たまにはこんな、
反転させられて臨也さんの正面に立つことになっても、とても顔が見られる状況じゃない。両肩を押さえられて抵抗なんてできなくて、ただうつむいてぎゅっと目を瞑っていた僕の口元を、
臨也さんの唇が、浚っていった。
「え…、いざ、や、さ…」
「誕生日、おめでとう。この日生まれてきてくれて、君と出会えた。そう考えると池袋という街にも感謝しないといけないかな」
まるで流行りのドラマみたいな、可愛い女の子にするようなキス。それでも彼が僕を女の子扱いしたわけじゃないってことはわかってる。
ああ、顔がいいのってずるい。こんな時にまで、
恰好いいのは黙ってるときだけだって、思ってたはずなのに。こんな風に扱われたらとてもじゃないけどそんなこと言えない。
他の誰でもなく、この人に祝ってもらいたかったのは僕の方なのに。誕生日だからということを理由にして、甘やかしてもらえると打算的だったのは僕のほうだったのに。なんでもないことみたいに臨也さんは全部掬いとって、自分が会いたかったからだと笑うんだ。
それ自体、僕は相当甘やかされているんだ。
そのことが、どんなプレゼントより価値があるように思えて、僕は珍しく、自分からそのまま彼の胸の中に顔を埋めた。
「でも何が良かったのかなあ…、正直帝人君にカッコいいと思ってもらえるような要素って…、あ、メガネか。メガネ萌なの?じゃあせっかくだしメガネプレイとかしちゃう?お医者さんごっことか、あーでもナースにするか患者さんにするかで迷…」
「すいませんやっぱり黙ってもらっていいですか」
僕の背中に回される暖かい腕と、その台詞との温度差に肩を落としながら、本当はこういう言い回しも含めて全部臨也さんなんだってわかってる。そして、そういう厄介な相手を好きになったのも自分なんだってことを痛感しつつ、
その日彼の腕の中で、僕はひとつ年をとった。