明日を探す指先
「ほら、シズちゃん 」
不可侵のはずのその二人の間に俺は自らの手を差し出す。
シズちゃんの手の長さには敵わないな。
目の前のその身体をじっくり見てから、俺はいつものように自嘲的に笑う。
それを見てシズちゃんはどう思うだろうね。
普通ならいつものように俺の名前をくだらないくらいにイラついた声で呼んで、それを気に入らないとでもいうかのように振り払うだろう。
もしそれ以外の反応だったら、シズちゃんも俺の予想と違って面白いのにね。
……そう考えていたのは、そう予想していなかったからだ。
なのに。
ほら人間って面白いんだ。
そうシズちゃん自身が気付かせてくれた。
おずおずとその長い手が俺の方に伸ばされてくる。
その勢いがいつもと違う。
ただスローモーションになっていた、だとかそういうのではなくて。
ゆっくりと伸ばされてきた。
それに自分たち二人分の視線が絡む。
互いが互いの視線を感じてはいるけれど、それらが交じり合うことはなく。
ただその手の動きを見ていた。
上向きのその俺の手のひらの上にシズちゃんの指先が触れる。
「アハッ 」
俺は思わず声を出して笑った。
それにビクリと反応するシズちゃんの指先。
でも、それを逃がそうだなんてカケラも思わなかった。
このままでは離れてしまいそうなその手を俺はぎゅっと握りこんだ。
「……なんのつもりだ、テメェ 」
そう言いながら、ビクリと反応するそれを俺が離せるはずはなかった。
だってシズちゃんなら。
振り払おうとすれば赤子の手をひねるよりかんたんなこと。
まぁシズちゃんはそういうのは吐き気がするほど嫌いだとか言いそうだけどね。
でもそのシズちゃんの手を握りこんでるのは小さな赤ん坊でもなく、かわいい女の子でもなく、この俺なんだけどね。
それでも離さないということは。
でも確信が持てなかった。
シズちゃんは唯一俺が思い通りに出来ない相手。
いつも、いつもいつも、思うようにはいかなくて、どうしようもなくなる。
それがなんだ。
今はその手が文字通り自分の手の内にある。
シズちゃんがどんな顔をしているのか見たくてたまらない。
それでも視線を上げないのは、そうやって少しでもシズちゃんをイライラさせたいからだ。
どう反応してくるかを見たいんだ、なんて心の内を見抜かれたらそれこそ手当たりしだい物じゃない物まで投げつけてきそうだけどね。
「……離せ 」
シズちゃんの口調はいつもと変わらない。
そりゃ体面としてはね。
でも俺は分かっちゃったんだよね、残念なことに。
そんなシズちゃんの態度でさ。
「いやだなぁ、シズちゃんってば。
そんなに俺に手を握られていたいの? 」
自分の手の中の体温が下がる。
すごい勢いで逃げていったシズちゃんの手。
あぁ、やっぱりね。
俺はいつもより近い距離でシズちゃんの顔を真正面に捉えると口唇の端を持ち上げた。