不幸青年
それから、二ヶ月後。
「ごめんね、アーサー
ごめんね、ごめんね。」
パーティーの飾り付けが涙で濡れていく。
歓迎すべき人は、もういない。
「おれのせいで、」
それでも玄関の扉は開く。
アルフレッドはそちらを見向きもしない。
一人の大柄の青年が現れた。
「へぇ…すごいねこの装飾。
綺麗だよ。」
「…どっか行ってくれよ、イヴァン。
君の顔は金輪際見たくないんだ。
だから絶交だって言ってるだろ。」
アルフレッドの幼い頃からの知り合いで絶交した相手でもあるイヴァン。
彼は唯一、アルフレッドを知りながら五年以上生きている。
そして、アルフレッドも気付いている。
彼こそが親も家も友達も何もかも燃やして、先刻アルフレッドの恋人までも燃やした本人だということに。
証拠もないため誰もイヴァンを捕らえられない。
「ふふふ、そんなつれないこと言わないでよ。
何のために君の目の前で燃やしたと思ってるの?
君が好きだからだよ?」
「…君が今朝の放火事件もおこしたんだろ。」
愉快そうにイヴァンは笑う。
「そうだよ。
今回はギリギリまで待ってあげたんだ。
えっと、アーサー君だっけ?
彼、虫酸が走るんだ。
君に必要以上に近づくんだもん。
だから我慢するの大変だったよ。
あはっ!
ひょっとして今度は大丈夫なんじゃないかとか思った?」
怒りを隠せずにアルフレッドは叫ぶ。
「ああ思ったよ!
ようやく君も諦めて、更生してまともになったと思ったんだぞ!」
「嫌だなぁアルフレッド君。
僕は最初からまともだよ?」
それとね、とイヴァンがアルフレッドを掴んだ。
「まだわかってないなら、もういいやって思ったんだ。
僕を見たくないんでしょ?
じゃあ、見なくていいよ。」
「…っ!」
アルフレッドの視界を麻袋が覆う。
だがすぐにそれも歪んでいく。
「睡眠薬染み込ませといたんだ。
うふふ、気に入ってくれるかな?
あぁでも麻袋じゃまだちょっと見えちゃうか。
じゃあ後で君にぴったりな目隠しをあげるよ。
似合うといいなぁ。」
「イヴァ…ン…」
遠のくアルフレッドの意識。
楽しそうにイヴァンは喋る。
「よかったねアルフレッド君。
もう誰も燃えないよ。
あ、でも目隠しは燃やしちゃうかも。
そしたらまた別のをあげるね。
万事解決だよ、よかったね!」
「このパーティーは僕と君の出会い記念だね! ありがとう!」