面の皮が厚い御曹司もの
神宮寺レンの誕生日は、バレンタインデーだ。
しかし、彼はチョコレートが苦手だった。
<三百六十四日前の誕生日プレゼント>
大量のチョコレートと誕生日のプレゼントを持ちきれないくらい受け取って、デートの誘いを巧みにかわしながら寮に戻ってきたレンの口からは似つかわしくないため息がもれる。同時に携帯の電源を切る。
今日はさすがにデートするわけにはいかない。恋人イベントの代表が二つも重なっている日に、特定のレディとデートなんてしたらどんなことになるか、と彼は思う。レンにはこれから重大なミッションがある。
もらったチョコレートを全て胃に収める。彼の誕生日であることもあり子供のころからこの日にはかなりもらっていたが、さすがに今年は量が多い。
しかし、苦手だからといって、大事なレディ達からの気持ちがこもった贈り物を食べないわけにもいかない、というのがレンの考え方だった。よってこれはミッションなのだと言い聞かせる。
部屋中に香るカカオに多少なりとも気分が沈みながらも、ひとつひとつメッセージカードを読んでいく。
レンが没頭していると、部屋の扉が開いた。
「やあ聖川。中々モテてるじゃないか」
レンの同室でありライバルであり、一応恋人でもある聖川真斗が、レンほどではないが大きめの風呂敷を持って帰ってきたところだった。どうやらいつの間にか夕方を通り越して夜になっていたらしかった。
「お前よりは少ない。それにこれは全部がチョコレートなわけではない」
レンの言葉にそう返しながら、真斗は荷物を畳に下ろす。それぞれが自分の居心地の良いように改造した結果、この部屋の内装は縦半分にくっきり分かれていた。レンが真斗の領域に顔を向けると、風呂敷からはメロンパンが出された。
なるほど、確かにチョコレートだけではないようだ。バレンタインの贈り物としては少々間違っているような気もするが、本人が喜んでいるのだから構わないのか、と一人で納得し、レンは自分のノルマに目を向けた。
--とにかく、今はこれを少しでも多く食べないとね。
とはいえ、四分の一は片付いただろうか。何せ夕食を抜いてまで食べ続けていたのだから、それくらいは減っていて欲しい、という願望も入っている。そういえば今日の夕食はカレーだ! と一十木音也が喜んでいた覚えがある。俺だって辛いものが好きなんだがなあ。手は休めずに、レンは考えつづける。
メッセージカードには、デートの誘いだったりストレートな告白だったり、女性たちのレンへの想いが綴られている。可愛らしい文字が踊るそれらを微笑ましく思いながら、少し罪悪感もある。これだけ想われていることは嬉しいけれど、本気で恋されてしまえば自分はそれに応えられない。当たり前のことをすこし苦く感じた。
「神宮寺、もう夜中だ。そろそろ食べるのをやめて寝たらどうだ」
不意にそう声がかかる。振り返れば、いつの間に着替えたのか和服姿の真斗が、これまたいつの間に敷いたのか布団に座っている。気づかないということはそれだけ考えるのに没頭していたということかな、とレンは苦笑した。
不思議そうな顔でそれを見て、俺はもう寝るぞ、と真斗は告げた。レンが時計を見ると、もう日付が変わりそうだった。明日も授業がある。
胃もそろそろ限界だし、寝ようかな。そう答えれば真斗は納得したように布団を被った。寝間着に着替えて、大量の目覚まし時計を一つずつセットしていく。これだけあっても起きることができない日のほうが多いけれど、セットしなければそれはそれで盛大に寝坊するはめになるのだった。
そういえば、あいつこんな時間まで何してたんだろうか。ベッドに入る寸前にふと気づく。しかも結局真斗には祝われた覚えもない。仮にも同室の、一応恋人の誕生日を祝わない。そういうところが聖川らしいっちゃらしいのかな。でも……。そこまで考えて、レンは眠りに落ちた。
