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不幸青年

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「アーサー、君のことが嫌いなんだ。
だから、別れよう。」

付き合って四年と十ヵ月。
恋人であるアルフレッドに別れ話を切り出された。
もう驚かないし、呆れもしないが、やはり哀しい。
そして毎回俺は慰めてやる。
慰めて安心させてやることぐらいしか、してやれることがない。

「…アル、泣くなよ。
もう何度も言ったよな?」

「でもっ…」

別れを切り出した時、いつもアルフレッドは泣いている。
それが別れることを妨げていることぐらい、アルフレッドにもわかっているだろうに。

「でも…だけど、俺っ、アーサーがいなくなるのは絶対に嫌なんだぞ!」

「でももうすぐ五年目だろ?
五年も、だぜ?」

五年というと、アルフレッドが親といた時間より長くなる。
薄幸ではなく不幸な人生だ。
四歳で両親を亡くし、親しかった孤児院の先生も亡くし、仲の良い友達も亡くした。
いつ の日か、アルフレッドに近付く者は誰もいなくなった。
アルフレッドからも誰にも寄らなくなった。
孤独になった。
そんなアルフレッドを見て昔の自分に重ねたのか、俺は声を掛けた。
始めは素っ気なくあしらわれたが、だんだん打ち解けて、気付けば好きになっていた。
付き合おう、と言った俺を何度も突き返し、突き返し、遂に根負けした。
五年ってのは出会ってから。
付き合ってからは三年半程だ。

「君が死んじゃったら俺はどうしたらいいんだい!
俺と仲良くなって生き延びた人なんて絶縁した人ぐらいしかいない!
人どころか動物だろうが植物だろうがみんななんだぞ!
みんなみんな、焼死した!
跡形もなく!」

「アル…」

生物どころか、五年持ったものも燃えてしまった。
家でも、ペンでも。
アルフレッドにとっての最大の不幸は、早々に切り捨てようとした俺を好きになってしまったことらしい。
もう少し、もう一日。
自分に甘えて、あっという間に四年が過ぎた。
だけど、もう四年。
アルフレッドの杞憂していたことは、おそらくもうすぐ起こるのだろう。
俺が俺の家と共に燃えてしまうと。
跡形もないとはそういうことだ。

「大丈夫だよ。
火に気をつければいいことだろ?」

「うぅ…でも。」

「そうだ!せっかくだから五周年でパーティーでもやろうぜ!
お前が誰かと仲良くしていい証明だ。
…だからさ、泣き止んでくれよ、アル。
泣くなよ。」



作品名:不幸青年 作家名:踔蟲