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こらぼでほすと 拾得物1

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全部が終わった空間というのは寂しいものだ。ぽつんと浮いている物体は、15キロもの長さのある大きなものだが、その傍の月が、さらに大きいから小さくしか見えない。その物体に、するりと入ってきた青い機体は、停止した。そこから、人間が出て、主要部分へと入る。

 そこには、浮かんだままの死体があって、それを横目にして、人間は大声を張り上げる。
「ティエリアッッ、ティエリアッッ、聞こえてるんでしょ? 出てきてっっ。」
 ヴェーダ本体でまどろんでいたティエリアの意識は、それで覚醒する。機械の目で確認できるのは、生体反応だが、乗ってきた機体で、誰だかはわかった。機体は、ストライクフリーダムという先の大戦で活躍した機体だった。
「何ごとだ? キラ。」
「何、悠長なこと言ってるの? 地球へ降りるから準備して。」
「無理だ。俺は、ヴェーダと同化している。」
「無理じゃない。これ、修復して使うとか、新しい容れ物を用意すれば、いいことじゃない。だいたい、なんで、そんなに落ち着いてるの? もう、ほんと、忘れっぽいんだからっっ。」
 ぷんぷんと怒って、元ティエリアだった身体を、指差しているキラは、ティエリアはボケてるとか叫んでいるわけで、なんで、そんなこと言われなきゃならないんだ、と、ティエリアも言い返す。
「だって、ママのこと、忘れてるじゃないっっ。ティエリアがヴェーダになりましたって、僕は報告しないからね。死んじゃったって報告するよ? それでもいいの? 」

 その言葉に、ティエリアも詰まった。無事な姿を拝ませないと、ニールが、どうなるか忘れていたからだ。生きた心地がしない一年を過ごして、帰らないなんて報告されたら、ちょっとまずい。アレルヤをロストしただけで、三ヶ月も寝込んだのだ。今度は、もっと重症になるだろう。

「そちらのシステムとリンクすれば、声だけは届けられる。」
「そんなもので安心するわけないでしょ? 僕らが、宇宙へ上がる段階で、眠りクスリ飲んでたもんっっ。」

 つまり、その段階で、すでに不眠気味だったということだから、ティエリアも、マズイと思う。

「だが、キラ。その身体は、脳を撃ち抜かれているから再生は無理だ。」
「ヴェーダには、培養システムがあるはずだよ? それで素体を作れば、どうにかなるはずだ。ティエリアだって、そうやって作られているはずだから、そのデータがある。とりあえず、二ヶ月あげるから、どうにかして。」

 キラの説明で、ティエリアも気付いた。自分たちイノベイドは、ヴェーダによって創り出された存在だ。おそらく、その培養システムや、素体なんかも、この大きな施設のどこかにはあるはずだからだ。そこまでの走査はティエリアもやっていなかった。

 それまで、忙しすぎて、帰る場所のことを忘れていたのに、苦笑するしかない。ずっと、待っていてくれた相手を忘れるほど、戦闘が激しかったということでもある。

「ニールは・・・この戦いのことは? 」
「ある程度は知ってる。・・・・・ラボでバックアップを担当してもらってるからね。」

 なんでもいいから手伝わせろ、と、言うので、バックアップ要員を担当してもらっている。今回は、MS組が、総出で上がったから、地上でのバックアップが必要になったのだ。ただし、細かい情報は拾えないようにしてあるから、マイスターたちが負傷したということは知られていない。

「それからね、ティエリア。ヴェーダちゃんは、月に隠すから推進力のデータを送ってくれる? クサナギとエターナルで牽引するから。」

 さすがに、裏側とはいえ、こんなでかいものは目立って仕方ない。月に下ろして隠さないと、どこから攻撃されるか、わかったものではないからだ。

「すぐに、送る。キラ、刹那たちは無事か? 」
「うん、エターナルへ収用したよ。治療は始まってるから安心して。」

 戦闘が終結した途端に、隠蔽皮膜を纏ったMSたちが、マイスターの機体は回収した。ついでに、あのうっとおしい特攻いくら部隊も壊滅させておいた。いちいち動かれたら厄介だ。

 トレミーは、かなり被弾はしたが、どうにか動いていることは、ティエリアも確認していた。キラたちがMSは太陽炉を切り離し、そちらは、トレミーへ戻して、中身のマイスターは、エターナルへ回収している。トレミーは、すでに組織のドックへ向けて航行を開始している。

 迅速に、事を運ばないと、連合の残った艦隊に追跡されかねないから、急げ、と、虎たちがフォローして逃した。共闘は、対イノベイドだから、それが終われば敵同士に戻るからだ。

「ティエリア、二ヶ月だからね? 二ヶ月したら、迎えに来るから、どんな姿でもいいから人間の器になっててね。」
「わかった。どうにかしておく。」

 これ、いらないなら、月に埋めよう、と、キラが、元ティエリアの身体を掴んで、機体へと戻ろうとするので、ティエリアが止めた。

「待ってくれ、キラ。それは置いておいてくれ。もし、素体がなかったら、そこから培養する。」
「ああ、そうか。わかった。じゃあ、またね。」

 青い機体が、ヴェーダから離れると同時に、クサナギとエターナルからの情報が流れ込んでくる。元々、ヴェーダが設置されていた場所へ移動させて固定するつもりで、戦艦を持ってきたのだ。

「まず、ヴェーダが収まる程度のクレーターを作る。そこへ、ヴェーダを置く。後は、隠蔽皮膜と電波妨害で隠す。」

 虎からの指示は、わかりやすい。戦艦の砲撃でクレーターを作って、そこへ隠すということらしい。まあ、それが妥当だろう、と、ティエリアも、こちらの推進力や構造についてのデータは送った。ひとまず隠して、連邦に知られたくないものは隠蔽工作をさせる。どう考えても、これだけ巨大なものは隠せるものではないから、いずれ発見されて、新しい連邦に接収されるだろう。だが、全てを引き渡す必要はない。隠さなければならないデータや施設は、この間に隠すように、虎から指示が出る。

・・・・・そうか、俺には帰らないといけない場所があるんだな・・・・・

 しみじみと、それを考えて、それから、アレルヤと約束したことも思いだした。全部終わったら、地上で、のんびりしようと、約束していた。やりたいことを探して、働いてみようとも。だから、戻らなければならない。

 ここで、ヴェーダの一部になって、まどろんでいるのは、ずっと先のことになりそうだ。





 『吉祥富貴』は、ただいま営業休止中だ。これだけ、大掛かりになってくると、片手間というわけにはいかない。オーヴからも、クサナギを借り出すほどとなると、MS組は、全員、宇宙へ上がるなんてことになってくる。とはいえ、地上でも、情報収集やらオーヴやプラントとの連携の確認やら、いろいろと雑用はあるので、ラボのほうに、残りは詰めていることになる。

「どうやら、終わったな。」

 エターナルからの通信を受けて、やれやれ、と、トダカは息を吐いた。とりあえず、マイスターたちは拾ったし、トレミーも逃がした。後は、時間との戦いではないから、のんびりしたものだ。

「クサナギは、そのまま演習地域のデブリへ向かうそうです。エターナルのほうは、プラントです。」
作品名:こらぼでほすと 拾得物1 作家名:篠義