しかし、彼はチョコレートが苦手だった。
<三百六十四日前の誕生日プレゼント>
大量のチョコレートと誕生日のプレゼントを持ちきれないくらい受け取って、デートの誘いを巧みにかわしながら寮に戻ってきたレンの口からは似つかわしくないため息がもれる。同時に携帯の電源を切る。
今日はさすがにデートするわけにはいかない。恋人イベントの代表が二つも重なっている日に、特定のレディとデートなんてしたらどんなことになるか、と彼は思う。レンにはこれから重大なミッションがある。
もらったチョコレートを全て胃に収める。彼の誕生日であることもあり子供のころからこの日にはかなりもらっていたが、さすがに今年は量が多い。
しかし、苦手だからといって、大事なレディ達からの気持ちがこもった贈り物を食べないわけにもいかない、というのがレンの考え方だった。よってこれはミッションなのだと言い聞かせる。
部屋中に香るカカオに多少なりとも気分が沈みながらも、ひとつひとつメッセージカードを読んでいく。
レンが没頭していると、部屋の扉が開いた。
「やあ聖川。中々モテてるじゃないか」
レンの同室でありライバルであり、一応恋人でもある聖川真斗が、レンほどではないが大きめの風呂敷を持って帰ってきたところだった。どうやらいつの間にか夕方を通り越して夜になっていたらしかった。
「お前よりは少ない。それにこれは全部がチョコレートなわけではない」
レンの言葉にそう返しながら、真斗は荷物を畳に下ろす。それぞれが自分の居心地の良いように改造した結果、この部屋の内装は縦半分にくっきり分かれていた。レンが真斗の領域に顔を向けると、風呂敷からはメロンパンが出された。
なるほど、確かにチョコレートだけではないようだ。バレンタインの贈り物としては少々間違っているような気もするが、本人が喜んでいるのだから構わないのか、と一人で納得し、レンは自分のノルマに目を向けた。
--とにかく、今はこれを少しでも多く食べないとね。
とはいえ、四分の一は片付いただろうか。何せ夕食を抜いてまで食べ続けていたのだから、それくらいは減っていて欲しい、という願望も入っている。そういえば今日の夕食はカレーだ! と一十木音也が喜んでいた覚えがある。俺だって辛いものが好きなんだがなあ。手は休めずに、レンは考えつづける。
メッセージカードには、デートの誘いだったりストレートな告白だったり、女性たちのレンへの想いが綴られている。可愛らしい文字が踊るそれらを微笑ましく思いながら、少し罪悪感もある。これだけ想われていることは嬉しいけれど、本気で恋されてしまえば自分はそれに応えられない。当たり前のことをすこし苦く感じた。
「神宮寺、もう夜中だ。そろそろ食べるのをやめて寝たらどうだ」
不意にそう声がかかる。振り返れば、いつの間に着替えたのか和服姿の真斗が、これまたいつの間に敷いたのか布団に座っている。気づかないということはそれだけ考えるのに没頭していたということかな、とレンは苦笑した。
不思議そうな顔でそれを見て、俺はもう寝るぞ、と真斗は告げた。レンが時計を見ると、もう日付が変わりそうだった。明日も授業がある。
胃もそろそろ限界だし、寝ようかな。そう答えれば真斗は納得したように布団を被った。寝間着に着替えて、大量の目覚まし時計を一つずつセットしていく。これだけあっても起きることができない日のほうが多いけれど、セットしなければそれはそれで盛大に寝坊するはめになるのだった。
そういえば、あいつこんな時間まで何してたんだろうか。ベッドに入る寸前にふと気づく。しかも結局真斗には祝われた覚えもない。仮にも同室の、一応恋人の誕生日を祝わない。そういうところが聖川らしいっちゃらしいのかな。でも……。そこまで考えて、レンは眠りに落ちた。
作品名:面の皮が厚い御曹司もの 作家名:くきや