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囚われ

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ビル群に切り取られた灰色の夜空に星はなく、半月が海をたゆたうように雲間からあらわれたり消えたりしている。
ベルゼブブ優一は佐隈りん子と街を歩いていた。
今回の仕事は佐隈にだれか大人の男がついていったほうがいいということで、新しいグリモアを海外にまで探しに行くらしい芥辺が今回は特別にと前置きしてベルゼブブにかけられた結界の力を解いたのだった。
そして、今は仕事帰りである。
芥辺は出かけているし他の悪魔を召喚していないので事務所にはだれもいないはずだが、ベルゼブブが魔界に帰るための魔法陣があるので、事務所に向かっている。
ふと。
見るつもりはなく、近くのビルのガラスに映っている自分の姿が眼に飛びこんできた。
コートを着た長身の成人男性。
顔の彫りは深く、まわりにいる日本人たちとは異なる外国人らしい容姿。
けれども、人間には見える。
しかし、これは自分の本来の姿ではない。
もし本来の姿にもどれば、まわりにいる者たちは驚きで眼を見張るだろう。悲鳴をあげる者もいるだろう。
自分は悪魔だ。
「ベルゼブブさん」
佐隈が話しかけてきた。
「寒いですね」
そちらのほうに、ベルゼブブは眼をやった。
佐隈はマフラーに顎をうずめ、その顔をベルゼブブに向けている。
日本人らしい顔。
そして、正真正銘の人間。
ベルゼブブは少し眼を細めて佐隈を眺める。
人間の小娘だ。
自分とは、違う。
だから。
どうしたというのか。
「……そうですね」
ベルゼブブは軽く相づちを打つと、佐隈から眼をそらした。

私は名門ベルゼブブ家の生まれの魔界の貴族だ。
そして、獄立大卒のエリートでもある。
私は、自分に、悪魔であることに、誇りを持っている。

「あともう少しで事務所につくところだったのに、ツイてないな」
佐隈が苦笑しつつ、つぶやいた。
その身体は濡れている。
帰り道、暗い空からポツリポツリと大粒の雨が落ちてきて、やがてザーッと音をたてて降るようになった。
冬の雨はひどく冷たい。その雨に連打されたのだ。
ベルゼブブの身体も雨に濡れている。
今は芥辺探偵事務所に入ったばかりのところにいるが、足元の床がベルゼブブの身体から落ちた水滴で濡れていた。
佐隈は部屋の灯りをつけ、さらにエアコンの暖房のスイッチを入れ、それから急ぎ足でどこかへ行った。
なんとなく、ベルゼブブは今の場所に立ったままでいる。
しばらくして、佐隈がもどってきた。
佐隈はコートを脱いでいた。上はチェックシャツにセーター、下はショートパンツにニーハイソックスという格好である。
「ベルゼブブさん」
近くまでくると、佐隈は手に持っていたものを差しだした。
「これで、身体を拭いてください」
やわらかそうな白いタオルだ。
佐隈は明るい笑顔を向けたまま、優しい声で続ける。
「濡れたままだと風邪をひいてしまいますよ」
心の底からそう思っているような、そう心配しているような様子である。
自分は悪魔なのに。
ベルゼブブは動かず、ただ、じっと佐隈の顔を見る。
すると。
「ベルゼブブさん」
そう呼びかけつつ、佐隈はタオルを持っていないほうの手を近づけてきた。
佐隈の指がベルゼブブの手に触れた。
その直後。
はじかれたように、ベルゼブブは自分の手を後方へとやった。
佐隈は眼を丸くしている。予想外の反応に驚いているのだろう。
それから少しして、佐隈の表情が変わった。
「えっ……と」
困っているような表情だ。
「ベルゼブブさんはさわられるのが嫌なんですか?」
そうたずねられ、ベルゼブブはどう答えるべきか考え、悩み、結局、黙ったままでいる。
佐隈がふたたび口を開いた。
「私にさわられるのが嫌なんですか?」
さっきよりも強く響く声。
探るようにベルゼブブを見る黒い瞳には堅さがあった。
「……そんなことはありません」
ベルゼブブは否定した。
けれども、佐隈の表情はやわらがなかった。
気まずくて、ベルゼブブは眼をそらした。
この状況を好転させる方法を考える。
いっそ断ち切るように魔界へと帰ってしまえばいいのかもしれない。
そう思ったとき。
佐隈が動く気配を感じた。
一気に距離が詰まっていた。
「!」
ベルゼブブは驚き、即座に対処しようとした。
けれども、それは一瞬遅くて、佐隈の手がベルゼブブの手をつかんだ。
反射的にベルゼブブは佐隈の手を振りはらうようにして自分の手を退いてしまった。
作品名:囚われ 作家名:hujio