こらぼでほすと 直前2
歌姫に伴われて久しぶりに『吉祥富貴』へ顔を出した。いつもは接待する側だが、今回はされる側だ。エントランスに入ると、何かが飛んできた。小さな青いものが、自分の肩に留まる。それは青いトリィだった。えっと驚いて小さく声をあげたが、トップホストの動きに掻き消えてしまった。刹那がキラから貰ったはずの鳥型マイクロユニットだったからだ。
「ようこそ、吉祥富貴へ。お待ち申し上げておりました、ラクス様、ニール様。」
同伴してきたトップホストは、くるりとお客様に向きを変えてお辞儀して挨拶する。営業用の笑顔に台詞だと、のほほん天然電波でも、優雅な王子様然と見えるものだと、まず、それに感心する。エントランスには、他のホストたちも顔を揃えている。
「さあ、どうぞ。浮世のことは忘れて楽しんでください。」
フロアマネージャーのアスランがホールへと案内するように動き出した。相変わらず、ニールの肩に青いトリィは留まっている。
「ママニャン、疲れたか? 」
こそっと背後から鷹さんか声をかけてきた。まだ本宅から店へ移動しただけなのに、それで疲れていたら外出許可など出ないだろう。
ホールに作られた席に案内されると、亭主はカウンターでトダカさんを相手に飲んでいた。悟空が嬉しそうに腕に懐いてくるので、とりあえずカウンターのほうへ出向いて挨拶する。
「お見舞いありがとうございました、トダカさん。」
まずは、何度も見舞いに来てくれているトダカさんに挨拶する。それから、亭主のほうへ声をかけた。
「元気ですか? 三蔵さん。」
「そりゃ、俺の台詞だろ? ちょっと痩せたか? 」
「まあ、四、五日は絶食状態でしたから。熱も下がったし具合はいいと思うんですが、なかなか帰宅許可がでなくて。」
「帰りたいなら、悟空に力づくで奪還させてやろう。」
「やめてください。それ、本気でしょ? 」
悟空に本宅へ攻め込まれたら、本宅の警備員たちでは太刀打ちが出来ないだろう。そんな騒ぎを起こしたら、マスコミにも騒がれるに違いない。
「本気だぜ、ママ。ここんとこ、さんぞーの機嫌が悪くてさ。たまには見舞いに行って顔を合わせればいいって言うのに、それもヤダって言うし。」
「ごめんな、悟空。俺も二週間で終わると思ってたんだけどさ。」
「まあ、暑いから八戒も心配してんじゃね? それより、なんでトリィを連れてるの? これ、刹那のだよな。」
悟空もニールの肩に留まっているトリィに首を傾げた。トダカも、おやという顔をしているところをみると、誰も事情を知らないらしい。製作者辺りなら理由は知っているだろう。振り向いて、声をかけたらアスランが走り寄ってきた。
「ママニール、できればウエルカムドリンクを召し上がってから話をさせてください。」
「そんな大事の話なのか? 」
手を取られて、ホールの真ん中の席に案内される。悟空は腕に懐いたままついてきたが、青いトリィは飛び上がった。やはり、トリィトリィと鳴いている。
「ママ、とりあえず乾杯いたしましょう。」
「そうだよ、ママ。お客様なんだから、ちょろちょろしちゃダメ。さんぞーさんを指名すれば、こっちに来るんだから。」
「三蔵さん、ママニャンの指名だ。」
鷹が声をかけると、やでやでという態度でやってくる。歌姫様の隣りにはキラと悟空が陣取り、対面のニールの両隣には鷹と三蔵が座る。他のホストたちは、その周辺にグラスを持って立っていた。
「いらっしゃい、ラクス。今日も綺麗だね? 」
「ありがとうございます、キラ。」
うふふふふ・・・と、顔を見合わせて微笑み合うと、ふたりして、「かんぱーいっっ。」 と、グラスを持ち上げる。続いて、ホストたちが「かんぱーいっっ。」 と、続いて飲み干す。ニールのグラスに入ってるのは、ノンアルコールカクテルだ。生のオレンジとグレープフルーツのミックスされたもので、口当たりが良くて飲み干した。
「食事をする前に、とりあえずママニールに説明をさせてもらっていいかな? ラクス。」
アスランが、わいわいという賑やかな流れを遮って、青いトリィについての説明をさせて欲しいと頼んだ。ラクスのほうは鷹揚に頷いて許可する。
「ママニール、その青いトリィは刹那のトリィです。出発の時に、あなたの傍に置いてやって欲しいと、俺に預けました。」
