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有閑倶楽部

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接触*清⇔悠




「清四郎、どうかしたか?」


腕の中の悠理が見上げてくる。
全く、もう。
一応とはいえ、年ごろの女だと云う自覚があるのだろうか。こいつは。


「…悠理、あのですね、」

「っあ゙─────!!!!」


声を掛けようとした瞬間の悠理の絶叫。
目に入った画面を見てそれを察し、耳を塞ごうと悠理の手を包むようにしていた己の手を耳に当てた…が。一瞬だけ、当てるのが遅れた。
距離が近かっただけにそれは脳に響き、くらくらと軽い眩暈を引き起こす。


「お前サボったな!負けちまったじゃねーかぁ!」


悠理が躰の向きを変え、ぼくの胸ぐらを掴んでは激しく揺さ振る。
いい加減にして欲しい。視線を巡らせればくすくすと堪えきれない笑いを洩らす有閑倶楽部の面々。
思わず溜息を吐こうとしたのだが、悠理の両手に頭を挟み込まれてそれを呑み込んでしまった。


「せーいーしろー…あたいが何の為にお前に頭下げたと思ってるんだよー…」


どんよりとぼくを見上げる悠理の向こうのテレビ画面。勿論特大。
その画面の中で、可愛らしくデフォルメされた悪魔が地面に這いつくばるようにして悔しそうに地面を叩き、同じくデフォルメされた天使がその悪魔を踏み付けながら踊り狂っている。

剣菱系列のゲーム会社の新作ゲームらしいが、それが発売前に悠理へと贈られた。
最近流行りの脳トレの一種らしい、ゲーム。その中のパズルゲームをしていた悠理がどうしても勝てないとぼくに泣き付いたのが数分前。
立て膝にしたぼくの両足の間に躰を収めて、悠理が持つコントローラを悠理の手ごと構えさせられた。

…その態勢に、思うべきことはないのか。悠理。
そして何も云うことはないのか、と魅録たちに視線で問い掛けながらも云われるがままにパズルを解いていった。


「元々ぼくはやるつもりはありませんでしたよ。悠理が強引に、」

「別にいいじゃん!これっくらい!」

「…悠理。ならせめて、どうしてこんな態勢でなければならなかったのかを教えてください。」

「…え‥」

「仮にも、そう、お前も一応年ごろの女性の筈でしょう。えぇ、全くそうは見えませんが。」

「どっ!どんだけ失礼だよっお前ぇ!」


悠理の非難の声に、眉が寄る。
いいや、いいや、悪い意味じゃない。
…いいや。悪い意味かも知れない。
悠理が女らしく、なんて、そう、なって欲しくない。


「ぇ…?」

「なんだよそのえってのはっ?」

「清四郎、いくらなんでも失礼ですわよ。」


野梨子の嗜める声が聞こえた。
しかしその意味は頭に入らず、ぼくは呆然と近い位置にある悠理の顔を見つめる。
綺麗な、整った容貌だ。
大人しくしてさえいればその美貌は同性だけでなく異性ですら惹き付けるだろう。
そんな悠理がもし、女らしくなったら。なってしまうのが嫌、なんて。


「…清四郎…?」

「悠理……」


愕然と、した。
悠理が女らしくなるのが嫌なのは、まさか。
お前に言い寄る人間…強いて云えば男が増えるのが嫌だから?
もっと直接的に云うのならば、こういうこと…?


「ぼく、が…お前が好き、だから?」


一瞬、自分が何を云ったのかわからなかった。
いいや、自失してさえいなければ、こんな失言はしない。
目の前の悠理はその綺麗な水晶が零れ落ちそうになるくらいに目を見開いて。
一時、部屋の中がシンとした。


「は、は、…はあぁああ?!」

「いえ、違います。今のは言葉のあゃ……いえ、好きですよ。悠理。お前も、野梨子も魅録も可憐も美童も。」

「あーら、取って付けたように名前ありがと。」


可憐が興味津々と云った様子でぼくの方へ身を乗り出す。
その向こうでは美童がニヤニヤと締まりのない顔をしていて、野梨子と魅録は、顔を逸らしているが堪えきれない笑いを洩らしているのが丸分かりなほど、肩が震えている。


「悠理、まさか本気には、」

「せ、せ、せーしろーの、ばかたれええぇっっっ!!!!!」


不意打ち。火事場の馬鹿力とは云いますが。
元よりすばしこい悠理の更に倍速を加えた平手が、ぼくの頬を打った。
よく響くいい音を鼓膜に叩きつけられながら、ぼくはまたもくらくらする頭を支えるように額を抑えた。
そんなこんなをしているうちに、悠理は何処へ。部屋から飛び出して行ってしまったし。
部屋には爆笑する美童と可憐、魅録。そこまではいかなくとも笑いを堪えなくなった野梨子の声が響き渡った。

ぱち、と人差し指だけを使ってコントローラのボタンを押すと、黒い画面に悪魔がこちらを睨み付ける。
コンティニューと表示され始まるカウントダウンを断ち切って、ぼくも立ち上がった。


作品名:有閑倶楽部 作家名:桜榮春哉