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面の皮が厚い御曹司もの

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「……おい、起きろ。神宮寺」
「んー……もう朝?」

 ぼんやりとした口調で返すレンに、真斗は呆れたように、そうだ、と言った。たくさんの目覚まし時計は仕掛けた本人によって全て止められ、部屋には妙な静けさがある。これがこの部屋の朝の光景であった。
 しかし昨日とは決定的に違うものがあった。身を起こしたレンは上手く働かない頭で違いを探す。

「いつまでも何を考えているんだ」

 真斗の声に振り向くと、彼の姿でようやくレンは気づいた。不思議そうにレンを見る真斗は割烹着姿であった。昨日充満していた甘いカカオの香りのかわりに、食欲をそそる匂いが部屋に満たされている。

「……何、メシ作ってくれてるの」
「さすがにチョコレートと菓子だけでは栄養が偏るだろう」

 レンが立ち上がりながら問う。それを見て、キッチンに戻りながら平然と答える真斗に、わずかに笑ってしまう。相変わらず、家庭的というかなんというか。昨日の憂鬱な気分はどこかへ飛んでいき、上機嫌にシャワーに向かう。
 それを見届けて、真斗は最後の仕上げにかかった。昨晩の風呂敷からビターの板チョコレートを取り出し、慎重に一欠片だけ折る。そしてそれを、くつくつ煮立つ鍋の中に入れて混ぜる。気付かない程度の、隠し味だった。
 さすがに男が男にチョコレートを渡すのもどうかと思ったし、そもそもレンがチョコレート嫌いなのを知っている真斗としては、バレンタインをどうするかは重大な悩みだった。
 我ながら上手い解決法を思いついたものだ、と一人つぶやいて、鍋を一度閉じた。あとはもう少し煮こむだけで完成である。あの調子だと、神宮寺はまだかかるな。そう判断し、付け合せを追加で作り始める真斗も、明らかに上機嫌であった。

 シャワールームを出ると、部屋から漂う匂いはスパイシーなものに変わっていた。これはおそらくカレーであろう、とレンは予測し、何となく苦笑しながらつぶやいた。

「朝からカレーとはね……」

 まさか昨日俺が食べそこねたからじゃないよな、聖川はそこまで気が回る男ではないし。レンはそう思いながらも、もし気を回してくれたのだとしたら素直に嬉しい、とか感じてしまう自分に何となく恥ずかしさを覚えた。あの唐変木に限ってそれはない!と少々きつく首を振り、手早く着替えて部屋に戻った。
 レンが戻ると、テーブルには気持ち少なめにカレーが盛られていた。脇には少量サラダも用意してあり、一応朝食のスタイルは整っている。

「早く座れ、遅刻するぞ」

 振り返るとすでに割烹着を脱いだ真斗がコーヒーと日本茶を運んでくるところだった。

「ああ、うん……朝からカレーかい。ボリュームあるね」
「そう言うな。……ダンスレッスンもあるのだから熱量的には大丈夫なはずだ」

 冷めるぞ、いただきます。と続けて真斗は食べ始めてしまう。レンもいただきます、と言って(言わないと怒られる)カレーをすくう。どことなく色が薄いが、香りはスパイシーだ。一口食べて、

「……美味い」

 と正直な感想が口をついた。いわゆる蕎麦屋のカレーというのか、真斗らしく和風であっさりめ、その割にはしっかり辛い。辛いもの好きなレンにはぴったりだったし、何より昨日のチョコレートに疲れた舌にはすごく新鮮な味だった。
 何やら複雑な味もするけど、これは美味いな、と心から思い、食べるスピードは速まっていく。

「口に合ったなら何よりだ」

 クールにそう言いながらも、真斗はそっとばれないように息をついた。いささか味覚が崩壊しているきらいのあるレンには感知できなかったが、このカレーにはいわゆる隠し味がいろいろ投入されていた。牛乳、追加スパイス、そしてチョコレート。昨夜彼の持ち帰った風呂敷にはこのカレーの材料が詰まっていた。
 更にレンは全く知らなかったが、真斗はそれら隠し味と和風カレーの調和をとるために一ヶ月前から練習して完璧な味を目指してもいた。レンが思う以上に真斗は彼のことを考えていたし、好意を向けられてもいる。
 わざと翌日(にすればだれともかぶらないんじゃないか、という真斗の発想である)の朝にこんな手の込んだ”チョコレート”をもらう程度には彼は愛されていたのだった。
 --さすがに、前日の夕食がカレーであったことと、レンが夕食を食べなかったことは真斗の予想外だったのだが。

「ああ、あとこれもやろう」

 機嫌よくカレーを平らげていくレンを見守っていた真斗が、テーブルに箱を一つ置いた。

「え、何コレ。プレゼント……な訳ないよな? 」

 首をわずかにかしげて、レンがその箱に触れる。レンの手のひらに乗るサイズのそれは、見た目に反して重みがある。いぶかしげな表情で問い返せば、

「プレゼント以外に何だと言うんだ貴様は。誕生日だっただろう」

 カレーはオマケというか、バレンタインの方だ。と真顔で真斗は返した。同時に、仮にも恋人の誕生日プレゼントを、(手間がかかっているとはいえ)カレーだけで済ませるほど俺はバカではないのだが、と思う。それとも神宮寺は俺のことをそこまでバカだと思っているのだろうか、と表情はそのままで彼は少し落ち込んだ。
 レンはレンで、どうしようもない唐変木が、わざわざカレーを作ってくれただけでも嬉しかったのに、プレゼントまで用意しているとは全くの予想外で混乱さえしていた。それでも表情は少し笑んだだけで、開けてもいいかい?と問う。

「貴様のものだ、好きにしろ」

 真斗の言葉を聞く前からレンは包装を剥がしにかかっていた。その様子で喜ばれているのが何となく分かり、今更真斗は少し照れる。
 包装紙の中から出てきたのは、うっすらオレンジがかった、木目の美しいリードケースだった。しかも、ちゃんとテナーサックスのリードが入る大きさである。
 これにはさすがにレンも照れた。これは普段から彼を見ていないと思いつかない。サックスの種類に、レンがケースを使っていないこと、かつイメージカラーに近いもの。”いつも見ている”、”よく知っている”と言われるようなものだ。
 
かなりの時間、無言だった。互いに何を言えばいいのか図りかねる。静寂を破ったのは、こんこん、という間の抜けたノック。その音で弾かれたように真斗が立ち上がると、レンは食べかけの朝食に意識を集中した。

「あ、真斗くんおはようございます」
「どうかしたか四ノ宮」
「昨日、楽譜渡すの忘れてしまったので、届けに来たんです」

 にこにこと、朝から機嫌の良い四ノ宮那月は、真斗に紙束を差し出した。それは確かに昨日約束していたものであり、真斗は礼を言う。いえいえ、と言ってから、那月は不思議そうに続けた。

「ところで、真斗くん。遅刻しちゃいますよ?」

 時計を見れば、始業まであと数分であった。

 その後、二人は慌てて朝食を平らげ、何事もなかったかのように登校した。レンはリードケースを早速使って上機嫌そうに一日を過ごし、真斗もまた達成感に満ちた顔だったようだが、お互いがそれを知ることはなかったのだった。


<了>

→あとがき

作品名:面の皮が厚い御曹司もの 作家名:くきや