こらぼでほすと 拾得物2
「ああ、そこに行く前に、やっとかなきゃいけないことがあるんだ。」
場所を聞いた虎は、ああ、と、納得した。家族に報告するんだろうと思ったからだ。それなら、それでいいだろう。プライベートな用件に首を突っ込む必要はない、と、ダコスタに手配を頼んだ。
お寺では、刹那が草むしり作業をやっている。ちまちまと玉砂利の間に生える草は小さいうちに抜かないと、どんどん増殖する。それらを、ちまちまと抜くのが、刹那の、ここにいる時の日課みたいになっている。そこへ携帯に着信した。相手は、アスランだ。
「刹那、現ロックオンが降りてくる。」
「ああ。」
迎えに行けということだろうと思っていたら、アスランは違うことを言い出した。
「こちらに来る前に、アイルランドへ寄って来るらしいんだ。」
「そうか。」
墓参りでもするんだろう、と、刹那も考えた。ディランディさんちは、とてもマメな性格の血筋らしくて、墓参りを、きちんとする。なんせ、親猫は自分が行けないから、と、刹那やティエリアに代わりに行かせていたほどだ。だから、驚きはしない。
「俺な、イヤな予感がするんだ。」
「なんだ? アスラン。」
「ロックオンさ、ニールのこと知らないだろ? だから、書き込みしないか、と。」
刹那は、そういうことに詳しくないから、アスランが気になったことを説明した。墓碑銘というのは、家族単位の墓なんかだと、亡くなったら付け足していくもので、現ロックオンは、先代ロックオンは死んだと思っているから、書き込みするんじゃないか? と、いうことだ。
「ニールは気にしないと思うけど、それでも、自分の名前が刻まれるなんていうのは、気分のいいものじゃないだろ? だから、連絡つけておいたほうがいいと思うよ? 刹那。」
あのアホならやりかねん、と、刹那も思う。ていうか、まず、俺に逢いに来いと言いたい。慌てて、携帯から連絡したが、まだ、地上ではなかったのか繋がらない。
再度、夜中に時差を無視して連絡したら、ようやく出た。だが、アホなのに手が早い現ロックオンは、すでに、やっちゃった後だった。トレインの待ち時間に、軌道衛星から手配してしまったらしい。
「うん、兄さんの名前は刻んで貰った。それから、アニュのは、うちのとなりに建てて貰うように手配した。」
分りあえた相手だったから、その死は悼みたいと、ロックオンは言う。どうにもならなかったし、その八つ当たりは刹那に存分にぶつけた。刹那を憎いとは思わない。なんせ、八個も年下のクセに、ロックオンを慰めてくれたのは、刹那だったからだ。わかっていたのだ。ロックオンは殺せなくて殺されるということを。だから、代わりに殺してくれたのだから。アニュの墓を作るということは、その存在を忘れないということだ。それについては、刹那も何も言わない。ただ、問題は、それではない。
「・・・・ライル、その・・・ニールのは取り消せ。」
「え? だって。」
「いいから、取り消せ。アニュのは構わないが、ニールはやめてくれ。」
「もう刻んだから無理だよ。何言ってんの? もちろん、兄さんもアニュも、そこには何もないけどさ。でも、こういうのは必要なことだから。」
「そうじゃない。・・・・ニールは生きてるから取り消せ。」
「はあ? さらに、何を嘘を? 最初に刹那が言ったんだろ? 兄さんは死んだって。それに、刹那に逢う前に、ものすごい数字の振込とクルマが送られて来て、なんとなく、俺も、そうじゃないかと思ってたよ。」
刹那が勧誘に来る前に、所在不明の兄から、クルマの鍵が送られてきて、さらに、クルマ本体の譲渡契約書だの、ものすごい高額の振込だのと、立て続けにあったから、何ごとか遭ったとは、ロックオンも思っていたのだ。だから、刹那の言葉が、すんなり納得できたのだ。
「ライル、ニールは生きてるんだ。」
「なんのフェイクだよ? それは。もういいよ。」
で、バカなので、信じたことは覆らないらしい。現物を目の前にさせないと、どうにもならないのか、と、刹那も諦めた。
「じゃあ、さっさと墓参りしたら、こっちに来い。」
「え? 俺に逢いたい? 」
「ああ、存分に可愛がってやるから、戻って来いっっ。」
「うわぁーい、刹那が、そんな積極的なんて嬉しすぎっっ。うんうん、お墓参りしたら、すぐに特区に行くから。・・・・浮気すんなよ? 」
「されたくなかったら、さっさと来い。」
「オッケー。」
大喜びしているライルに頭痛を感じつつ、刹那が連絡を切る。確実に、名前は刻まれてしまった。これは、先に言っておかないと、ニールが、あちらに行くことになったら、びっくりするだろう。どうして、ああアホなんだろう、と、刹那は親猫の許へ戻りつつ溜息を吐く。同じ顔なのに、そういう部分が、まったく違うのだ。
作品名:こらぼでほすと 拾得物2 作家名:篠義