコ部屋の事を思い出し、音也は苦笑する。
翔自身も部屋の存在を思いだし、一寸困った表情をしてしまう。

「おいおい、駄目だろそんな表情は。レディ達からの美味しい愛情だよ?しっかり受け止めないと」
「たく…甘いものぎらいなお前に言われたくないっつーの」
「苦手、って言っても…送られてきてるでしょ?レン」
「ん?まぁ…そうだねぇ」

肩をすくめてレンも少し苦笑していた。
自分のプロフィールに嫌いなものを書きこんではいるものの、この時期になると必ずチョコが送られてしまい、正直対処に困る事がある。

「ビターチョコならね、何とかなるんだけど」
「んー、でもビターでも結構甘いだろ?」
「そうだね」
「どこのだったら大丈夫なの?レンは」
「…そうだな…」

レンは色々な店を思い浮かべてみる。
カカオのパーセンテージが上がれば十分な味にはなっている気はしていたからか、余り差が見えない。
元々、この時期に出るチョコは本当に甘いもの、が多い。

「特別、って考えると…。この前シノミーの作ってくれたチョコケーキは美味しかったな」
「…ぅえ!?」「はぁ!?」

思いがけない回答に、音也も翔も驚きを隠せなかった。
先日四ノ宮那月が作ってきたケーキを思い出す。
見た目からして、とても食べられたものではなかった。
だが、ずいずいと前に出されて、食べざるを得ない事になり皆覚悟を決めて食べた。
相変わらずの破壊力のある料理で、レン以外の食べたものは作り笑顔を保つのが精いっぱいだった。
事務所の端の方で、四ノ宮を絶対に料理番組に出すな、と言う言葉が飛び交っていたのは言うまでもない。

「アレのどこがだよ!」
「そうだね…、少し苦い所かな」
「あのさ、レン。それって唯焦げるだけじゃ…」
「そうなの?でも美味しかったけれど。ま、味覚は人それぞれだからね」

レンの言葉に、そうだね…、と同意する言葉以外吐く事が出来なかった。
動揺が隠し切れていたかどうかは分からない。
余りの衝撃的な言葉に思考が停止するも、必死に持ち直させる二人。
言葉を重ねて、誤魔化そうとした。

「で、ででもさ、レンって大変だよね、誕生日がバレンタイン何てっ」
「そそそ、そうだな!二週間くらい前からチョコの特設会場みたいなの出来るしさ!この日に生まれた人はチョコ好きでしょー?みたいな」
「ううう、うんうん!そうそう!それって何か、先入観っていうかーっ」
「…いいんじゃないの?そう言う所がレディの可愛い所じゃない?そうだ、って思い込む姿もまた愛らしいと思うけどね」
「へ?…ええっと…そ、そう…だね」「そ、そうだなぁ…はは」

ばっさりレンに切られてしまい、二人は力の抜けた返事をしてしまう。
二人はアイコンタクトを送る。
それぞれの内心はこうだ。

(やっぱり分からねぇ、これが大人ってやつなのか?)
(うわぁ、どうしよう…一応そうだって言ったけれど、俺多分どの辺が可愛いのか分かってないよー)

結局はレンに振り回される二人だった。
二人の脱力している様子を見て、レンはきょとんとしているだけだ。
そんな彼らに対しちょっと来て、と背後から声をかけらる。
三人が声のした方へ向かった。

そこにはシャイニング早乙女がいた。
おはようございます!と三人は元気よく挨拶をし、自分たちの存在を伝える。

「オオゥ、ユー達でしったかー」

書類に落としていた目を上げ、ちらりと確認する。
サングラスで目の奥は見えないが、緊張する瞬間でもあると彼らは思う。
伝説のアイドルであり、自分たちのアイドル人生をどうとでもできてしまうほどの権力の持ち主でもある。
体がこわばるのは彼に対する畏怖、なのかもしれないとそれぞれは思っていた。
作品名:dal segno senza fine 作家名:くぼくろ