こらぼでほすと 直前1
「少し軽いものでも召し上がってお昼寝してくださいな。衣装の準備はしておきますわ。」
「おかしなものを用意したら出かけないぞ。」
「ほほほほ・・・私のセンスをお疑いですか? 悲しいこと。」
「おまえが無茶言うからだろ。・・・ほんと、俺は大丈夫だからさ。」
「ええ、承知しておりますよ。ママも、退屈してくださるほど元気になってください。」
そう言われれば、そうだと苦笑する。退屈だと感じるほどに時間を持て余していない。ぼんやり景色を眺めていれば、気付いたら眠っているという状態だから退屈する暇がない。
「そうだな。早く復帰しないといけないな。店のほうも手伝わないと。」
「あまり店のほうは手伝わないでください。滅多に現れないレアホストとして売り出しているのですから、毎日出勤されては価値が下がります。」
「でも、シンとレイが出てこないんじゃ、明らかに人員不足だろ? ハイネも留守だし。」
「ハイネは、十月になったら戻ります。あの店は赤字でいいんです。あそこは、私が寛ぐために用意した店ですもの。」
「でも、八戒さんもアスランも経営は真面目にやってるぜ? まあ、あまり繁盛しても困るだろうけどさ。」
繁盛するほどの客が来るとなれば、歌姫様が寛ぐことが出来なくなる。だから、繁盛はしなくていいし、よくわからない客も入れたくないのが実際のところだ。なんせ、先の大戦の有名人が集っているのだ。バレたら五月蝿いこと、この上もない事態になる。
そんなくだらない話をしていたら、扉が開いて鷹がワゴンを押してきた。どうやら外出の予定は、すでに確定しているらしい。
「同伴出勤のご指名ありがとうございました。俺の麗しの白猫ちゃん、愛してるよ? 」
ワゴンから手を離して優雅にお辞儀して投げキッスを寄越してくる姿が、さすがホストという態度の鷹だ。ワゴンの上には、簡単な軽食チックなものとデザートや果物が盛られている。で、笑顔で、ずいっと一番に差し出されたのが食間の漢方薬だ。
「さあ、白猫ちゃん、ぐっと一気に。」
おどろおどろしい色合いの液体を差し出されて、ニールは大人しく一気飲みする。以前なら、嫌がっていたが、今は体調を維持するために必要とあらば、寺でも飲んでいる。生きているという約束を果すには、まずは体調を整えておかなければならないからだ。
「うぉー見事、見事。賢くなったな? 白猫ちゃん。」
ラクスが急いでミネラルウォーターを差し出している。それで口の中を洗うようにして飲み干して、ニールも笑う。これとは、延々と付き合っていくことになると自覚したからだ。
親猫を休ませて、部屋を出る。夕刻まで寝かせて、店に連れ出して気を紛らわせるつもりだ。
「俺がママニャンのエスコートはする。」
「お願いいたします。やはり、ママは断られました。」
「そりゃそうだろう。あいつらもケツに火が点いている状態だ。それは理解しているさ。・・・・まずはアレハレの奪還あたりか? 」
「ええ、そうなるでしょう。刹那は、スメラギさんとライルの確保だと思います。」
現在、組織から外れている戦術予報士を確保しなければ作戦が建てられない。そこから始めることになるだろう。それからライルだ。ふたりが組織に入れば、まずはマイスターの奪還が必要になる。それか始まる前に、ハイネやレイ、シンは降下してくることになっている。アローズのオービタルリング上の武器についての情報は抑えた。ハイネが持ち帰ってくるデータを解析して、これはターミナル経由で刹那の携帯端末に送信することになっている。なんだかんだと建前では縁を切っているが、キラは出来る限りのフォローはするつもりだ。
「ヤバくなったら、こっちも動くさ。ラクス嬢ちゃんには、ママニャンを任せる。」
「承りました。しばらくは、ママを情報から隔離させるつもりです。」
どう考えても、再始動の最初はセンセーショナルなニュースとなるだろう。だから、それが情報管制で伝えられないか確認できたら、ニールを寺へ戻すつもりだ。それまでは八戒にも、こちらのドクターにも許可を出さないように頼んである。
・・・・私たちも見守っておりますよ? 刹那。どうぞ、ご無事に・・・・
ラクスも内心で、無事を祈っている。これから始まる再始動が終わるまでは、しっかりと彼らの動きを見守っているつもりだ。救助が必要になったら、即座にエターナルを発進させる。世界を変革させる犠牲にするつもりはない。組織は世界への抑止力として存続させていくつもりだ。
ママが穏やかに子猫たちと過ごせる世界。
キラやラクス自身も本当に笑える世界。
そのための組織の再始動に、ラクスも願いを込めている。絶対に子猫たちを欠けさせてはならない。欠けたら、ママは穏やかに笑ってくれなくなるからだ。
作品名:こらぼでほすと 直前1 作家名:篠義