預かったのだが、そのままニールに渡すより、中に仕組んでいたシステムの交換をしておこうと、アスランは預かったままにしていた。それというのも、組織の再始動前の準備で、こちらも慌しく動いていたからシステムの交換をする暇がなかったからだ。刹那のために偵察モードのシステムを組み込んでいたのだが、ニールの許へ置くには、そんなシステムは必要ではない。何より、刹那はニールが寂しがり屋だから、傍に置いて欲しいと頼んだのだから、目に見えるところを飛んでいるぐらいのことでいいのだ。
「それで、なるべくニールの肩なり頭なりに留まっているほうがいいのかな、と思って・・・それならバイタルサインの確認をさせればいいだろうとシステムを作って交換しました。」
「はい? 」
「つまり、熱中症で、どこかで倒れてもトリィが、それを俺たちの携帯端末に知らせてくれるんです。他にも、発熱して起き上がれない場合も同様です。そのため、トリィは、ママニールのどこかに留まってデータを収集するので、キラのトリィより密着度は高いです。」
「監視装置をつけられるほど、俺は弱ってないんだが? アスラン。」
「いえ、そちらはついでの機能です。まあ、トリィが周囲にいられるように考えただけですから。」
トリィ自身がニールのバイタルサインをデータとして送信できる機能がある。これなら、どこかでダウンしていても、すぐに誰かが駆けつけられる。言語機能も増やそうかと思ったのだが、ハロほどにはできないので諦めた。それならハロを用意したほうが早い。
「もし、ハロのほうがいいなら俺が作ります。組織のハロほどの高性能なのは無理ですが日常会話ぐらいなら可能です。」
アスランは、そう提案して、「色は選べますよ? 」 と、楽しそうだ。趣味がマイクロユニットの組み立てというオタクな人なので、依頼されて作るのは嬉しいらしい。
「ハロはいいよ。会話なら、みんなとすればいいんだし。」
「そうだよ、アスラン。ハロはいらない。」
僕が一杯喋るよーと大明神様がおっしゃる。天然電波攻撃は、あまり受けたくないなーと、ニールは苦笑している。その間にも、トリィはニールの頭の上にちょんと降り立った。
・・・・俺、そんなに寂しがり屋だと思ってんのか? 刹那・・・・・
刹那にしてみると、そういうことらしい。寂しがり屋だから、ハロの代わりにトリィを置いておけばマシだろうと思ったのだろう。そこまで寂しがり屋でもないんだが・・と、思って、結構、寂しがり屋なのかもしれないな、と、ニールは思い直した。眠れなくて、天下の歌姫に添い寝してもらっているのだから、傍目にしたらエライことをしていると思われる。
「そろそろ食事にいたしましょう、オーナー。」
「ようこそ、吉祥富貴へ。お待ち申し上げておりました、ラクス様、ニール様。」
同伴してきたトップホストは、くるりとお客様に向きを変えてお辞儀して挨拶する。営業用の笑顔に台詞だと、のほほん天然電波でも、優雅な王子様然と見えるものだと、まず、それに感心する。エントランスには、他のホストたちも顔を揃えている。
「さあ、どうぞ。浮世のことは忘れて楽しんでください。」
フロアマネージャーのアスランがホールへと案内するように動き出した。相変わらず、ニールの肩に青いトリィは留まっている。
「ママニャン、疲れたか? 」
こそっと背後から鷹さんか声をかけてきた。まだ本宅から店へ移動しただけなのに、それで疲れていたら外出許可など出ないだろう。
ホールに作られた席に案内されると、亭主はカウンターでトダカさんを相手に飲んでいた。悟空が嬉しそうに腕に懐いてくるので、とりあえずカウンターのほうへ出向いて挨拶する。
「お見舞いありがとうございました、トダカさん。」
まずは、何度も見舞いに来てくれているトダカさんに挨拶する。それから、亭主のほうへ声をかけた。
「元気ですか? 三蔵さん。」
「そりゃ、俺の台詞だろ? ちょっと痩せたか? 」
「まあ、四、五日は絶食状態でしたから。熱も下がったし具合はいいと思うんですが、なかなか帰宅許可がでなくて。」
「帰りたいなら、悟空に力づくで奪還させてやろう。」
「やめてください。それ、本気でしょ? 」
悟空に本宅へ攻め込まれたら、本宅の警備員たちでは太刀打ちが出来ないだろう。そんな騒ぎを起こしたら、マスコミにも騒がれるに違いない。
「本気だぜ、ママ。ここんとこ、さんぞーの機嫌が悪くてさ。たまには見舞いに行って顔を合わせればいいって言うのに、それもヤダって言うし。」
「ごめんな、悟空。俺も二週間で終わると思ってたんだけどさ。」
「まあ、暑いから八戒も心配してんじゃね? それより、なんでトリィを連れてるの? これ、刹那のだよな。」
