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のび出木

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僕が戸を開けた時には既に室内は騒がしく、ほとんどが出来上がっている状態だった。
小学校の同窓会に出席するのはこれが初めてだ。
最後に会ったのは10年近く前だ。誰が誰だか分からない程変わっている。
一人でも面影のある者は居ないかと辺りを見回していると聞き覚えのある声が聞こえた。
「のび太さん?」
当時学校のアイドル的存在だった人物が嬉しそうに駆け寄ってきた。しずかちゃんだ。

「しずかちゃん!」

「わあ、びっくりした!すっかりかっこよくなっちゃて、最初誰だか気がつかなかったわぁ!」

しずかちゃんは僕の両手を掴むと少し頬を赤らめながら笑った。
大人になったしずかちゃんは本当に可愛かった。伸びた髪にはパーマネントがかけられ、化粧もちゃんとしていた。やはりそれなりに色っぽくなっている。ドラえもんに見せられた未来よりもずっと可愛くなっていた。
こんな可愛い姿を見るとあの時見せられた未来とやらはどうなったんだろう、と疑問に思う。とうに結婚する年齢は過ぎているのにそんな兆しは全くない。ドラえもんが見せた幻想に過ぎなかったのだろう。ちょっと残念だ、

「しずかちゃんも綺麗になっててドキドキしたよ!」

「いやだあ、のび太さんったら!ね、よかったらこっちで飲まない?」
僕の腕を掴んで軽く引っ張るしずかちゃんの提案に曖昧な返事をしつつ、周囲を見回すと隅の席に座りビールを注ぎたがって群がる女性陣に少し困った様子で愛想を振り撒いている人物が目に止まった。
「ありがとう、後でね」
僕はしずかちゃんの提案を笑顔で断り、その人物の元へと向かった。

この端正な顔立ちの人物が誰であるか当てる自信はあった。
長いまつげ、大きくてまっすぐな瞳、筋の通った鼻、薄くて形の良い唇・・・
群がる女性陣の間を軽く会釈をしながら通り抜け彼の元へとたどり着く。
「出木杉くん、だよね?」
その人物が僕を見た。
15年前の面影を残した端正な顔立ちをした人物は、近くで見るととても魅力的だった。
彼のキョトンとした顔が僕を見つめる。僕はやれやれ、と眼鏡を外した。
「ああっ!のびくんか」
僕は頷いて眼鏡をかけ直し、微笑んだ。
群がっていた女性陣は僕が眼鏡を外した顔を見るや否やなーんだ、だののび太かよなどと言葉を吐き捨て各々散って行った。
「いやあ、久しぶりだなぁ!座って」
僕は出木杉くんに促されるまま彼の右隣の座布団に座った。
出木杉くんは空のコップに酒を注いで僕の方に差し出すと自分の方にも注ぎ足し、それを一息に飲み干すとぷはあ、と大きく息を吐いた。


「15年ぶり、かな」
僕はしみじみと思い出しているような表情を浮かべた出木杉くんの横顔をレンズ越しに見つめ、そこから視線を襟足から覗く白い項へと移した。手を伸ばしたくなる衝動を必死に抑えながら僕は注がれた酒を一口飲んだ。
「そう、だな…」
ふいに出木杉くんが僕を見て微笑んだ。知らないうちに舐める様な目つきで出木杉くんを見ていた僕はすぐに目を逸らし、話題を変えた。
のび君、すごいなあ。よくすぐに俺だって分かったね」
「すごく面影が残ってたよ。目が変わってなかった。でも昔よりずっと、」
僕は言い終える前に口をつぐんだ。頬を赤くした出木杉くんがあからさまに僕から顔を背けた。
「あっ!今何してるの?」
「地方公務員だよ。のび君は?」
「T企業でリーマンしてるよ」
「T企業だなんて、すごいなぁ!のび君。」
当時、容姿端麗・成績優秀・スポーツ万能の才色兼備、おまけにクールだった出木杉くんは男子からは少し近寄りがたいというかあまり好印象は抱かれていなかったが、今の彼は多少シャイではあるが酒が入ったこともあってか以前より社交的で話しやすく思えた。
そのあと僕たちはあの頃のクラス行事やクラスメイトのこと、現在のスネオとジャイアンのことなどたくさんの話題で盛り上がった。
しかし二人の脳裏に真っ先に浮かんでくるであろう出来事は決して話題には出さなかった。
それを意図的に避けているかのように、会話の由緒由緒でふと断片的に浮かびあがってくるその場面を必死でかき消すかのように口をつぐむことなく、話のネタが途切れそうになった時にはそういえば、と全く興味のない株や趣味でもない釣りの話を持ち出すなど、ただ喋り続けた。
子供の頃に犯した過ちというのは忘れたくとも何故か忘れられないものだ。しかし、あれは過ちと言えるのだろうか。

作品名:のび出木 作家名:だが