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雪月の蝶

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クロと二人、入口近くで暫く待つことにする。聖堂内には一応暖房がかかっているみたいで、外よりも少し暖かい。
正面真ん中、奥に祈りの対象を掲げる場所に立つ二人の女の子。さっきまでは暗いのと遠いので気配しか感じなかったが、この明るい聖堂内で見ると、二人とも特徴的な髪型をしている。
片方の子は頭の両脇にお下げを作り、もう片方の子は更に特徴的なクルクルと円錐形になった髪を両脇に下げている。
そして、二人とも同じ紅色のリボンをそれぞれ結び、出で立ちもまた同じ紅色のダッフルコートを着ていた。
それぞれのフードが何とも愛らしさを感じる。二人はまるで姉妹のように見える。
お互い同じ色、同じ雰囲気を纏って、お互いの絆を身に付けることで、お互いの繋がりを再確認し、自らの心を相手に見えるように示しておく。
何とも親密な関係性を感じさせる二人の後ろ姿だった。
振り返ってクロと自分の格好を見てみる。あの子達みたいな統一感はないけど、それぞれいつも通りに、お互いの釣り合いが取れた格好をしていると思う。
私達の方は、到底姉妹には見えないだろうけど、刃友と言う関係としては多分問題なく適切だと思う。
二人がお祈りを終えたのか、最前列の左側の席の方にずれる。
私達の気配を向こうも感じ取っていたのだろう。私達の方を向いて、少し微笑んで自分達の先ほどまで居た場所に促す様子を見せてくれた。
「綾那、行こう」
「ああ」
 クロの促す言葉にも乗せられて、私は二人に少しばかりの会釈を返して、中央奥の祈りの先へと向かった。
丁度先ほどの二人の場所に着いた当たりで、後方の木製のドアの軋む音と二人の女の子の声が聞こえた。
「あ、誰かいる」
「ええっ?か、勝手に入って良かったのかしら…」
「大丈夫でしょ、みんなお祈りしてるみたいだし」
 後方の二人の様子は解らないけど、先ほどの二人は左側でも何かにお祈りをしている様子なのが見えた。
私は作法は良く解らないので、単純に手を合わせてお祈りをすることにした。クロも同じようにするようだ。
眼を閉じようとした時、私の眼の前にある神様に捧げられた花と草の中に、同じ形で寄り添い合う二枚のハート型の葉があるのが眼に入った。
「綾那、綾那。この葉っぱ、しぐまとじゅんじゅんみたいだね」
 ああ、そうか。この二枚の葉こそが、あの二人、夕歩と順だ。
寄り添い合い、互いを支え合う二枚の葉、明日二人で、最大の試練を乗り越える。
お互いが、お互いのために、力を尽くす。

 寄り添いて、互いに支う双葉の葵。ただ静かに、試練の日を待ち、密やかに眠る。

 それは誰の言葉だったか、昔読んだ本にあったのか、何かで見たものか、遊んだゲームで聞いて、憶えていたのかも知れない。
この葉は双葉葵と言う葉なのだ。
「そうだな、あの二人が二人でいる限り、この双葉葵のようにいる限りは、明日も二人はきっと大丈夫だ」
「この葉っぱ、双葉葵って言うのか~。うん、何かこの葉っぱ見てたらやっぱり大丈夫だって安心できた気がする」
「そうだな」
 あの二人はやっぱり大丈夫だ。私とクロの想いも、やっぱり間違いなくちゃんと届く。

