こらぼでほすと 拾得物2
もちろん、ニールも、それを理解した上で返答している。自分は地上からの支援しかできないが、好きにやってこい、応援する、とも言っている。
「やっぱり、あんたは俺のおかんだ。」
「おかんじゃなくてもわかるよ。」
二人して微笑んで頷く。帰る場所があるのだと、刹那は思う。帰りたいという気持ちが、目の前の山を乗り越える原動力になる。約束を守って親猫は、ここで待って居てくれた。これからも、約束は守ってくれるだろう。
「てか、俺はライルに逢うのが、すっげぇー億劫だ。もう死んだことにしとかないか? 刹那くん。」
「無茶を言うな。騙すと言ったのは、あんただろ? それについては、俺も一緒に謝ってやるから。」
「うん、そうなんだよなあ。」
刹那がオムライスを粗方片付けた頃に立ち上がって、コーヒーサーバーに用意していたコーヒーと、冷蔵庫からデザートの果物を取り出して置く。この数年で、コーヒーや紅茶の味を、刹那も分るようになった。親猫が好んで容れるのは爽やかな酸味のブルーマウンテンやトアルコトラジャという豆だ。その香りは、あっさりしているので、それだけで、そうだと判別がつく。
「リンゴじゃないのか? 」
ただ、いつもと違っていたのは、デザートが、オレンジやキュウイフルーツ、パッションフルーツという南国の果物だったことだ。
「使いすぎて種切れした。アップルパイを焼いたんだ。それは明日な。」
歌姫と、暇つぶしにお菓子作りをしていたので、いろいろと作っていたら、そういうことになった、と、説明した。まあ、これらも、明日、刹那の無事生還記念パーティーパートワンのために用意していた。今夜だけは、ふたりっきりにしてさしあげますが、明日からは、黒猫はもみくちゃにしますからね、と、歌姫から宣言されている。降りてくるマイスターたち全員に、これをやるつもりらしい。
「ニール。」
「ん? 」
「りんごじゃなくていいんだ。オムライスも。」
「くくくくく・・・・お子ちゃまメニューは卒業か? 」
「卒業も何も、あんたが作るから俺は食べてるだけだ。」
まあ、そういうことなのだ。ニールが作ってくれるものは、大概が刹那の口に合わせているわけだから、どれでもおいしい。だから、ついついがつがつ食べてしまう。五年前は、ホワイトソースのオムライスが気に入っていたのは事実だが、それだって、刹那が食べるから、と、ニールが、度々作っていただけだったりする。
「はいはい、それじゃあ、次回からは大人メニューにしてやるよ。」
「まったくだ。・・・・・風呂上りに飲まないか? ニール。今日は、どれだけでも付き合うし介抱もしてやる。」
「それいいな。ようやく、ゆっくりと飲めるな。」
全部終わったら、何にも気遣うこともなく、ゆっくりと酒を飲もうと、半年ほど前に約束した。全部終わったわけではないが、今すぐに心気遣うものはない。これといって報告すべきことがあるわけじゃないし、刹那は無口だから、本当に飲むだけなのだが、これが一番、ニールには嬉しい。思いっきり油断している刹那を拝めるというのは平和だからだ。
黒猫生還パーティーパートワンは、盛大に催された。それから、二日ほど、別荘でのんびりして、寺へ戻ってきた。悟空が、「全員揃うまで、うちでいいじゃん。」 と、誘ったからだ。まあ、これといって用事があるわけでもないから、親子猫も、そちらに戻った。こちらでも、三蔵たちの世話をするぐらいのことだから、のんびりしたものだ。境内で、トレーニングしている黒猫に、親猫が声をかける。
「また、花見を逃したな? 刹那。」
どういう巡り会わせなのか、桜の季節に刹那が戻ったことはないのだ。境内には見事な桜の木があって、満開の時期に花見をする。ニールは、二年ほど前から参加しているが、いつも、その満開の桜を見せたいと思っていた。
「来年は、どうにかなるだろう。」
黒猫にしたら、花なんか食えないじゃないか、とか、思っているので、こんな返答をする。情緒という部分で、かなり大雑把だ。まだ、若いから、その部分を、どうにかしなくちゃ、と、その黒猫を眺めつつ、親猫は考えていたりする。いや、実際、その大雑把のお陰で、とんでもないのと結婚したわけだから、手遅れだったとわかるのは、まもなくのことだ。
さて、プラントのドックで待機しているエターナルでは、刹那たちから遅れること十日で、ようやく、現ロックオンも医療ポッドから出てきた。
しかし、マイスターはいない。というか、ここは、どこ? 状態だ。ポッドが開いたという連絡に虎が駆け付けた。虎とも、ほとんど面識のないロックオンにしたら、誰? 状態だ。
「ティエリア、すまんが、ロックオンに事情を説明してくれないか? 」
連絡がつけられる現ヴェーダなティエリアに、その辺りを説明して貰うことにした。パネルにティエリアの姿を写すぐらいは、朝飯前だ。
「ティエリア、あんたも無事か。あのさ、ここ、どこ? ってか、俺は捕虜かなんか? あああーーーそれより、俺のダーリンは無事か?」
「ロックオン、落ち着け。今から説明してやる。」
こいつ、本当にニールの弟か? と、ティエリアは、騒々しいロックオンを諌めて、これまでの経過について説明する。それを聞いて、えーーーと、ロックオンは口を尖らせる。
「ちょっと、それ、ひどくないか? いくら、地上に用事があったからって、普通は俺を待っててくれるもんだろ? 」
「おまえより大切な用件だから、刹那が悪いわけじゃない。・・・・以前、特別ミッションで行った『吉祥富貴』のほうに刹那は居るから、おまえも、そちらへ合流しろ。俺は、もう少しかかると伝えておいてくれ。」
「え? トレミーへ戻らなくていいのか? 」
普通、組織の建て直しとか、いろいろと事後処理があるはずだ。それが、地上に降りろ、とは、どういうことだ? と、ロックオンも反論する。
「実行部隊は、休養していいと指示が出ている。別に、おまえが働きたいというなら、組織へ戻ってもいいぞ? 」
「あ、いや、ごめん。うそ。刹那んとこへ降りる。」
「じゃあ、伝言は頼んだぞ。」
確かに、組織のロックオン・ストラトスとして生きて行くことに腹は座ったが、別に、勤勉になるつもりはない。それに、何より、愛しのダーリンの顔が見たいわけだから、ロックオンも、ティエリアの言いように頷いた。
・・・・あ、でも、やっとくことはあるな・・・・・
地上へ降りるなら、先に済ませておくことがある。カタロンが、どうなっているかも気になるし、クラウスが無事だったのかも、だ。
・・・・・カタロンのほうに連絡しないとな。それから・・・・・
広かる風景を思い出して、ちょっと笑った。そこに、いるわけではないのだが、報告するなら、そこだろうと思った。
「これで誤解は解けたか? ロックオン。」
連絡が終わってから、虎が声をかける。本当に、よく似た双子だな、と、虎でも感心するくらいに似ている。
「ああ、それで地上に降りる手配とかは、してもらえるのかな? 」
「もちろんだ。」
「じゃあ、先に降りたいところがあるんで、そこへ。」
「特区じゃないのか? 」
作品名:こらぼでほすと 拾得物2 作家名:篠義