恋する乙女 ―二人の再会―
「それで、声かけそびれて、咲がここ入るの見て、思い切って声かけたんだ」
「なんだ、もっとはやく声かけてくれればいいのに!ずっと、ずっと、半年も待っていたのに!」
「うん・・・ゴメン。咲の涙みて、俺のこと待っててくれたってわかった」
滝沢は咲の肩を抱く手に力を入れた。
「うれしかった・・・」
「滝沢くん・・・」
滝沢が自分に再会できたことを、これほど喜んでくれている。そう思うと咲は再び涙がコボレそうになった。
「咲・・・」
「え?」
「もう1回、キスしていい?」
「そ・・・・そんな、でも、みんな、見てるよ、きっと・・・」
「うん、みんな、見てるんだ」
「えええっ!!!」
「だからこそ、さ」
そういって、滝沢は再び咲に唇を重ねた。今度のキスは呼吸が止まってしまいそうなくらい長かった。
そっと唇を離した後、にやっと笑うと、滝沢は唐突に椅子から降りて立ち上がった。そして片腕は咲にまわしたまま、空いたほうの腕をあげて
「はいはい、みなさ~ん!見物の時間、終わりで~す!」
びっくりした咲が周りを見わたすと、確かにカフェの店員も客もみんな、咲と滝沢に全視線を集中していた。
「!!!」
咲は顔が真っ赤になる。
「いくよ、咲!」
滝沢が咲の腕をひっぱって立たせた。そしてカフェの出口へといざなう。
「ごちそうさん!」
滝沢が店員にそういうと、その店員は「おしあわせに!」と返してきた。滝沢も「サンキュー!」と返す。
ますます赤面する咲をカフェの外に引っ張り出して、滝沢は咲に向き合った。
「マジ、咲、きれいになった。だから、誰かと恋してるのかなって思ったんだ。それくらい咲が輝いていたから」
「な、なに、いってるの!私が恋してるのは滝沢くんじゃない!」
「ホント?」
「もう!!いじわる!」
「ははは、咲がすごくきれいだったから、咲は渡さないよって、周りのヤツラに見せ付けたくなったんだ」
「えっ・・」
「咲。会いたかった・・・」
「滝沢くん・・・」
二人はお互いの顔を見つめあった。
「もし・・・私がきれいになったなら・・・・それは、滝沢くんのおかげだよ」
「俺の?」
「そう、滝沢くんに誇れるように、私は私でがんばってみようって。そう、この半年思って、いろいろ挑戦してきたの。滝沢くんだけに、孤独な戦いさせないように。私は私のできること、やろうって。」
「咲・・・」
「それに、恋するオトメはきれいになるっていうでしょ?私、滝沢くんに恋してるんだから、きれいにならなかったら、考えものだよ」
咲はちゃかして、そう言った。
「じゃあ、咲がきれいになったってことは、俺も貢献してるってこと?」
「もちろん!」
「すげっ~!俺の貢献度!」
二人は見詰め合ったまま笑った。
「咲、いろいろ、話したいことあるんだ。それに咲の半年間のこともききたい。教えて?」
「うん、もちろん。私も滝沢くんに話したいこと、いっぱいあるんだ」
「じゃあ・・・」
滝沢は咲をもう一度ぎゅっと抱きしめていった。
「今日、帰さなくていい?あのレイトショーの夜みたいに。いっしょにいよう?」
一瞬、ためらったあと、咲は言った。
「うん・・・でも、今度は途中で消えないでね?」
「消えるわけないさ。たくさん、たくさん、あるんだよ、咲に話したいこと、聞きたいこと・・・」
「うん・・・」
二人は、視線を絡ませて、暮れていく今日のことを思った。
今日はずっと一緒にいる。
俺と咲。
滝沢くんと私。
離れていた半年間を埋めるために、別々に流れていた時間を一つにするために。
二人はできる限り、その距離を縮めるんだ。
心も。
何もかも、すべて。
作品名:恋する乙女 ―二人の再会― 作家名:なつの