二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
まみむめももも
まみむめももも
novelistID. 33950
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ある日の小話-バレンタイン

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

シェゾは鬼のような形相で目を吊り上げ…すぐに不可解そうなとまどった表情を浮かべた。
アルルはと言えば、何とも言えない表情で、むぐむぐとシェゾの口が動くのを、息を飲んでひたすら見まもっていた。その胸はどきどきと期待と興奮で高鳴り、微妙な変化を見逃すまいと、戸惑いと不機嫌が入り交じったような表情を見つめ続ける。
意外と行儀良くシェゾは口の中のものを飲み下してから口を開いた。
「なんだ、これは」
ぶすくれたような声にアルルは即答した。
「チョコだよ」
「んなことはわかっとるわ!どういうつもり…」
「美味しかった?」
待ちきれないアルルは、相手のセリフを遮って問いかけた。ありったけの期待を込めながら相手の顔を見上げる。
その瞳がキラキラと輝いているのはあまり自覚していない。
一瞬眉を吊り上げたシェゾはその視線を受け…ややあってから、力が抜けたようにぽつりと呟いた。
「ああ…まぁな」
「そっか」
答えを聞くと、アルルは満足気に頷いた。
「それならいいんだ」
うきうきとしながら、片手に残ったチョコを差し出して見せる。
「もっと食べる?」 
その問いに、シェゾの顔が物欲しげな表情を浮かべ…すぐにしかめっ面に取って代わる。
「いらんわ」
「あっそ」
拒絶に対して意外な程あっさりと頷くと、アルルはさっと背中を向けた。
「お…おい?」
呼びかける声にさらりと髪を揺らし、可愛い顔が言いがたい表情を浮かべて振り向く。
「美味しかったんでしょ?」
何処か詰問するような再確認の声に、シェゾは思わず頷いてしまう。
「う…まぁな」
曖昧とも取れる答えを受け、アルルの顔に笑顔の花が咲いた。
「うん、良かった!」
一瞬、日の光に照らされたようなまぶしさを感じてシェゾは目を細める。
その間にアルルの背中は遠ざかっていた。
「待て!おい!」
伸ばした手は虚しく宙に泳ぎ、以外と足の速いアルルの姿はあっという間に見えなくなってしまった。
「…なんなんだ」
ぼそりと呟いたシェゾの口中にはまだ甘い味が残っている。
思い切り不可解な気持ちを抱えたその脳裏に何となく回答のようなものがおぼろに浮かんだ。
ああ、今日はバレンタインというイベントだったかと思い出すこともなく思い出した。
ごくり、とその喉が静かに鳴った。
 
 
当初の目的を果たしたアルルは帰路へとついていた。
無事食べさせることに成功した。
その上、あの気むずかしいシェゾに手作りのチョコを美味しかったと言わせた。
それが妙に嬉しくてたまらない。それだけでも、今日いちにち探し回った甲斐があった。
自然と足取りが軽くなる。
何となく勝負に勝ったときのような気がする。高揚感で頬が熱い。
ふと、片手にはむき出しのチョコの残りを握りしめたままなのに気がついた。
しばし、それを見つめた後、おもむろにチョコの欠片を口元に運んだ。
「…一舐めくらいなら大丈夫だよね…」
ふと、一人言を落とす。そのままちろりと舌を出し、シェゾがかみ砕いた欠片の淵をぺろりと舐めた。
滅多に見られないような表情がその顔に浮かぶ。
「うん、あまーい」
ほんのりと桜色した口元から満足げな呟きが溢れ、夕日に溶け込むように静かに消えた。