 お祈りを終えて、私達は右側にずれる。左側には先程の二人が戻ってきて腰掛けていた。
よく見ると、顔立ちはそんなに似ていない。
もしかしたら姉妹ではなかったのかも知れない。
後ろを振り返って、先ほど入ってきた二人を促す。
長い髪に、特徴的な赤いリボンを付けた女の子と、その子よりも更に長い髪を、ポニーテールにしている女の子だ。
赤いリボンの子が、ポニーテールの子の手を引っ張るようにして歩いてくる。
ポニーテールの子は若干不安そうに見えるけど、赤いリボンの子はお構いなしに楽しそうに手を引いて歩いてくる。
「ほらほら、行くよ綾乃~」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ歳納京子」
 何だか、初々しい恋人同士のカップルを見ているみたいで、微笑ましいものの見ているこっちが恥ずかしくなるような二人だ。
「あやのだって、綾那と同じ字かな~?何か女の子同士だけど恋人同士みたいに見える二人だねえ~」
 クロも同じように感じたみたいだ。
二人の邪魔にならないように、クロと二人右側の席で腰掛けた。

 二人はお祈りを終えると、私達の後ろに腰掛けた。二人も私達と同じようなお祈りの仕方だった。
「歳納京子、さっきの同じ葉っぱが二枚付いているのの名前解る?」
「解んない、ハート型で何か可愛かったよね~」
 後ろの二人の声が聞こえる。教えてあげようかなと思ったけれど、
「あの葉っぱはね、双葉葵って言うんだよ」
 クロが後ろを向いて、私が動くよりも先に話しかけていた。やっぱりそれが私達の通常の流れだ。
「おお、双葉葵!教えてくれてありがとう!綾乃~双葉葵だって」
「隣にいるんだから聞いてたわよ。ありがとうございます、ご親切に」
「いやいや、どういたしまして~」
「だから、貴女に言ったんじゃないってば!歳納京子!」
「あやのちゃんととしのうきょうこちゃんは何年生?見た感じ同い年ぐらいな気がするので声かけてみたのもあるんだけど~」
 二人でお互いの名前を連呼しているものだから私もクロも、二人の名前の読みだけは直ぐに解った。きょうこちゃんの方は多分名字も。
「双葉葵が話題になってますね、お姉さま」
「そうだね、何かあっちは楽しそうだね」
 お姉さま、って事はやっぱり姉妹か。でも姉の事お姉さまって呼ぶとは、どこの良家のお嬢様なのか。
「すいません、騒がしくしちゃって」
 後ろの三人の会話は妨げないように、姉妹の二人に話しかけてみることにする。今日は双葉葵の魔力が働いているのかも知れない。
「いえいえ、お二人は良くお祈りにはいらっしゃるんですか?」
 特徴的な髪の子が話しかけてきてくれた。
「いやいや、普段はそういうのとは全く縁のない殺伐とした生活をしています」
「へえ、どんな生活なんですか?」
 今度はお姉さまの方が話しかけてきてくれる。
 しばらく、私とクロそれぞれ三人と三人で簡単な自己紹介したり雑談に華が咲いた。
 ステンドグラスから差し込む月明かりは、変わらずに優しい微笑を、私達と双葉葵に向けてくれている。
私は双葉葵を見つめながら、夕歩と順の明日の手術事を話し、その為に何かしたくてここに辿り着いたと言う事も話した。
二人はその話を聞いてすかさずもう一度お祈りしなおしてくれた。素敵な姉妹だ。
 クロも同じ話をしたらしく、きょうこちゃんとあやのちゃんもお祈りし直してくれていた。優しい子達だ。

「綾那~京子ちゃんと綾乃ちゃんは富山から遊びに来てるんだって、びっくりだね!」
「へえ、祐巳さんと瞳子さんは都内のカトリック系の女子校に通っているんだってさ」
「剣で闘うのが目的の学校って珍しいですよね」
「クロちゃんと綾那さんはペアで闘ってるんだね~面白そう」
「富山からだと何で来たの?電車?」
「深夜バスです。私は基本的には付き添いというかお手伝いですけど」
 いつの間にか、六人で雑談の輪が出来ていた。双葉の葵が導いた雑談の輪。

 六人で少しの間話し込んだ後、クロが突然立ち上がって窓の外を指さした。
作品名:雪月の蝶 作家名:雨泉洋悠