こらぼでほすと 約束11
ちびちびと酒を舐めているニールを横目にしながら、トダカは酒を煽る。これからが始まりだ。始まったら終わるまで、この痛みと付き合わなければならない。それを見守りつつ、トダカはニールが弱らないように支えるつもりをしている。キラたちの救助にも参加するが、それも後方支援に徹するつもりだ。オーヴを守りつつ、キラたちの支援もする。だが、実戦の世界へ行くつもりはない。トダカは、そこから退いた身だ。だから、ニールの気持ちも歯痒さも理解できているし、若い身で、そうせざるえないニールの苦しさも理解している。少し支えてやれば、ニールは待っていられる。ただし、三蔵のように甘やかすつもりはない。これは乗り越えるべきことだと考えているからだ。
これから、ニールは延々と見守り続けることになるだろう。だから、最初の大きな障壁を乗り越えなければ先には進めない。
「娘さんや、『お父さん大嫌い。』だけは禁句だからね? 」
厳しいことも言わなければならないだろうが、ニールから、そんなことを言われたらトダカでも凹む。おどけて、そう言うと、ニールは噴出した。
「言いませんよ。俺がバカなことを言い出したら叱ってください、お父さん。」
「ああ、わかってる。ちゃんと娘さんのことは見ていてあげるから。」
「・・・・目を開けて待っています。刹那との約束なので。」
「そうしてくれ。」
夜が白む頃まで、ふたりして空を見上げていた。まだ、これから再始動までは時間がある。キラたちも準備を完了させるために奔走する。寺は、何も変わらずに日常を刻む。その中心にいるのがニールだ。
刹那を叩き起こして、最後のミーティングをする。ハイネが発進した五秒後に刹那も発進し、成層圏を抜けて、予めセットした目標地点まではハイネと同じ航路を飛ぶ。目標地点に到達したら、そこから散開だ。ハイネは一端、プラント方面へ移動する。その際に、デコイを連れて刹那が消えたことをカモフラージュする。レーダーに察知されない地点で、ハイネも反転して軌道エレベーター方面に向かう。そこからは、『吉祥富貴』からのフォローはない。
「アローズの施設は各地に点在しているから、好きなところから攻めればいい。隠蔽皮膜で、ある程度はレーダーから隠れられる。」
これからの予定をアスランがパネルに投影して説明する。刹那もハイネも、すでにパイロットスーツに着替えている。
「俺のほうは、軌道エレベーター付近を探索する。目処がついたら、プラントへ移動してグフイグナイテッドをエターナルに置いて戻って来る。予定は一ヶ月だ。そのデータは、解析でき次第に、おまえの携帯端末へ送るからな。」
「了解した。それも、ヴェーダに関連のないシステムに保存しておけばいいんだな? ハイネ。」
「ああ、そういうことだ。こっちが調べているのがバレたら厄介だからな。必要になったら、おまえの携帯端末からデータを組織のシステムに移してもいい。」
ハイネの今回の任務は軌道エレベーターに付属するように建造されている大型のレーザー装置の確認だ。オービタルリング上で自由に動けるのなら、それは破壊することになる。もちろん、破壊するのは組織の仕事だ。その前段階の規模やら弱点、防御状態などを調べておくのがハイネの担当になる。
「僕らが、きみたちの映像は改竄するから、散開するまでのことは任せておいて。ハイネ、デコイのタイミングは外さないでよ? 」
「俺が、そんなヘマするか? キラ。それより、ヴェーダの動きを把握しておいてくれ。俺が察知されたらターミナル経由でエマジェンシーをよろしくっっ。」
「そちらは、しばらくチェックを強化する。俺とレイが担当だ。」
ハイネの動きを察知されると、『吉祥富貴』がヴェーダの攻撃対象に確定される。今は表立って衝突するつもりはないから、そこいらは慎重になる。常時、そのチェックをシンとレイが交代で行なうことになっている。レイは寺のほうにも顔を出すつもりだから、ダコスタも、こちらに参加予定だ。
「せつニャン、ギリギリのことはするな。おまえもエクシアも発見されたら組織が現存しているのがバレるからな。」
「わかっている。俺の予定は、ハイネと逆周りにオービタルリング周辺の確認から始めるつもりだ。」
アローズの施設は、いくつもある。どういう目的で配置されているのか探るつもりだ。キラの情報では、テロリストを捕まえて留置している施設があるらしい。そこいらも確認するつもりだ、と、刹那は今後の予定を説明する。
「テロリストのほうは、カタロンが奪還計画を練っているみたいだ。バッティングしないように注意しろ、ちびニャン。」
「了解した。」
ほぼ、今後の予定やらについて話し合った。予定時刻が迫っている。では、始めようか、と、虎が時計を確認して声をかける。
「じゃあ、刹那。いってらっしゃい。」
「いってくる。」
代表してキラが声をかけると、刹那もぺこっと頭を下げた。しばらくは逢えないだろうが、また再会できると信じているから挨拶も軽いものだ。並んだ機体に、ハイネと共に搭乗する。マードックたちも手を振るだけだ。ゆっくりと整備用の骨組みが外されて、滑走路上に打ち上げ用の射出路が突き出してくる。まずは、ハイネが機体をそこに載せる。その後方に刹那のエクシアだ。
「しっかりついてこいよ? せつニャン。」
「当たり前だ。」
発進シークエンスが始まり、ハイネのブースターが点火される。すぐさま、刹那もブースターを点火する。二機が続けて打ち上がると同時に、キラたちもレーダーサイトの改竄処理を開始する。これで、組織と『吉祥富貴』の繋がりも切る。ここからは、刹那たちが、世界をさらに変革するために動き出す。
作品名:こらぼでほすと 約束11 作家名:篠義