こらぼでほすと あれはれはぴば
トダカが、事務室で、その肩幅を確認して衣装を用意する。ある程度の誤差に対応できるように、サイズもいくつか用意している。
「なんか、こういうの久しぶりで照れるな。」
「ダブルで、中にベストを合わせても貫禄があって似合いますね。」
元々、筋肉質だったが、背丈が伸びた分、貫禄もついている。四年間も不自由していたはずだが、さすが、超兵と言ったところだ。ワイシャツも明るいオレンジで、スーツ自体は、少し渋めの青墨で、ネクタイは藍鼠という感じで、八戒がコーディネートする。オレンジが、アレルヤのカラーだと指定されているから、それを活かすような感じだ。
「無事でよかったですよ。あなたのママが、どれくらい心配したかわかりません。」
「はい、昨日、泣かれちゃって・・・・びっくりしました。」
アレルヤロストの報せは第一報から、吉祥富貴のスタッフは知っていたし、その居場所も判明していたが、手を出すことはしなかった。ニールは、かなり時間が経過してから教えたのだが、それでも心配して、しぱらくは寝込んでいたのだ。
昨日、四年ぶりにアレルヤの顔を見た親猫は、不覚にも泣いてしまった。無事だと言われていても、不自由な拘束を受けて、身体とか精神は大丈夫だったのか? と、叫んで、ぼろぼろと涙を零してしまった親猫に、アレルヤも抱きついて謝った。心配してもらえたことが純粋に嬉しいと思えた。
「そら、当たり前だろ? せいぜい親孝行してやれよ? 」
「はい、このミッションが終わったら、休暇を四日ほど貰うので、その間に、ニールとゆっくりさせてもらいます。」
帰れる場所があるんだ、と、親猫が待っていたマンションで、そう気付いた。組織しかない以前とは違う。終わったら帰ってきていい場所があるっていうのが、嬉しいね、と、ハレルヤと言い合った。
「今日は初手はアレルヤで、途中からハレルヤにチェンジだ。エスコートは、おまえのほうがいいだろうからな。お客様が、ハレルヤを指名したら入れ替われ。」
悟浄が、アスランからの指示を伝えてくれた。着替えを、控え室でやっているティエリアのほうへ、アスランとキラは行っているのだ。
「エスコート? 」
「ああ、例のヤツだからな。」
ウインクして控え室を親指で指し示している悟浄の背後から、「なんじゃ、こりゃーっっ?」 というニールの叫び声が聞こえてきた。
控え室で用意を始めた衣装に、ニールのほうは、あんぐり口を開けた。紫のエクステは、まあ、いいとしよう。問題は、深くスリットの入った深緋色のチャイナドレスと、ガータベルトとか女性用の下着とか、そういうものをキラが衣装箱から取り出したからだ。
「何を、そんなに驚くんですか? あなたは。」
それを身につけるティエリアは、いたって冷静だ。なんせ、一度やっているのだから、二度目となると下着のつける順番なんかもわかっている。
「おっおまえ、それ、女モノっっ。」
「わかっています。この間、潜入ミッションの時も、これをやったから慣れている。」
「おまえら、どんなミッションやってんだよ? 」
「マイスターは男だとバレているから、女装しただけだ。それより手伝う気がないなら出ていてください、ニール? 」
あたふたしている親猫に、ティエリアは笑いつつ、そう言葉を返す。四年前の自分ならやらなかったかもしれないから、まあ、その性格を知っている親猫が驚くのは当たり前だ。
「別に可愛いんだから、いいじゃない? 」
「天然電波は黙ってろっっ。」
「まあまあ、ママニャン。そう興奮しないで。確かに倒錯的でエロいけどさ。中身、ティエリアなんだからさ。」
「ハイネ、それ、フォローになってないぞ? お客様から、ぜひ、艶姿を、というリクエストなんです。耐えてください、ニール。」
アスランが取り成して、とりあえず、下着なんかは、ひとりで着替えてもらうから、ティエリアが隠れられるスペースへ移動する。
「うわぁーなんじゃ、こりゃーーっっ。」
どろりとした重さの肌色のブツを目にして、ニールが飛び退く。へらへらと笑いつつ、ハイネが、それを手にする。
「よくできてるだろ? 偽チチ。」
「それもつけるのか? 」
「もちろんだ。あんたには刺激的過ぎるから入室禁止。」
はい、さっさと着替えようぜ、と、ハイネが、その物体を手にして控え室の奥へ戻っていく。そこまで完璧に化けるミッションって・・・・と、驚きで言葉が出ない親猫だった。
準備が出来たと現れたマイスターふたりは完璧なカップルだった。エスコートするアレルヤも、されているティエリアもキレイでゴージャスで、これをリクエストしたオーナーとお客様の意図は、ニールにも理解できた。
「足、大丈夫? 」
「ああ、あまりヒールが高くないから歩ける。」
「やっぱりキレイだね、ティエリア。」
「きみも格好いい。ハレルヤはスタンバイしているのか? 」
「おお、バッチリだぜ? 女王様。」
歩くたびに深いスリットから覗く足も、なかなか扇情的だ。ひゅーと、悟浄が、口笛ではやし立てる。
「さあ、準備は完璧だな? そろそろ、お客様がいらっしゃる時間だから、全員、配置につけ。」
フロアーマネージャーの声で、全員が定位置に陣取る。食事は、すでに厨房で準備されているし、ピンクのシャンパンも冷やされている。シンとレイが出迎えるべく、来訪の見張りで外にいるし、マイスターふたりを中心にして、ホストたちは並んで立っている。ちなみに、ニールはトダカと一緒にカウンターの内側に陣取っている。
バタンと乱暴に扉が開いて、斥候役のレイが、「いらっしゃいました。」 と、声をかける。
「では、悟浄? 」
すいっと八戒が、悟浄に手を差し出す。玄関前でのお迎えが、このオシドリ夫夫の役目だ。もちろん、旦那もニヤニヤしつつ、その手を恭しく自分の手に迎え入れる。
「参りますか? 八戒さん。」
「ええ、盛大にいちゃついてお迎えしてほしいってことですから、盛大に。」
「はいはい、承りました。」
扉の前で、ふたりして腕を組んで、クルマから降りてくるお客様を見守っている。
「ようこそ、吉祥富貴へ、橘様。」
お誕生日おめでとうございます、橘様、さあ、お楽しみはこれからです。
作品名:こらぼでほすと あれはれはぴば 作家名:篠義