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恋する乙女 ―二人の再会―

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「では、よろしくお願いします!」
咲はクライアントに一例して、ビルの外へ出た。今日は「新・東のエデン」のサイトを活用した「ふるさとプロジェクト」を協賛してくれるクライアントへのプレゼンだった。ちょっと緊張したが、実際のサイトを見せながらのプレゼンは順調にいき、クライアントの反応も上々だった。明日には正式な返事がもらえるということで、予想以上に上手くいったと、咲はにっこりした。自分も、平澤くんたちのプロジェクトの一員としてそれなりの役割を果たしている。半年前の自分からは想像できないような、充実感に満たされた毎日だった。


そう、半年前。
自分が滝沢君とであった半年前。そして、滝沢君が再び消えた半年前。
でも、「待ってる」って決めたから。滝沢君も、「絶対戻ってくる」って約束してくれたから。それに・・・滝沢君も自分のやるべきことのために今戦っているはず。
だから、私は私のできること、やるべきことをやるんだ。
この「ふるさとプロジェクト」には、豊洲に集まったニートたちも多く参加していて、彼らのそれぞれのふるさとの物産品を全国ネットで販売するために、色々知恵を出してくれる。時々びっくりするような、すごいアイディアを出す人もいて、咲は彼らのポテンシャルのすごさに毎日のように感心していた。


「あいつらは一列につないでやれば、ものすごいポテンシャルを発揮するんだ」
滝沢くんもそう言っていたっけ。

滝沢くんという存在が一種の触媒のように、咲や、平澤くんや、エデンの仲間たちや、ニートたちに、いろいろな変化を引き起こして、息が止まりそうだった時間が前へ、前へと動き出した。でも、その代わりに、滝沢くん自身はいろいろな意味で犠牲を払い、重荷を背負ったのだ。
そんな滝沢くんの重荷を無駄にしない、自分でいたい。滝沢くんが背負った重荷を彼がなるべく後悔しなくて済むように、この国の空気を変えるためのほんの小さな役割でもいいから担うことができたら。



「俺が全部背負ってやるよ。俺に任せて」
滝沢君はそう言ってくれたけど。咲は、彼への気持ちを自覚したときから、自分も一緒に戦っていく、進んでいくって決めたのだ。自分が、滝沢君を愛しているって自覚したときから。助けてもらうだけの存在じゃない。一緒に歩む存在でありたい。そう思うから。



心を決した咲はもう揺るがなかった。積極的にエデンプロジェクトに関わり、豊洲のニートたちとも仲良くなって、どうしたら、本当の自分たちのエデンの園を作れるのか、毎日真剣に話しあい、行動していた。滝沢くんがいないことはさみしいけれど、咲の毎日は笑いあり、涙あり、変化と希望に富んでいた。


そんな日々は咲の外見にも変化を与えた。もともとかわいい女の子って感じだったけれど、いまや22歳の社会人の女性として、しっとりとした落ち着きと、輝くようなオーラが加わっていた。内面の成長が外見にもストレートに反映されたって感じだ。
オネエたちは「愛よ!愛の力よ~!!」なんて、盛り上がっているけれど。

実際、豊洲に集まるニートたちの間でも、それに実はクライアントたちの間でも、咲はきれいだ、かわいい、と話題になっているのだ。でも、ニートたちの間では、滝沢と咲の仲は承知の事実でかつ伝説にまで昇華されているので、滝沢を恐れて咲に手を出そうなんて考えるヤツはいない。エデンの仲間の大杉は、さすがに、もう咲のことはあきらめていて、今はむしろ、滝沢が咲を不幸にしたら承知しないと、お人よしを上回る複雑な思いで二人の幸せを願っていた。しかし、クライアントたちの数人は、咲に熱い想いを抱えていたのである。当の咲はそんなことはまったく気づかず天然で。みんなに笑顔を振りまいている。



今も、白いコートを着て、信号待ちをしている咲は、まさに満開一歩手前のぼたんのように、やさしい輝きをまとっていた。

「ちょっとお茶してこうかな・・」

緊張がほぐれて一挙にのどが渇いた咲は、近くのカフェに入って、アイスティーを注文した。外が見える窓際の席に陣取り、アイスティーをぐっと飲む。

「お嬢さん、隣、あいてますか?」

「え?あ、はい・・」

隣の席に置いたバッグを自分の膝に乗せて、どうぞというために、声が聞こえた方へ顔を振り向けた。



そこに、彼がいた。

滝沢くんが、笑みをうかべて。

澄んだ瞳。でも、今は、ちょっと気恥ずかしげな瞳。黒いプルオーバーを着て、咲へ微笑んでいる。



「た・・たきざわくん!!」

再会のシーンを何度思いえがいたことだろう。滝沢くんがただいまっていって、咲は滝沢くんの腕に飛び込んで、二人はお互いを見詰め合って・・・。

でも、今、この全国チェーン店のカフェで、仕事帰りの咲の前に、突然彼は現れた。こんなところじゃ、彼に抱きつけないし、全然ドラマチックじゃないし・・・



咲の頭の中をそんな感情がぐるぐる回っているうちに、滝沢は咲の横の席に座った。

「咲、喜んでくれないわけ?せっかく咲のところに戻ってきたのに」

滝沢はちゃかすようにいって、咲の顔を覗き込む。

「だって、だって、急に、こんなところに表れて、びっくりして・・・それに、どうして、私がここにいるって・・・」

ぐちゃぐちゃいっている咲の肩を、滝沢はぐいっと横から抱き寄せて、唇を重ねた。

「!!」

すぐに唇を離して、滝沢はそっと咲の耳に告げた。



「ただいま、さ、き。」



その言葉を聞いたら、咲の目に急に涙が浮かんできた。

滝沢はそんな咲の顔を見つめて、あふれてきた彼女の涙を指でぬぐった。



ここがカフェの中だとか、みんな見ているんじゃないか、とか。あれやこれやが全部ふっとんで。咲は滝沢の首に両腕をしがみつかせた。

「滝沢くん・・・おかえりなさい。ホントに戻ってきてくれたんだね・・・」

「咲ったら、俺のこと、信じてなかったわけ?ヒドイなあ~」

咲の体を優しく抱きしめながら、冗談めかして彼は言った。

「だって・・・あれから半年もたっちゃって・・・」

咲はいいわけしながら滝沢の顔を見返して、ドキッとした。

滝沢の瞳がうるんでいたから。滝沢の瞳にも、涙がもりあがっていたから。

「滝沢くん・・・」

「ははは、咲、咲が俺のこと、待っていてくれて、ほっとしたよ」

「そんな、待ってるに決まってるよ!」

「俺のこと、ずっと信じてくれてた?」

「もちろん!そんなことわざわざ聞くほうがおかしいよ!」

咲はもう!と、滝沢の胸を軽く叩いた。



「すごく、きれいだから」

「え?」

「咲、すっごくきれいだから。本当は横断歩道のところで咲のこと見つけて、声かけようとしたんだ。エデンに行ったら咲はクアイアント先だって平澤に聞いて、帰り待っていられなくて、咲を迎えにきたんだ。それで歩道に立ってる咲をみつけて。声かけようとしたんだけど・・・咲が、なんか、すごく、きれいになってて・・・」

咲は自分の頬がかあっ~と熱くなるのを感じた。

「咲に声かけるのを一瞬ためらったんだ。もしかして、咲にとって俺はもうとっくに過去のオトコで。咲はもう別のヤツがいて・・・とか」

「ええっつ!!」