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明日を探す指先

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「シズちゃん、今日も一段と元気いいみたいだね 」
 二人の距離は一定よりも近くにはならない。
 それはいつの頃からか決まったことで、実際手合わせをするまではそのラインを超えない。
 声をかけるのはその距離分離れたところからだ。
 俺からしてみればその距離感が身長15センチ差のシズちゃんの顔を見るのにちょうどいい距離だと思っている。
 あまりに近づけばかなり見上げることになる。
 それはそれでなんだか屈辱的だ。
 直後にシズちゃんは俺の名前を呼んで近寄るよりも先に近くにあるものを何か手にしようと指先を彷徨わせた。
 その指の動き、すごく好きだよ。
 そう言ったらどんな表情するんだろうねぇ。
 反応が見たくて見たくてウズウズしてくるよ。
 その長い指。
 でも傷ひとつない。
 まぁシズちゃんの身体に傷がないのは体質的なもので、昨日や一昨日についたような傷なら脅威の回復力でその跡すら残っていないんだろうけど。
 その怪物ぶりが、また愛しい。
「残念なことにそこあった標識はこの間シズちゃんが壊してからまだ修理中ってことみたいだね。
 なんか、今日の俺ってばラッキーなんじゃない?
 ほら、こうして偶然シズちゃんにも会えたことだし 」
 わざわざ合いたくてやってきた池袋に居ること自体が偶然ではない。
 そんなのは差し置いてもこの群衆の中で出会えることが偶然だ。
 俺の嗅覚、シズちゃんの嗅覚。
 両方が合わさって、そしてこうして引き合わせる必然。
 でもそれを俺は偶然と言う。
 その方がなんだか俺からシズちゃんへの執着心をあおるでしょ。
 行けば必ず会える、よりも会いたいと思いながら行くけどこんなとこで鉢合わせ、なんて偶然!って大げさにした方がきっと単純なシズちゃんのことだから喜んでくれると思うんだけどなぁ。
「……テメェ、さっきからにやにやしてなに考えてやがる。
 気持ちワリィんだよ 」
 ノミ蟲と言いながらも距離は縮めてこない。
 それだけ俺に近づくことが怖いんだよね、シズちゃんは。
 以前だったらそんなこと気にせずにゴミ箱とか何でも放り投げてきたのに。
 ほらだんだん俺のこと気になってきてるからでしょ?
 イライラするからとか心の底から会うのが嫌だ、じゃないんだよね。
 だって遠くに俺を見つけたって、走って今の距離くらいまでは来て、そして俺の名を呼ぶ。
 愛されてるって感じで、俺ゾクゾクしちゃうよ、まったく。
「何ってさ、シズちゃんとこうして向かい合ってるんだしシズちゃんのことに決まってるよ。
 他に何か考えてくれてた方が良かった? 」
 にこりと笑ってやるとそれにシズちゃんはピクリと眉を動かした。
 その脇には目に見て分かるくらいに血管が浮き上がる。
 あ、そろそろくるな。
 その様子で俺は更に広範囲に何かつかむものを探すシズちゃんの手を目で追う。
 せっかくきれいな指してるんだから。
 せっかく高身長に見合う長い手してるんだから。
 もっと手を伸ばせばいいのに。



 そう、こっちにね。


作品名:明日を探す指先 作家名:ちえり