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魔王と妃のその後の話

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 そんな事を小声で言ってくるラハールさんが、何だか可愛くて、愛おしかった。

 ユイエの花畑に対してあまり反応が無くて、不安になってお気に召しませんでしたか?とおずおずと尋ねたら、
『…いや、まぁ、なんだ…。………きれいだ、な』
 言いにくそうに、もごもごと。
 それでもそう言ってくれた事が、嬉しかった。

 ………そして。
『ハーッハッハッハ!!残念だったな天使共!!こいつは、オレ様の味方だ。これから一生、死ぬまで…いや、死んでもな!!』
 そんな宣言と。
『そうであろう、フロン?』
 瞳をしっかりと合わせて、いつもの自信たっぷりの、そしてどこか無邪気な笑みで。
『この先、オレ様から離れる事は許さんぞ!!』
 命令調のくせに、威圧感なんて無い、子供の様な物言いで。
 わたしを抱いたまま、自分も離さないって、言ってるみたいに。
 それが、とても、とても。
 嬉しくて。

 ………でも。
 ラハールさんのあの言葉の後、一斉に、天使達が口々に、穢れるとか、その手を離せとか言い出して。
 そんなブーイングに怒るより先に、きょとん、として。
『………穢れるだと?馬鹿か、貴様等は。フロンが穢れる訳なかろう。オレ様の天使だぞ?』
 当たり前みたいに。
 そんな事を言って、皆を絶句させたのは………。
 わたしも真っ赤になって、声も出なかったのだけれど。
 ………何を言ったのか、絶対わかってないんだろうなぁ………。



 ………因みに。
 ラハールの自覚の無いこういう発言の数々が、天使達に受け入れられている一因だったりする事を、ラハールは知る由も無い。






 その後。
「天界の皆も、その映像は見ているよ。フロンの晴れ姿だからね。でも、天界でもう一度式を挙げるのもいいかもしれないね。二次会という事で」
「待て。色々と待て」
 天界への何度目かの訪問の折、ラミントンの発言に汗ジトになるラハールの姿があった。
「大天使様、いつの間に………」
 フロンも目を瞬かせながら驚いているが、ラハールとは微妙にポイントがズレている。
 と言うより、全体的に突っ込みたいラハールである。
 しかし突っ込んだ所でスルーされるのがオチだろうと、
「………貴様は本当に食えん奴だ」
 いつかの台詞を口にするにとどめた。
「幸せそうな二人の姿を見て、心和まない者はそういませんよ」
「…そういえば、最近は何だかにこにこして見てるひとが多かったですね?」
 いずれも穏やかな空気を纏い、見守る様な雰囲気で。
「若い二人を祝福しているのですね!!素晴らしい事です!!」
「いつ来た貴様っ!?」
 いつの間にやらその場にいたバイアスのテンションの高い声に、思わずラハールが突っ込んだ。
「次はエトナやプリニー達も連れて来ればいかがです?徐々に人数を増やしていくのもいいと思いますよ」
「仕切るなっ!!…全く、こいつらは…」
 呆れた様に溜息を吐くラハールに、フロンが笑い掛ける。
「ふふっ、いいじゃないですか。さ、行きましょう、ラハールさん」
「………うむ」
 諦めた様に息を一つ吐き、ラハールが頷いた。
「それでは大天使様、バイアスさん、行って来ますね」
「ああ、ゆっくりしておいで」
「ちゃんとエスコートするんですよー」
「やかましいっ!!」
 寄り添い合って歩いていく二人の姿を見送って、ラミントンとバイアスはそれぞれに口を開く。
「………やっぱり天界で式、挙げませんか?盛大に」
「………生で見れなかったからって悔しがりすぎですよ。まぁ、ラハールの晴れ姿でもありますからね。私としては反対する気はありませんが」
 そして、にっこりと笑い合う。
 完全にやる気だ。
 ………結局の所、大天使も元魔王も、フロンとラハールが可愛いだけなのかもしれない。




 ユイエの咲き誇る花畑にて。
「…お前は本当にここが好きだな」
「はいっ!!………ラハールさんは、お嫌いですか?」
「む…まぁ、そんな事も無い」
「よかった」
 ふわり、と微笑んで、花を潰さない様に柔らかく座る。
「はい、どうぞ」
「………うむ」
 少しばかり照れ臭そうにしながらも、促されるままに。
 フロンの膝に頭を乗せ、ふ、と安心した様に息を吐く。
 最近では恒例となったこの膝枕は、ラハールにとって随分と落ち着くものだった。
 初めは羞恥心やら何やらで大変だったのだが、これをするのは決まって仕事に疲れた時だったりで。
 こちらの身を案じているが故の行為だと理解してしまえば、無下にできる訳も無く。
「最近、お仕事ばかりでお疲れじゃないですか?」
「………まぁ、な。つまらん書類が多くて困る」
「でも、中には必要なものもありますから…」
「わかっておる。何せオレ様は魔王だからな。魔界にいる奴等の動向は把握しておく必要がある」
「皆さんの事をちゃんと見て、考えてるって事ですね」
「ふん、オレ様に逆らう奴が出てこない様に、目を光らせているだけだ。まぁ、そんな奴が出てきても、オレ様がねじ伏せてやるがな」
「暴力はいけませんよー」
 フロンは穏やかに微笑みながら、ラハールの髪を撫でて。
 ラハールはフロンの手の優しく心地好い感触に浸りながら。
 ユイエの優しく甘い香りの中、そんな会話を交わして。
 ふ、と目が合うと、殊更幸せそうに微笑んで。
「………大好きです、ラハールさん」
 フロンの囁く様な告白に。
「………ああ。オレ様もだ」
 応えるラハールの耳は、赤く染まっていた。




 ………余談ではあるが。
 そんな二人を目撃した、天界に住まう天使達は。
 あまりに幸せそうなその様子に、更に悪魔達への警戒や嫌悪の感情を薄れさせたらしい。

作品名:魔王と妃のその後の話 作家名:柳野 雫