悟空もニールの肩に留まっているトリィに首を傾げた。トダカも、おやという顔をしているところをみると、誰も事情を知らないらしい。製作者辺りなら理由は知っているだろう。振り向いて、声をかけたらアスランが走り寄ってきた。
「ママニール、できればウエルカムドリンクを召し上がってから話をさせてください。」
「そんな大事の話なのか? 」
手を取られて、ホールの真ん中の席に案内される。悟空は腕に懐いたままついてきたが、青いトリィは飛び上がった。やはり、トリィトリィと鳴いている。
「ママ、とりあえず乾杯いたしましょう。」
「そうだよ、ママ。お客様なんだから、ちょろちょろしちゃダメ。さんぞーさんを指名すれば、こっちに来るんだから。」
「三蔵さん、ママニャンの指名だ。」
鷹が声をかけると、やでやでという態度でやってくる。歌姫様の隣りにはキラと悟空が陣取り、対面のニールの両隣には鷹と三蔵が座る。他のホストたちは、その周辺にグラスを持って立っていた。
「いらっしゃい、ラクス。今日も綺麗だね? 」
「ありがとうございます、キラ。」
うふふふふ・・・と、顔を見合わせて微笑み合うと、ふたりして、「かんぱーいっっ。」 と、グラスを持ち上げる。続いて、ホストたちが「かんぱーいっっ。」 と、続いて飲み干す。ニールのグラスに入ってるのは、ノンアルコールカクテルだ。生のオレンジとグレープフルーツのミックスされたもので、口当たりが良くて飲み干した。
「食事をする前に、とりあえずママニールに説明をさせてもらっていいかな? ラクス。」
アスランが、わいわいという賑やかな流れを遮って、青いトリィについての説明をさせて欲しいと頼んだ。ラクスのほうは鷹揚に頷いて許可する。
「ママニール、その青いトリィは刹那のトリィです。出発の時に、あなたの傍に置いてやって欲しいと、俺に預けました。」
預かったのだが、そのままニールに渡すより、中に仕組んでいたシステムの交換をしておこうと、アスランは預かったままにしていた。それというのも、組織の再始動前の準備で、こちらも慌しく動いていたからシステムの交換をする暇がなかったからだ。刹那のために偵察モードのシステムを組み込んでいたのだが、ニールの許へ置くには、そんなシステムは必要ではない。何より、刹那はニールが寂しがり屋だから、傍に置いて欲しいと頼んだのだから、目に見えるところを飛んでいるぐらいのことでいいのだ。
「それで、なるべくニールの肩なり頭なりに留まっているほうがいいのかな、と思って・・・それならバイタルサインの確認をさせればいいだろうとシステムを作って交換しました。」
「はい? 」
「つまり、熱中症で、どこかで倒れてもトリィが、それを俺たちの携帯端末に知らせてくれるんです。他にも、発熱して起き上がれない場合も同様です。そのため、トリィは、ママニールのどこかに留まってデータを収集するので、キラのトリィより密着度は高いです。」
「監視装置をつけられるほど、俺は弱ってないんだが? アスラン。」
「いえ、そちらはついでの機能です。まあ、トリィが周囲にいられるように考えただけですから。」
トリィ自身がニールのバイタルサインをデータとして送信できる機能がある。これなら、どこかでダウンしていても、すぐに誰かが駆けつけられる。言語機能も増やそうかと思ったのだが、ハロほどにはできないので諦めた。それならハロを用意したほうが早い。
「もし、ハロのほうがいいなら俺が作ります。組織のハロほどの高性能なのは無理ですが日常会話ぐらいなら可能です。」
アスランは、そう提案して、「色は選べますよ? 」 と、楽しそうだ。趣味がマイクロユニットの組み立てというオタクな人なので、依頼されて作るのは嬉しいらしい。
「ハロはいいよ。会話なら、みんなとすればいいんだし。」
「そうだよ、アスラン。ハロはいらない。」
僕が一杯喋るよーと大明神様がおっしゃる。天然電波攻撃は、あまり受けたくないなーと、ニールは苦笑している。その間にも、トリィはニールの頭の上にちょんと降り立った。
・・・・俺、そんなに寂しがり屋だと思ってんのか? 刹那・・・・・
刹那にしてみると、そういうことらしい。寂しがり屋だから、ハロの代わりにトリィを置いておけばマシだろうと思ったのだろう。そこまで寂しがり屋でもないんだが・・と、思って、結構、寂しがり屋なのかもしれないな、と、ニールは思い直した。眠れなくて、天下の歌姫に添い寝してもらっているのだから、傍目にしたらエライことをしていると思われる。
「そろそろ食事にいたしましょう、オーナー。」
作品名:こらぼでほすと 直前2 作家名:篠義